肉は増えるが知慧は増えない
2018年最後の連載となりました。1枚目の標語は、石川県小松市にある真宗大谷派の西照寺の掲示板からです。これはNHKのクイズバラエティ番組「チコちゃんに叱られる!」の決め台詞ですね。
好奇心旺盛な5歳児のチコちゃんが、岡村隆史さん(ナインティナイン)ら出演者に、毎回さまざまな疑問を投げかけます。彼らが答えられないと、「ボーっと生きてんじゃね~よ!」と、チコちゃんからすごい剣幕で叱られるのです。
この言葉は「2018ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10にも選ばれました。わたしも何度か観たことがありますが、答えが全然分からず、毎回自分がいかに無知であるかを痛感させられています。
『法句経(ほっくきょう/ダンマパダ)』の中に、こんな言葉があります。
学ぶことの少ない人は牛のように老いる。
かれの肉は増えるがかれの知慧は増えない。
(中村元訳『ブッダの真理のことば/感興のことば』 岩波文庫)
前回は「犀」でしたが、今回は「牛」のたとえ話です。これも日本人には少し分かりづらいかもしれません。このブッダの言葉を借りれば、「ボーッと生きている大人」=「牛のように老いた人」と言えます。知慧が一向に増えず、忘年会シーズンで贅肉ばかりが増えてきている人たちにとっては、なかなか耳が痛い言葉ではないでしょうか。
現在はインターネットの発達などにより、学ぶ手段が格段に増えてきています。仏教の教えもネットからかなりのことを学ぶことができます。いくつになっても遅すぎるということはありません。常にさまざまなことに興味関心をもって、謙虚に学ぶ姿勢を保ち続けたいものです。
過去を振り返るな、未来を追い求めるな
2枚目の掲示板は、「新大阪」駅に近い古刹、真宗佛光寺派の光用寺のものです。
大切なことは
かつてではなく
これからでもなく
ただ、今
これが今年最後の標語のご紹介になります。多くの人が今年を省み、来年の抱負を考えていらっしゃる時期ではないでしょうか。とはいえ、過去や未来を考えている間に、今、この瞬間は過ぎ去っていきます。
『中部経典(マッジマ・ニカーヤ)』の中に、次のような言葉があります。
過去を振り返るな、未来を追い求めるな。
過去となったものはすでに捨て去られたもの、
一方、未来にあるものはいまだ到達しないもの。
そこで、いまあるものをそれぞれについて観察し、
左右されずに、動揺せずに、それを認知して、増大させよ。
今日の義務をこそ熱心にせよ、明日の死を知りえる人はないのだから。
(中村元監修『原始仏典〈第7巻〉中部経典4』 春秋社)
この連載でも何度か触れましたが、3回目でも取り上げたように、大切なのは過去でも未来でもなく、現在です。もちろん、過去の間違いから学ぶことも、将来の目標を立てることも生きる上で重要です。
しかし、人生がうまくいっていないときには、過去や未来の世界を心が漂うかのように、無意識のうちに現実逃避をしているものです。みなさんはそのような「ボーっとした状態」で現在を生きていませんか?
生き方に関する警句をコラムやブログで発しているカート・スミスさんというカリフォルニアの精神科医がいます。彼は「集中力を保つ(stay focused)」ために重要な3つの言葉をこう記しています。
過去を振り返るな(Don’t Look Back.)
未来に生きるな(Don’t Live in the Future.)
現在にとどまれ(Stay in the Present.)
彼の言葉は、先の経典の教えにも通じるものだと思います。新しい年(2019年)をより良いものにするたった1つの方法は、現在に集中し続けることなのです。
このことをぜひ肝に銘じていただき、どうか良いお年をお迎えください!
【お寺の掲示板の深い言葉 43】ボーっと生きてんじゃね~よ!! 牛のように老いないために|ダイヤモンドオンライン から