2007年12月29日土曜日

高等教育政策の動向

文部科学省高等教育局が全国の高等教育機関に発信しているメルマガ「高等教育政策情報」(2007年12月27日第18号)の中から主なもの(抜粋)をご紹介します。

平成20年度高等教育局予算(案)について

平成20年度予算の政府案が平成19年12月24日(月)に閣議決定されました。
文部科学省予算案は前年度に比較して33億円増(0.1%増)となりました。
その中で、高等教育局の主要な予算案は、
  1. 国公私立大学を通じた大学教育改革の支援の充実等(65億円増)
  2. 奨学金事業(85億円増)
  3. 留学生事業(前年度同額)
  4. 国立大学運営費交付金(▲230億円)
  5. 私学助成(▲45億円)となっております。

国公私立大学を通じた支援の新規事業としては、
  • 国公私の複数の大学による多様で特色ある大学間の戦略的な連携の取組を支援する「戦略的大学連携支援事業」(30億円)
  • 大学病院が緊密に連携して医師のキャリア養成を行う循環型の医療人養成システムの推進を支援する「大学病院連携型高度医療人養成推進事業」(15億円)
  • 各大学の国際化戦略に基づいて、単位互換、ダブル・ディグリーなどの相互連携、英語による授業などを総合的・体系的に行う取組等を支援する「国際共同・連携支援」(5億円)が盛り込まれております。

独立行政法人の見直しについて

12月24日の閣議において、独立行政法人整理合理化計画が閣議決定されました。これは、「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定)において、年内を目処に101の独立行政法人について原点に立ち返って見直すことが決定されたことを受けて、行政減量・効率化有識者会議において議論を重ね、11月27日とりまとめられた「独立行政法人整理合理化計画の策定に係る指摘事項」に基づき、政府が決定したものです。

独立行政法人整理合理化計画では、101ある独立行政法人を廃止・民営化、統合により16減らして85とするほか、一般競争入札の原則化、民間競争入札の導入等が定められました。

高等教育関係の独立行政法人については、以下のような事項が決定されました。

■メディア教育開発教育センター
→平成20年度末に法人を廃止した上で、事業の一部を放送大学学園において実施。

■大学評価・学位授与機構及び国立大学財務・経営センター
→統合し、新たな法人を設立(時期未定)。

■日本学生支援機構
→平成20年度中に奨学金回収業務等の民間委託推進、国際交流会館における民間競争入札の拡大等。

■大学入試センター
→平成20年度中に大学入試センター試験の実施業務における民間競争入札の導入等。

■国立高等専門学校機構
→専攻科の見直し等(時期未定)


教育再生会議の動向(第三次報告)について

12月25日の教育再生会議総会において、第三次報告がとりまとめられました。
第三次報告は、「社会総がかりで、『自立して生きる力』と『共に生きる心』を育む」を基本的な考え方として、以下の7つの柱から構成されています。
  1. 学力の向上に徹底的に取り組む ~未来を切り拓く学力の育成~
  2. 徳育と体育で、健全な子供を育てる ~子供たちに感動を与える教育を~
  3. 大学・大学院の抜本的な改革 ~世界トップレベルの大学・大学院を作る~
  4. 学校の責任体制の確立 ~頑張る校長、教員を徹底的に応援する~
  5. 現場の自主性を活かすシステムの構築 ~情報を公開し、現場の切磋琢磨を促し、努力する学校に報いる~
  6. 社会総がかりでの子供、若者、家庭への支援 ~青少年を健全に育成する仕組みと環境を~
  7. 教育再生の着実な実行

また、「3.大学・大学院の抜本的な改革」として、以下の事項が提言されています。
  1. 大学・大学院教育の充実と、成績評価の厳格化により、卒業者の質を担保する
  2. 国立大学法人は、学部の壁を破り、学長リーダーシップによる徹底したマネジメント改革を自ら進める
  3. 「国際化」「地域再生」に貢献する大学を目指す
  4. 大学・大学院を適正に評価するとともに、高等教育への投資を充実させる

教育再生会議では、今後、第一次報告から第三次報告までの提言を踏まえ、来年1月から2月頃に、最終報告をとりまとめる予定です。


学校教育法施行規則の一部改正及び大学院設置基準の一部改正について

-履修証明制度、秋季入学の更なる促進、博士課程の標準修業年限の弾力化-

これまでも随時情報提供をしてまいりましたが、大学等の履修証明制度、大学の秋季入学の更なる促進、博士課程の標準修業年限の弾力化に関する省令改正が行われました。それぞれの改正の概要は以下のとおりです。

<学校教育法施行規則の一部改正について>

(1)大学等の履修証明制度の創設

本年の通常国会において可決・成立した学校教育法等の一部を改正する法律により、大学等の履修証明制度が創設されました。
大学等においては、これまでも科目等履修生制度や公開講座を活用して、大学等における教育研究成果を社会へ提供する取組が行われてきたところですが、社会人等の学生以外の者を対象として一定のまとまりのある学習機会を、より多様な形態で積極的に提供していく取組を促進するため、そのような学習を行った成果に対し、文部科学大臣の定めるところにより、大学等が履修証明書(サーティフィケート)を交付できることを制度化したところです(第105条)。

この法律の施行に合わせ、「文部科学大臣の定め」を規定した省令が公布されました(12月25日公布、26日施行)。省令の規定の内容としては、履修証明プログラムの総時間数を120時間以上とすること、プログラムの名称、目的、内容、履修資格、修了要件などをあらかじめ公表すること、履修証明を実施するために必要な体制を整備することなどとなっております。

(2)大学の秋季入学の促進

また、今年6月の骨太の方針2007等を踏まえ、大学の秋季(9月など)入学を更に促進するため、大学の入学時期を定める規定を更に弾力化しました。
具体的には、現在、大学の学年については、4月1日に始まり翌年3月31日に終わる(学校教育法施行規則において小学校の規定を準用)こととされていますが、これを改め、大学の学年の始期及び終期は、学長が定めることとしました(12月14日公布、平成20年4月1日施行)。

これら履修証明と秋季入学は、いずれも各大学に一律に義務付けるものではなく、各大学の判断により実施できることとするものであり、特に秋季入学については、これまでも4月入学を原則としつつ一部秋季入学を行うことが可能であったものを、秋季入学を中心とすることなどもできるようにするものですので、ご留意いただきたいと存じます。

<大学院設置基準の一部改正について>

さらに、今年6月の骨太の方針2007等を踏まえ、大学院教育の組織的展開の推進に資するため、博士課程の標準修業年限を弾力化しました。
具体的には、博士課程の標準修業年限については、これまでは条文上、夜間大学院の場合に限り、5年(区分制の場合は前期2年、後期3年)を超えることができることとされていましたが、修士課程と同様、「教育研究上の必要があると認められる場合」には、これらの年限を超えることができることとしました(12月14日公布、同日施行)。
この改正は、各大学院がそれぞれの個性・特色の明確化を図り、研究科や専攻ごとの人材養成目的に応じた多様な履修形態を提供したり、柔軟なカリキュラム編成に取り組むことを、より一層促進する観点から行うものであり、各大学院の主体的な判断により、今回の制度改正を活用して、博士課程のコースワークや研究指導の充実を図ることが期待されます。


編集後記

平成20年度政府予算案が決定しました。
厳しい財政事情を反映し、不如意な面も少なからずあります。
一方、平成20年度を始期とする基本計画は、パブリックコメントを終え、これらから様々な目標設定の在り方に関する議論が中教審で本格化します。
さて、ある学会に出向いたところ、「パブコメで意見を出しても何も変わらないのでしょう?」と問われました。
私は、「それは内容次第。変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。ただ、少なくとも、無反応なら容認ととられますよ。」と答えておきました。
「教育再生」が謳われたこの一年。教育政策の決定プロセスは変容を遂げました。
教育再生会議の任務は一区切りを迎えますが、新しい変化の動きは絶えないでしょう。
改革の推進に当たって、行政担当者の見識が一層問われると同時に、大学関係者の積極的な参与が求められます。
ある識者は、「優れた官僚機構をもちうるか否かは、大学と学問がいかに優れているかによって決まる。大学は自分の身にあった官僚機構しかもちえない。逆にまた、官僚機構もまた、自分の姿に似合った大学と学問しかもちえない。国家と大学は依存と対立の緊張関係のなかを、たがいにその姿を作りあっているのである。」(『ドイツ近代科学を支えた官僚』(中公新書))
役所に身を置く者として反省をしながら、来るべき年が大学・行政それぞれにとって進化と発展の時となることを念じます。
それでは、皆様も良い年をお迎え下さい。