2007年12月26日水曜日

教育再生会議第3次報告

政府の教育再生会議が、12月25日、第3次報告「社会総がかりで教育再生を-学校、家庭、地域、企業、団体、メディア、行政が一体となって、全ての子供のために公教育を再生する-」をまとめました。

報道は案の定こぞってネガティブに取り扱っていましたが、完全ではないにせよ我が国の教育の実態を明らかにし、改善の方向性を示したという意味では尊重すべきでしょうし、これを機に各方面の関係者は自分達に向けられた課題の解決を図るために何をしなければならないのか真剣に考え実行すべきではないかと思います。

第3次報告のうち、報道ではさほど熱心には取り扱われなかった高等教育関係について、主な部分をご紹介したいと思います。


大学・大学院の抜本的な改革-世界トップレベルの大学・大学院を作る-



1 大学・大学院教育の充実と、成績評価の厳格化により、卒業者の質を担保する

■大学は教養教育を重視し、産業界等との連携を深め、社会人としての基礎的能力を備えた卒業生を送り出す

■大学院は、質の高い学生のみを入学させ、定員充足に拘らない
  • 我が国が、成長力を高め、国際競争に打ち勝っていくためには、教育においても、世界トップレベルの大学・大学院を作ることが必要であり、「学生の立場に立った」教育組織としての抜本的な改革が必要である。

  • 学部教育については、専攻分野に拘わらず、教養教育を重視する。社会人として求められる汎用的な基礎能力の修得を図るため、学生参加型授業や課題解決型授業などを推進する。このため、国は、GP(Good Practice)*1等を活用して各大学が切磋琢磨する環境作りを行う。また、効果的な教育プログラムの分析や、汎用的な基礎能力の到達度を測る仕組みの構築を促す。

  • 大学は、卒業認定の厳格化と単位・進級の厳格化(GPA(Grade Point Average)制度*2の導入など)を図る。また、学術関係団体や民間機関による学力検定の実施等の仕組みを作り、大学卒業程度の学力や能力の保証に資するようにする。

  • 大学院は、質の高い学生のみを入学させ、定員を充足することに拘らない。一定の水準を満たす短期大学の専攻科及び高等専門学校の専攻科の卒業生に大学院入学資格を与えることを拡大する。

  • 大学の4月入学原則を撤廃する学校教育法施行規則の改正が行われたことを踏まえ、9月入学を更に促進する。

  • 人材育成に関する大学と産業界の連携・協力等のための会議(「産学人材育成パートナーシップ」)の活用や学術関係団体との連携等により、大学は、社会の要請に合った質の高い卒業生を送り出す。また、社会人教育・生涯教育としての機能の強化や、大学・大学院教育の充実のため、民間や公的研究機関の資源の活用も図る。

  • 大学における英語教育を大幅に改善するとともに、外国人教員の採用も進め、英語による授業の大幅増加を目指す。(当面、全授業の30%は英語での授業を目指す)

  • イノベーションを創出し国際競争を勝ち抜くためにも、教育研究施設・設備を整備する。
■大学全入時代の大学入試の在り方を検討する
  • 大学入試については、大学全入時代を踏まえた入学者の質の確保、高等学校以下の教育に与える影響を勘案し、国や大学をはじめとする関係者でその在り方を検討していく。

  • 大学入試センター試験の成績の複数年度利用を更に弾力化するなど資格試験的な取扱いを進め、各大学の自主性に応じた活用がなされるよう国において検討する。

  • 国公立大学の入試日分散・複数合格や、文理区分の在り方について、各国公立大学や関係団体において検討する。

  • 高校での卒業認定の厳格化など高校での学力担保の取組が重要である。将来的な課題として、高卒段階での学力テストの実施を含め学力担保の方策について、国において検討する。

  • 現行の高等学校卒業程度認定試験の合格者を「高卒(高卒程度認定試験合格)」とする。また、同試験の受験科目の弾力化について検討する。

2 国立大学法人は、学部の壁を破り、学長リーダーシップによる徹底したマネジメント改革を自ら進める

■国立大学法人の徹底したマネジメント改革-学長によるトップマネジメントの担保-
  • 大学の運営の両輪は、大学運営に最終的な責任と権限を有する学長による一元的全学マネジメントと、学問原理に基づく各学部のマネジメントであり、その適切な調和が、国立大学法人に求められる大学マネジメントの基本である。

  • 国立大学においては、法人化を踏まえ、ボトムアップ型の運営手法にのみ依存することなく、全学マネジメントの観点を明確に示しながら、日本にふさわしい国立大学法人のマネジメント改革に、大学自らが早急に取り組むことが求められている。

  • このため、大学運営の最終的な責任者である学長が、明確な理念、ビジョンの下に、全学マネジメントを行うことができるよう、各大学で学長、学部長、教授会等に関する役割分担を明確化する。このため、次のような各大学の取組を推進する。
◆学長選挙を廃止するなど、学長選考会議による学長の選出(招聘、公募による登用も含む)の徹底
◆学長による、学部長人事の掌握
◆カリキュラム編成や予算執行に関する役割分担の明確化
■国立大学における学部の壁を越えた柔軟で効率的な教育指導体制の構築のため、総合大学においては、例えば、次のような各大学の取組を推進する
  1. 既存の学部自治による学部の壁を打破し、幅広い教養教育と専門基礎教育を可能とする学部の再編

  2. 複数の学部で同じことを別々の教員が教えるという非効率を排し、既存の学部組織を横断した柔軟な教員組織の再構築

3 「国際化」「地域再生」に貢献する大学を目指す

■国立大学・学部の再編統合、定員の縮減に取り組む
  • 国立大学は、大学や学部の再編統合、18歳人口減少を踏まえた学部入学定員の縮減に自主的に取り組み、真に「国際化」「地域再生」に貢献する「知」の拠点として、教育、研究の質を高める。

  • 公立大学や私立大学についても、「国際化」「地域再生」に貢献する大学として、自主的な判断により、同様の取組を進める。

4 大学・大学院を適正に評価するとともに高等教育への投資を充実させる

■国際競争力、地域の自立を高めるため、厳正な評価に基づき、必要な分野に重点的に投資する
  • 先進国と比較しても、我が国の大学への公財政の支援は少ない。人的資源しかない我が国が、今後国際競争力を維持し発展を続けていくためには、高等教育に対する投資を先進国並に充実させていくことが必要不可欠である。上記のような抜本的な大学・大学院改革を推進するとともに、基盤的経費(国立大学法人運営費交付金、私大経常費補助金)を充実させる必要がある。

  • 大学教育の抜本的な改革を推進するため、必要な施策については、出来る限り効率化を図りつつ、適正な評価に基づき、真に実効性ある分野への「選択と集中」により必要な予算を確保する。基盤的経費については、確実に措置する。各大学の努力と成果をふまえた高等教育予算とするため、基盤的経費と競争的資金の適切な組合せと、一律的配分から評価に基づくより効率的な資金配分へのシフトを図りつつ、必要な教育財政基盤を確保する。基盤的経費についての現在の取扱いについては、しかるべき時期に見直す必要がある。

  • 次期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の配分については、各大学の厳格な評価に基づいた配分が不可欠である。一律的な配分は行うべきではない。研究面、教育面、地域の人材育成への貢献、企業や地域社会との連携、大学改革への取組状況などの客観的な根拠資料、データ(他大学との相対的な比較が可能なデータを含む)をもとに客観的かつ公平な評価に基づいた配分を実現する必要がある。これらを通じ、各大学の機能分化を促進する。また、国立大学は、入試情報、財務状況や、産業界や地方自治体との連携・協力の状況など大学に関する様々な情報を公開し、透明性の向上に努めるべきである。

  • 世界トップレベルの大学・大学院を創出するためには、長期的視野に立った高等教育への投資プランを作成していく必要がある。今後、絶え間なく大学・大学院改革を推進しつつ、例えば、今後20年を見通したあるべき高等教育の姿を描きながら、先進国並の高等教育への投資を社会全体で検討していく必要がある。その際、公財政支出の充実に努めつつも、公財政投資のみに頼るのでなく大学自らの自助努力を促進すべきであり、民間からの教育投資を促進するため、民間企業や個人等からの寄附金、共同研究費等に係る優遇税制の充実・強化等についても検討していく必要がある。
教育再生会議におけるこれまでの審議経過を眺めてきた限りにおいては、多様な意見がある中でよくまとまっているのではないかと思います。

特に、国立大学のマネジメント改革に言及している部分については、長い年月にわたって大学を支配し、社会との隔絶を誘引してきた「部局自治」という考え方を真っ向から否定し、我が国の高等教育の将来にとって不可欠な学長によるトップマネジメントを実現するための方向性を示したことは、これまでにない勇気ある行動であり、評価に値することだと思います。

おそらくは、このことを憲法上保障された学問の自由、すなわち大学の自治に対する国権の介入などとして批判する教員は必ず存在するのでしょうが、もはや時代は、あるいは社会は、これまで手を出すことがタブーとされてきた教員にとっての聖域である「部局自治」を放置する、甘受することを許さない高いモラルを持ち始めたのではないでしょうか。



*1:各大学が自らの大学教育に工夫を凝らした優れた取組で他の大学でも参考となるようなものを公募により選定する国の事業

*2:授業科目ごとの成績評価を、例えば5段階(A、B、C、D、E)で評価し、それぞれに対して、4・3・2・1・0のようにグレード・ポイントを付与し、この単位当たりの平均を出して、その一定水準を卒業等の要件とする制度