2012年2月2日木曜日

人を育てる(ドラッカー)

組織は人を変える。否応なしに変える。成長させもすれば、いじけさせたりもする。人格を形成させもすれば、破壊したりもする。

人を育てることについて、われわれは何を知っているか。かなりのことを知っている。特に、何を行うべきでないかについてよく知っている。行うべきでないことのほうが行うべきことよりもわかりやすい。したがって、ばかばかしい間違いは避けなければならない。

第一に、不得意なことで何かを行わせてはならない。学校は生徒のできないことに力を入れる。小学校四年生の三者面談では、「ジョニーは作文がうまい。もっと書かせましょう」とはいってくれない。「算数が弱いので九九をやらせてください」といわれる。

学校の場合はそれでよい。10年後、20年後のことはわからない。基礎を身につけさせ、はなはだしい弱みはなくさせなければならない。しかし、組織で人に働いてもらうには、弱みを気にすることなく強みを生かさなければならない。成人して働くようになった頃には、個性はできあがっている。礼儀、態度、スキル、知識は学ぶことができる。だが個性を変えることはできない。

第二に、近視眼的に育ててはならない。身につけさせるべきスキルはある。だが人を育てるということはそれ以上のことである。キャリアと人生に関わることである。仕事は人生の目標に合わせなければならない。

第三に、エリート扱いをしてはならない。かつて、新卒者から有望株を探すことがはやったことがある。私は1940年頃からいろいろな種類の組織から相談を受けている。私の経験によれば、23歳の有望株が45歳のばりばりになる保証はない。50歳で世界を舞台に活躍している者が、23の頃は薄ぼんやりした青年だったりする。逆に、ビジネススクールをトップで出た者が、6年後には早くも燃え尽きたりしている。

私が知っている中で、人を育てることがいちばん上手な人は、ある大きな教会の牧師である。彼の教会からは大勢のボランティアがリーダーとなって巣立っている。あるとき私はどうやっているのかと聞いてみた。

彼は、若い人たちには四種類の教師を用意してやっているという。第一に、導いてやる相談相手である。第二に、スキルを伸ばしてやる指導者である。第三に進歩を評価してやる評価者である。第四に励ましてやる激励者だという。

彼自身はそのうちどの役を果たしているのかと聞いたところ、「激励者だ。この役はトップにいる者にしかできない。失敗を経験させることが必要なだけに、この役がいちばん大事だと思う。人は失敗することによって育っていく。したがって倒れたとき助け起こしてやる者が要る。それが私だ」といっていた。