去る7月24日(木曜日)に開催された「国立大学法人学長・大学共同利用機関法人機構長等会議」における文部科学大臣の挨拶(要旨)をご紹介します。
本日は、大変にお忙しい中、本会議に御出席をいただき、厚く皆様方に御礼を申し上げたいと存じます。また、各学長・機構長の皆様方におかれましては、日頃より我が国の高等教育と学術研究の発展にご尽力をいただいていることを、心から感謝申し上げたいと思います。
「知識基盤社会」と言われる21世紀におきまして、社会経済の高度化、複雑化、グローバル化が進む中におきまして、少子高齢化に直面する我が国が、今後も世界に互して成長、発展していくためには、一人一人の能力や可能性を最大限に引き出し、付加価値の高い生産性を高めていくことが重要であります。
特に、安倍内閣が掲げる「三本の矢」の一つである成長戦略の重要な柱である、科学技術イノベーションを進めていくためにも、高度な人材が必要となります。高度な人材の育成を担う大学の役割はますます重要になってきていると考え、私は、この大学の質と量をさらに充実をしていくことが必要であると、それは、各国が競うように、大学教育を含めた高等教育に力を入れているということからも明らかでございます。
「大学力は国力そのもの」であり、このままでは日本が世界の中で沈没しかねない。これから、大学を中心とする高等教育の再生に向けて、しっかり取り組まなくては、日本の再生はあり得ないと考えております。しかし、我が国の大学におきましては、一つは、大学生の学修時間が短い、また、社会からの期待に十分応えられていないのではないか、あるいは、国際的な評価が必ずしも上昇していないのではないかなど様々な課題が指摘されています。
こうした課題を克服しつつ、人材育成や学術研究、産学連携などを通じ、我が国の成長と発展への積極的な貢献をしてほしいという社会の大きな期待に国立大学が応えることができるよう、各国立大学及び大学共同利用機関法人の機能強化を強力に進める観点から、昨年11月、「国立大学改革プラン」を策定いたしました。
文部科学省では、このプランに基づきまして、平成27年度までの改革加速期間中に、各大学の強み・特色、社会的役割を中心としたグローバル化、イノベーション創出などの機能強化、年俸制の積極的な導入促進を柱とした人事・給与システム改革などを進めているところでございます。
文部科学省としては、主体的・積極的に改革に取り組む大学に対する重点的・戦略的な支援を進めていくため、厳しい財政状況ではありますが、平成26年度の国立大学法人運営費交付金につきましては、法人化以後初めて増額を確保したところでございます。
国立大学法人運営費交付金のほかにも、例えば、グローバル化への対応については、官民が一体となって留学の機運を醸成するため、留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」を展開すると、これだけで民間から既に90億近くのファンドも獲得できているところでございます。また、「スーパーグローバル大学創成支援」によりまして、世界水準の教育研究活動を行う大学への支援を開始するなど、積極的な取組を進めていきたいと考えております。
また、イノベーション創出につきましては、今年の4月に施行された産業競争力強化法に基づき、国立大学法人から大学発ベンチャー支援会社への出資制度などを活用して、これまでにない国立大学の新たな取組がスタートしつつあります。
国立大学は、こうした社会からの期待に対して、スピード感をもって、目に見える形で応えていただきたいと思います。「改革に真剣に取り組まない国立大学については淘汰されてもやむを得ない」、そのような声も社会には存在しております。旧態依然の大学運営では、厳しい国際社会の中で勝ち残っていくことは大変難しくなっており、また、地域社会が求める人材育成を行っていくことができないことを改めて自覚していただいた上で、緊張感を持って改革に取り組んでいただきたいと思います。
特に、国立大学の機能強化を進めていく上で、全学的視点からの資源の再配分などを進めていくためにも、学長がリーダーシップを確立し、発揮することが不可欠です。
一方で、我が国の大学においては、権限と責任の在り方が明確ではないと、あるいは意思決定に時間を要し迅速な決定ができていない、また学内の都合が先行し、十分に地域や社会のニーズに応えるような大学運営が行われていない、そのため、急速な社会構造の変化に対応した大学改革を実施することが難しいということが指摘されておりました。とりわけ、教授会については、改正前の学校教育法におきまして、その役割が必ずしも明確ではなく、予算の配分など大学の経営に関する事項にまで広範に審議されている場合があったりし、本来審議機関であるにもかかわらず、実質的に決定機関として運用されている場合があるなど、学長のリーダーシップを阻害しているとの指摘がありました。
私は、本年一月に開催された世界大学学長会議や、各国の有力大学の学長との意見交換を通じまして、世界トップレベルの大学が、学長の強力なリーダーシップの下で、魅力ある大学づくりに向けて、たゆまぬ努力をされていることを痛感いたしました。同時に、このままでは日本の大学は衰退してしまうのではないかという強い危機感を覚えました。
これらの課題を解決し、改革に積極的に取り組む学長を後押しするため、中央教育審議会大学分科会におけるとりまとめを踏まえ、「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」を先の国会に提出し、6月20日、国会の審議を経て圧倒的な多数によって、野党の賛成も得、成立することができました。今回の法改正によりまして、学長補佐体制の強化、教授会の役割の明確化、国立大学の学長選考の透明化等の改革が図られることになったわけでございます。
学校教育法におきましては、一つは、副学長の機能の強化に加え、さらに教授会が教育研究に関する事項について審議する機関であり、教授会が決定権者である学長に対して意見を述べる関係にあるなど、教授会の役割、権限、位置づけを法律上明確に規定したところでございます。
また、国立大学法人法については、大学のミッションや社会のニーズに照らしてふさわしい候補者の選定が進むよう、学長選考会議による主体的な選考を促進するため、学長選考は、学長選考会議が定める基準により行うこと、また、当該基準や選考の結果などを公表することを義務づけるということにいたしました。さらに、社会や地域のニーズを的確に反映した運営を確保する観点から、経営協議会に占める学外委員の割合を「過半数」としたところであります。
ガバナンス改革は、この法律改正だけでは完成をいたしません。各大学の内部規則等を法律改正を踏まえて見直していただくこと、そして法律改正の趣旨を踏まえて運用していただくことが重要であります。
文部科学省では、各大学の内部規則等の見直しが円滑に行われるよう、国立大学の関係者を含む有識者会議をすみやかに開催し、各大学の学内規則の見直しの在り方についての検討を行い、その結果を施行通知で周知することといたしました。各学長におかれてましは、法改正の趣旨を十分踏まえた上で、内部規則等の総点検・見直しに早急に取り組んでいただきたいと思います。
なお、今回の国会審議におきましては、学長がその権限を適切に行使する観点から、教職員との丁寧なコミュニケーションや監事その他の様々なチェック体制を充実する必要性が指摘されました。
このため、各国立大学におかれては、学長選考会議による学長の業務執行状況の業績評価を実施していただきたいと思います。また、監事については、先の国会で独立行政法人通則法に伴い国立大学法人法の改正が行われ、その機能の強化が図られたことも踏まえ、大学の規模等に応じて、できる限り常勤監事としていただくことも検討していただければ思います。さらに、監事をサポートする学内体制の充実についても併せてお願いしたいと思います。
次に、「高大接続」について説明申し上げたいと思います。
高校教育、大学教育と大学入学者選抜を一体的に改革する「高大接続」の見直しについては、昨年10月の教育再生実行会議第四次提言を受け、現在、中央教育審議会の高大接続特別部会で具体策などの議論が行われているところでございます。
高大接続の見直しは、単に大学入試センター試験の見直しといった小さな話ではなく、これからの大学教育、高校までの初等中等教育、また日本社会全体の人材育成に関わる極めて重要な課題であると捉えております。
教育再生実行会議は、これからの日本や世界を担う若者達に、志や使命感、規範意識、幅広い教養と日本人としてのアイデンティティ、コミュニケーション能力、課題発見・探求・解決能力、リーダーシップ、豊かな感性などを培うため、高校教育の質の確保・向上、そして大学の人材育成機能の抜本的強化、さらに能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価しうる大学入学者選抜制度への転換の三つを一体的に進めることを提言いたしました。
これを実現することは、日本が今後、ますますグローバル化する世界の中で発展していく上で必須の課題となるものであり、不退転の決意で臨む必要があると考えます。
中教審では今後、答申に向けてさらに議論を深める予定であり、文部科学省ではそれを受けてスピード感をもって改革を実行していく予定でございます。
日本の高度人材育成の中核である国立大学は、この「高大接続」の見直しについても是非率先して取り組み、範を示していただきたいとお願い申し上げます。
(1)具体的には、大学教育に関しては、各大学において、学生の主体的な学びを促す「大学教育の質的転換」を進め、成績評価や卒業認定の厳格化に取り組むことが必要です。
(2)大学入学者選抜に関しても、中教審で検討中の新たな「達成度テスト」の導入を待つまでもなく、アドミッション・ポリシーに基づき、必要な学力水準の確認とともに、面接、論文、高校の推薦書、高校時代の多様な活動歴、大学入学後の学修計画を評価するなど、様々な方法による丁寧な入学者選抜をできる限り積極的に推進していただきたいとお願い申し上げます。既にいくつかの大学でそのような取組や計画が進んでいるところでございますが、その加速、拡大についてここで改めてお願い申し上げたいと思います。
このように、答申の実現を待たずに実行できること、実行すべきことは、是非、迅速に取り組んでいただくようお願いします。
次に、国際バカロレアについてお話申し上げます。
国際バカロレアは、これからの我が国を支えるグローバル人材の育成の観点から、非常に優れたプログラムであり、政府としても、国内の認定校を現在の19校、インターナショナルスクールが中心でございますが、これを一般高校まで拡大し、2018年までに200校の高校を増加させる目標を掲げております。
これまで日本の高校生にとって、日本の大学に入学した後、海外留学するというパターンが普通でありましたが、国際バカロレア資格を取得して、高校卒業後、直接海外の大学に入学するという選択肢が2018年以降、一気に広がってまいります。
この結果、日本の高校生にとって日本の大学が魅力的でなければ優秀な学生は海外大学に流出してしまう懸念も出てくるわけであります。
一方、世界には国際バカロレアを採用している高校が約3700校あり、大学入試で国際バカロレアを活用し、魅力ある大学をつくりあげていくことによって、国内のみならず海外からも優秀な学生を大学に集めることができ、大学の国際化や活性化にも資する、このような国が141力国を超えております。
教育再生実行会議第四次提言でも、大学入学者選抜における国際バカロレアの活用が掲げられており、各国立大学においても、その推進に積極的に取り組んでいだきますようお願いを申し上げたいと思います。
最後に、平成28年度からの第3期に向けて、国立大学の目指すべき方向性についてお伝えしたいと思います。
第3期に目指す国立大学の在り方として、国立大学改革プランでは、「各大学の強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することにより、持続的な『競争力』を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学」を掲げております。
「各大学の強み・特色を最大限に生かす」ことにより、例えば、世界最高水準の教育研究拠点を目指す大学、あるいは特定分野で全国の拠点となる大学、また地域の活性化を支える大学、そういった機能強化の方向性を明確にすることとなります。今後は、こうしたそれぞれの方向性に沿った支援を考えていかなければならないと思っております。
その上で「自ら改善・発展する仕組みを構築する」ことで、硬直的な組織構造から脱却をし、学内の資源配分の在り方をしっかりと見直すことのできる大学への支援を進めていく必要があります。
こうした改革を実現すべく、文部科学省では、今後、改革加速期間における取組を踏まえ、第3期における国立大学法人運営費交付金や評価の在り方について、平成27年度までに検討し抜本的に見直すことといたしました。
また、今回の法改正の附則に位置づけられたとおり、改正法の施行の状況、国立大学法人を取り巻く社会経済情勢の変化等を勘案し、国立大学法人の組織及び運営に関する制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講じることとしております。こうした動向については、各国立大学に対しても、適宜お知らせしていきたいと考えております。
今後、各国立大学法人・大学共同利用機関法人におきまして、第3期中期目標・中期計画に関する検討が具体的に進んでいくことになると承知しております。各法人は、第3期に向けて「ミッションの再定義」「国立大学改革プラン」等を踏まえまして、自らの強み・特色を明示し、国立大学としての役割を果たしていくため、一つは、大学として明確かつ具体的な目標・計画を定めること、また、二つ目に、高い水準の目標設定を行うことについて検討していただきたいとお願いいたします。
文部科学省では、各国立大学及び大学共同利用機関法人としっかりと議論しつつ、意欲的な各大学の取組に対する支援を今後とも積極的に行ってまいりたいと考えております。