「大学の敷居」(2014-08-03 福島民報)をご紹介します。
産官学連携などを議論する場で、「大学は敷居が高い」とよく言われる。言葉の意味をあらためて調べてみると、「不義理や面目のないことがあって、その人の家に行きにくい」(デジタル大辞泉)と記されている。
その補説には、「文化庁が発表した平成20年度『国語に関する世論調査』では、『あそこは敷居が高い』を、本来の意味である『相手に不義理などをしてしまい、行きにくい』で使う人が42・1%、間違った意味『高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい』で使う人が45・6%という逆転した結果が出ている」とある。
先の指摘は、解説にある間違った意味に当たるが、一般には、「大学は訪ねにくいところ」と考えられているようである。
専門分野については、大学で行われている研究は先端的なものであるが、大学は専門分野の「技術レベルが高い」「周辺技術に関する多くの情報を持っている」と認識されるべきである。専門性の高い教育・研究を行っていることが、専門家以外にとっては「訪ねることが難しいところ」という印象を与えているのかもしれない。
大学は教育・研究機関であることはもちろんだが、その役目の一つには、さまざまな形での地域貢献が含まれている。そして、地方中核都市にある大学の教育は、地域社会に支えられていることも多い。
地域社会の支援に感謝を込めた社会貢献の一環として、本年4月に落成した屋内相撲道場は、子どもたちに安全・安心な運動の場を提供するため一般開放している。
開放を機会に、小学生から社会人までのメンバーで郡山北桜相撲クラブを結成して毎日汗を流している。メンバーの中には所属中学校で県大会団体準優勝などの戦績を残すものが現れている。
各地域の優れた指導者のもとでこれまで練習を重ねてきたことに加え、施設利用と大学・高校コーチの指導がそれを後押ししていると考えると、大学の使い方も広がってくる。
大学保有の財産の中には、教職員の知的財産、学生という人材、各種の施設がある。これらを有効に活用して地域の活性化につなげたいと考えている。大学との連携というと、知的財産の活用にとらわれていないだろうか。
2009年まで天栄村で開催されたYOSAKOIソーランジュニア東日本大会(現在は下郷町で開催)は、大学生の支援がなければ運営は困難であったと伺っている。学生という人材の活用例である。
工学に関して、ものづくりの原点は人づくりにあると思って、教育・研究に携わっているが、大学保有のさまざまな財産を地域社会で活用していただくことも地方中核都市にある大学の役目の一つである。その時、間違った意味での「大学の敷居」は高くない―と捉えてほしい。(出村克宣、日大工学部長)