2014年9月22日月曜日

オープンアクセスジャーナル論文処理費用への対応

国立国会図書館が運営する「カレントアウェアネス・ポータル」から大学/研究機関はOA費用とどう向き合うべきか<報告>」(2014-09-11)をご紹介します。


2014年8月4日、国立情報学研究所において第1回SPARC Japanセミナー2014「大学/研究機関はどのようにオープンアクセス費用と向き合うべきか-APCをめぐる国内外の動向から考える」が開催された。以下、概要を報告する。

はじめにセミナー企画者の一人である東京大学附属図書館の金藤伴成氏による趣旨説明が行われた。オープンアクセス(OA)雑誌における論文処理加工料(APC)について、Wikipedia英語版には「著者自身ではなく所属機関や研究資金提供者が支払う」と書かれていることを引きつつ、これは資金の出処が所属機関等であるというだけではなく、支払い手続きも機関が担うという意味に広げて捉えられるとし、機関がAPCに向き合うことの必要性が述べられた。

次いで京都大学附属図書館の井上敏宏氏により、2013年度に実施されたOA雑誌に関する2つの調査、SPARC Japan OAジャーナルへの投稿に関する調査ワーキンググループによる「オープンアクセスジャーナルによる論文公表に関する調査」と、国立大学図書館協会学術情報委員会学術情報流通検討小委員会による「オープンアクセスジャーナルと学術論文刊行の現状」の概要報告が行なわれた。SPARC Japanによる調査については、その結果を踏まえ、APCについても価格交渉を誰かが行わなければ、電子ジャーナル同様の価格高騰が起こるのではないか、との危惧が述べられた。学術情報流通検討小委員会による調査については、井上氏自身も委員として参加したもので、Web of Science収録雑誌を対象に、Directory of Open Access Journals(DOAJ)によってOA雑誌を特定し、論文出版数の推移を分野ごと、国ごとに見たものである。分析の結果として、OA雑誌掲載論文の増加率は購読型雑誌掲載論文の増加率を上回っているものの、現在のシェアは10%未満であり、雑誌購読費に関する悩みは当面継続する、との予測等が述べられた。

続いて旭川医科大学図書館の樋口秀樹氏、日本原子力研究開発機構(JAEA)の早川美彩氏により、APC把握に関する活動事例が報告された。

樋口氏は旭川医科大学におけるAPC把握の試みを紹介した。資料購入費については多くの大学で、教員個人が購入した場合でも図書館を経由して会計処理をしているが、APCは会計処理のフローがはっきりせず、情報が散逸している。そこで旭川医科大学ではAPCや別刷料は全て図書館が処理するとアナウンスし、これにより私費以外の全ての支払い状況を把握できるようになった。このように機関全体のAPCに関連する情報を図書館が得ることはそれほど難しくはないものの、伝票等からはAPCであることや、支払先がわかりにくい場合も多く、集計は困難であることも紹介された。

早川氏はJAEAの研究開発成果管理業務を紹介した。JAEAでは研究者の論文・口頭発表情報の取りまとめと、抜刷料等の外部発表助成業務を図書館が担っていて、APCの支払いも図書館が行っている。図書館がこのような業務を担うことには、研究室の規模による格差の是正や事務手続きの効率化、研究者のOA雑誌に関する悩みを図書館が把握できること等のメリットがあると述べた。一方で、外部発表助成は当初は高額なAPCを想定したものではなかったため、近年APCに係る費用負担が課題となっていることも述べられた。

最後に登壇した三重大学人文学部の三根慎二氏は、APCに関する近年の国際動向をまとめた。英国におけるFinch Reportの発表以降、APCが海外で話題になっているとした上で、関連する各領域の現状が述べられた。発表の最後には2014年3月に発表されたレポート、“Developing an Effective Market for Open Access Articles Processing Charges”の概要が述べられた。助成機関等がAPCを無条件に支払うと、研究者は価格を気にせず発表するので価格競争がなくなり、出版者がAPCを吊り上げかねない。レポートの結論ではAPC市場の革新性を維持し、価格競争を保証せねばならないと述べているという。

休憩を挟んだ後に行われたパネルディスカッションでは、日本の研究者とOA雑誌・APC、大学・研究機関によるOA雑誌論文数・APC支払額の把握、誰がAPCの支払いに関わるのか、機関によるAPC負担・関与のモデルと財源等のトピックについて、活発な議論が交わされた。ディスカッションの最後にはモデレータの金藤氏から、当面何をしていくべきかについて提案がなされた。具体的には、国際動向の把握や、各機関におけるAPC支払い状況の把握、ステークホルダー間の対話の必要性等とともに、機関がAPCに関与するにしてもしないにしても、予算化の前提としてOAに対するポリシーをまず固めることが必要であることが述べられた。

セミナーを通して、機関としてAPCに向き合う必要性は感じているが、しかしどう関わればいいのかわからないという図書館側の戸惑いが感じられた。いずれにしても判断を下すためには、現在のAPC支払い状況を把握することが必要であり、その方法については本セミナーの発表等が参考になるだろう。(同志社大学社会学部・佐藤翔)

Ref:
http://www.nii.ac.jp/sparc/event/2014/20140804.html
http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/report/pdf/apc_wg_report.pdf
http://www.janul.jp/j/projects/si/gkjhoukoku201406a.pdf
http://www.wellcome.ac.uk/stellent/groups/corporatesite/@policy_communications/documents/web_document/wtp055910.pdf
E1579
E1495