2008年10月25日土曜日

アドミニストレーターの創造(2)

刀根實氏が書かれた「大学組織と大学行政管理職員」のご紹介を続けます。

大学組織と構成員の関係

1 大学組織と構成員の位置関係

大学全体の組織と、その中の一部としての事務組織を考えた場合、先に述べたように、手段としての経営管理を支える教育研究機関と、経営管理機関とにまたがって事務組織が横断的に位置している。ここでは、大学における経営管理の手段としての事務組織の関係について考えてみる。

経営管理の目的は、組織体として大学の存続・成長を基本目的とし、その基本目的の実現のために、大学が現在の経営環境の中で保有している人材、組織、資金、施設・設備、システムなど経営の諸要素を組み合わせ、財政との調和によって教育活動、研究活動、社会活動として展開することである。その目的を遂行するために大学組織を構成しているメンバーが役員(理事)、教育職員、事務職員である。これら構成員の概要を要約すると次のようになる。

最初に理事などの役員であるが、我が国の大部分の私立大学の場合、自校の教育職員・事務職員・卒業生から輩出しているケースがほとんどである。このことは、専門管理職としての役員を大学組織内に配置していないことを意味し、アメリカの大学における理事会メンバーの約40%が企業関係者であることと比較すると、経営管理の専門性に対する意識の相違が明確に見えてくる。そのためアメリカの大学理事会では、大学の管理構造を企業の権威形態と類似しているものと考え、トップダウンの経営を支持する傾向があるのに対し、日本の大学は日本的経営を持ち込んだまま、ボトムアップの経営を第一義としている。さらにつけ加えるならば、大学の理事会メンバーは日米を問わず、一般的に言って教授団や事務職員が考えているよりもずっと保守的であることも付記しておかねばならない。

第二に教育職員である。当然のことながら教授会のメンバーとして、大学の教育活動と研究活動という根幹の計画を策定するという重要な役割を担っている。一部教育職員によっては、図書館長や大学付置の研究所長や各センター長として責任ある役職を任命され、大学組織から意思決定を委ねられている場合もある。それぞれの立場に応じた計画の策定と、それに伴う責任を委譲されているケースである。しかし、こうした場合はごく少数で、大部分の教育職員が意思決定に具体的に拘束されているのは、学生に対する教育についてだけである。澤田進中央大学学長室長(当時)が指摘したように、教育職員にとって大学に対するロイヤリティーよりも自らの専門分野での学会で、いかに認められるかが最大の関心事となる場合が多いのも、やむを得ないのである。

そして最後に事務職員である。大学の目的である教育研究機関と経営管理機関を支援する機能として、事務組織が存在することは前述の通りである。特に環境適応の面から考えた場合、組織の中で大学が抱える問題を、長期的かつ断続的に認識し、課題として取り組み、実行に移していけるのは事務職員しかいない。大学経営の管理運営がマネジメントという表現方法になったことを考えても、これからの事務職員は、大学での行政管理を念頭にいれた意識改革を続けていかなければならない。すでにいくつかの大学では、事務職員が大学の役員になり、大学全体の意思決定に関わってきている。こうしたことからも、個々の事務職員に対する能力開発が重視され、かつ個々の大学戦略と連動した形でのキャリア・デベロップメントが、今後ますます導入されていくことは間違いない。そのため、組織内・外での自己啓発と、組織内での昇進や異動と直結した人事システムの構築がますます必要となってくる。

大学事務組織の構成については、各大学の歴史や規模により各専門部門が設けられている場合と、そうでない場合がある。通常、学生に関する学籍異動、単位認定、就職活動支援などを主に取り扱う学生サービスのための事務部門と、財務、施設、人事など学生サービスに直接関係のない純粋に大学経営のマネジメントを取り扱う管理部門によって構成されている。何れの場合も、事務を取り扱う内部組織の責任者として事務局長、あるいはその補佐役が置かれ、各部門の責任者が部下と協働して業務が遂行されていく。行政管理に携わる大学職員を創造するためには、先の両部門においても、リーダーシップが発揮出来る人材が必要とされていくだろう。

2 組織形態と意志決定

大学の事務組織として特徴的なことは、事務職員側が単独で意思決定を行い、計画策定や実行に関わるのではなく、委員会制度を設けている点にある。教授会の専管事項である単位認定などについて、委員会が設けられ教員団から選出されたメンバーの協議により、意思決定がなされるのは不思議ではない。これらに加えて、経営管理、つまりマネジメントの部分、例えば財務、人事、施設といったものまで、ほとんどの大学が教員団から成る委員会組織を設置している。これは今まで述べた大学の二元的構造に由来するわけだが、こうした委員会組織と現実の事務作業を遂行していく事務職員側との調和が、大学組織において不可欠となる。その意味でも大学行政管理職員には、そのパートナーである教育職員と同等な議論を戦わせるだけの能力(後程、述べる)が必須条件となってくる。

こうした組織的な事務職員の存在意義から見ても、大学行政管理学会の設立趣旨にも謳われている大学という場において行政管理の出来る職員=アドミニストレーターの創造は、もはや避けることの出来ない課題である。大学でのアカデミズム(academism)と同様に、早急にアドミニズム(adminlsm)を創造すべきであると考える。ここで言うアドミニズムとは事務職員による、大学経営というビジネス・マネジメントの大きな「うねり」と捉えて頂きたい。そのうねりを創造し、継続させていくことこそ、事務職員が行政管理を行うということにほかならない。

先述の目的を達成するためには、事務職員による数々のスキル・アップが必要であり、そのためのマトリックスを開発し、「アドミニ」マンダラ・モデル(Admini-Mondala-Model)」と名付けることとした。これは、その核となる中央部に高等教育研究機関としての使命(ミッション)を配置し、それを取り囲むように8個の資質・能力(Finance・Network・English・Marketing・Communication・Risk Management・Professional・Digital Skill)を配置したものである。重要なことは、これらそれぞれが独立しているのではなく、相互作用している点にある。次の章ではこれからの大学行政管理職員に必要な資質について述べてみたい。