2008年10月29日水曜日

アドミニストレーターの創造(4)

中京大学の刀根實氏が書かれた「大学組織と大学行政管理職員」の中から、アドミニストレーターとして備えるべき能力を前回に続きご紹介します。

今回は、「Digital skill」、「English」、「Communication」、「Network」です。

Skill 4 デジタル・スキル

そこで、3つ目の能力として忘れてはならないのが、Digital Skillである。ワープロや表計算はもとより、ウエブサイトからの国内・外のあらゆる情報を、自らの大学経営にとって必要なものと、そうでないものとに識別する能力までも含めてのスキルである。ただ単にキーボードを打てるだけでは全く意味がない。膨大な情報量の中から迅速かつ正確に、明日への布石となる情報を手に入れておくことは、教育産業という戦場で戦う事務職員の第一歩である。米国の高等教育研究産業で働く人々によく知られている「The Chronicle of Higher Education」のホームページからは、小規模大学の学長職から、学部長や事務職員など、数百にも上るポストの募集が常時行われている。日産自動車やマツダ自動車の例を見るまでもなく、国内に良い人材を見つけることが出来ないなら、海外から優秀な能力を持った人材を捜し出す時代がすでに始まっている。

また、米国の進んだデジタル・テクノロジーはすでに大学にも導入されている。ボイスメールシステムがその一例である。このシステムは米国大学では学生教育サービスの一環として、頻繁に利用されている。ボイスメールシステムとは、教員研究室あるいは各学部センター事務室に設置してある電話機に、ホストコンピュータを利用しての留守番電話機能サービスのことである。これは、早急に連絡が必要な場合にメッセージを残すことにより早い段階で相手に伝えることが出来るため、非常に有効な手段として全教職員・学生に利用されている。また、学生からの問い合わせにも適宜柔軟に対応可能となり、学生サービス向上の一端を担っている。我が国でもコンピュータセンターなどに設置してあるサーバーを拠点とし、この種のサービスを展開することにより教職員相互、または学生間とにおいて無駄のない伝達があらゆる場面で対応可能になると思われる。国を挙げてのIT革命は、大学を始めとする高等教育研究機関から真っ先に始めなくてはならないところではあるが、やはり企業を中心とした実社会が進んでいるのが現実である。

Skill 5 手段としての英語

先程からホームページなど、コンピュータを用いたテクノロジーの先進事例を挙げているが、それを理解する際に欠かせないのが語学、特にEnglishである。21世紀も米国が世界のフロントランナーとして先頭集団を引っ張っていくことは、今のところ誰しも認めるであろう。その米国がIT産業と組んで走るのであれば、英語はもはや世界の共通語となってしまう。理解出来ない、話せないといったレベルではビジネスは成立しなくなるのだ。もちろん、米国以外にも中国・インドといった国々も忘れてはならない。がしかし、我が国でも小学校からの英語教育導入が実施されようとしている今、事務職員が改めて英語を学ぶ意義は極めて大きい。先日も日本経済新聞に、ある不動産関連企業の社長が、英語を自らの会社の共通語であると掲げ、自らTOEIC(ビジネス英語能力を判断するための語学認定試験)を受験したところ、満点980点のところ950点という高得点だったという記事が掲載されていた。この社長は学生時代を含め、留学経験も海外赴任経験もないと書かれていた。全社員に英語の重要性を認識してほしかった、そのために一心不乱に勉強に取り組んだ、とも加えられていた。新世紀へのアドミニズムを実践していくためには、まだまだ実社会から学ぶべきことは多い。そのための海外研修・人事制度など整備されている大学はまだまだ少ないように思えるのは筆者だけだろうか?

Skill 6 コミュニケーション

パソコン、英語とくれば次は、Communicationを挙げなくてはならない。ハイテク機器を操作出来ても、米国人と対等に英語が話せても、最終的には日本人としての心(マインド)が無くては、理解しあえない。我が国でもコミュニケーションを学部・学科として設置する大学が増えてはきたが、さらに専門的な一分野として認識すると共に、ビジネス・スキルとしてのコミュニケーションを教育業界も導入し、実践に移す時代が到来している。先に述べたボイスメールシステムひとつにしても、導入するだけで「言った」「言わない」などの誤解を著しく軽減させ、コミュニケーションを数段向上させてくれる。ペンシルバニア大学ウォートン校ビジネススクールの調査では、日本人・アメリカ人・ヨーロッパ人のうち日本人が最も海外勤務に適し、アメリカ人が最も適さないとの回答が出ている。日本人の適応能力は実はよく知られたところである。

アジアカップで日本人チームを優勝へ導いたフランス人指導者フィリップ・トルシエ監督は次のように語っている。「日本人は自己表現が足りない。私は選手の自己表現の幅を広げようと努力してきた。でも日本人のそういうメンタリティーが武器にもなりうるのかもしれない。」監督がどう仕向けても選手は内に秘めたものを表現しない。個を殺して集団の中に埋もれる。監督の言葉に疑問を投げかけることが無い。良く言えば和を重んじる。監督はそれが理解出来ずにいた。サッカーという競技では表現力の欠如がマイナスに働く。監督はレバノン入りしてからも、その点を指摘していた。「フリータイムを与えても、選手は同じ服を着て、一緒にバスに乗ってレストランに出かけ、同じメニューを注文する。フリータイムだというのに日本人は組織を重んじる」。だが、そういう精神性を備えていたからこそ、日本チームはトルシエのサッカーを急スピードで吸収出来たとも言えよう。ボールも使わずラインの上げ下げを繰り返させるなど、トルシエの最初の練習は特に初期の頃、極めて単調だったと聞く。欧州なら、嫌気がさしてエキセントリックな監督と対立する選手が出ていただろう。感情を外に出して叫ぶことなどしなくても、気持ちを高め、しかも和を形成し集団の中で力を発揮する選手たちの強さを感じ取ったと言う。こうしたコミュニケーションの事例を、監督を大学管理者、選手を学生に置き換えて見れば新しい視点での教育システムが見つかるかもしれない。

Skill 7 ネットワーク

そしてそのコミュニケーションを培うためにも、次の能力としてNetworkが必要である。まずは大学行政管理学会活動を通じての人脈作りである。日本中の大学で勤務する事務職員が、こうして一堂に会いする貴重な場が提供されるのである。我が国の異なる種類の経済団体も統合する時代に、ある特定の枠だけに留まっているべきではない。大きな枠組みの中での人と人との交流が模索される時代である。また、この交流は国内のみに留まらず海外での人脈も重要な役割を果たすこととなろう。特に米国など海外の大学事情を知っておくことは、我が国の大学で勤務する者にとっては決してマイナスとはならないはずである。また先述のテクノロジーを駆使してのネットワーク作りも忘れてはならない。パソコンを利用するだけで瞬時にして国内はもとより、世界中のメンバーとの意見交換や最新情報が入手出来る時代である。機械が苦手というだけで、単に勤務年数が長く事務職員としての能力を向上させていない場合には、もはやそのスタッフは経営的に見れば単なるコストにしか上層部には写らないということを理解しておく必要がある。

またさらなる具体例として、我が国の国際交流関連部署で勤務する人々の研究組織体としてJAFSA(国際教育交流協議会)のメーリングリストによる、デジタル・ネットワークが活発な活動を行っていることも挙げておきたい。瞬時に自らの質問に対する回答がかえってくる現実を見れば、上司の役割とは何かを真剣に考えてしまいかねない。それ程すぐれたシステムであるが、これがすべてボランティアにより、構築・運営されていることは、文字通り驚愕に値する。