2008年10月14日火曜日

記者からみた大学広報 (2)

今日は、「マスコミの第一線記者から見た「大学広報」の現在」シリーズの第2回目として、中村正史氏(朝目新聞東京本社出版本部ムック編集部編集長)の講演内容をご紹介します。

中村氏は、長年大学を取材してきた経験から、「大学が変わる時は広報が変わっている」「広報の人と話をすれば大学の校風がわかる」と言明された上で、広報を、宣伝、PRである「攻めの広報」と、危機管理である「守りの広報」に区分し、主に朝日新聞の「大学ランキング」の創刊以降15年間の大学評価の変遷、マスコミへの対応の最高の例と最悪の例、記者との付き合い方、そして危機事象発生時の対応の仕方等について示唆に富む指摘をされています。

『大学ランキング』が見た大学評価の15年

『大学ランキング』が創刊したのは1994年です。来年の春で15周年になります。創刊の趣旨は、偏差値に代わる多様な観点から大学を評価することですので、まずはデータを集めることから始めなければなりませんでした。

創刊号はすごく売れました。完売しました。ところが文科省や大学の反応は冷ややかで、アンケートに答えてくれなかったり、データを提供してくれなかったりといった対応もありました。

それが変わり始めたのは、90年代の後半です。各大学が自己評価報告書を作るようになり、それに『大学ランキング』のデータが使われました。大きく変わってきたのは2000年前後です。大学の競争原理が定着してきた中で国立大学からのアプローチが増え、どうしたら上位にランクされるのかを問い合わせてきたりしました。創刊10年でやっとそこまでになったわけです。

それでは、15年の中で各大学の評価がどう変わったのか、いくつかの指標で見ていきたいと思います。

教育面、研究面で優れた大学という指標を見てみます。これは大学の学長のアンケートに基づくものです。教育面で1994年当時の第1位は慶應義塾大学、第2位が立命館大学、第3位は慶應義塾大学のSFCが入っています。その後SFCは単独での評価が下がり、2000年以降はランク外になりました。逆に上がってきたのが金沢工業大学です。2000年に初めてベスト10に顔を出し、2007年には第1位になっています。研究面では、上位に変化はありませんが、早稲田大学が少しずつ上がってきています。

次に高校からの評価です。これは、全国の進学校300校程度の進路指導の先生にアンケートをとったものです。「生徒に勧めたい大学」の項目では、15年で大きな変化はありませんが、あえて言うと東京工業大学がベスト10から姿を消したことが注目点でしょう。また金沢工大が2004年にベスト10入りし、2007年のランクも上がっています。学長も高校の先生もすべての大学を知っているわけではないので、印象評価的な面は否めませんが、ランクの推移から大学評価の変化がよくわかります。

次に「学生満足度」の項目です。これはベネッセの調査によるものです。この項目でも1994年当時、慶應義塾大学のSFCの評価が非常に高かったと言えます。SFCの開設が1990年、その教育理念や教育内容が衝撃的で大学教育全体に与えた影響は大きかったと思います。ただその後、SFCの特徴であった語学教育やコンピュータ教育をどの大学でもやるようになって、特徴が薄れてしまいました。

次に教員の「純血率」を見てみます。これは自大学出身の教員の割合を指す造語です。この率が余りに低いと研究者の養成ができていない、あまりに高いと閉鎖的と言うことができます。この数値は法学部系統で見ていますが、1995年当時、早稲田大学法学部の純血率は93%です。これが今年は53%と半分近くに減っています。全体を見ても、純血率は下がる傾向にあります。

次に科学研究費補助金ランキングです。特徴的なのが東大のランクがどんどん上がっていることです。90年代から比べると教員一人当たりの金額も2倍以上に増えています。

指標によって変化の大小がありますが、この15年間の変化は決して小さくはなかったと言えます。

次のデータは、朝日新聞主催の「大学トップマネジメントフォーラム」の資料として、朝日新聞の読者1万5千人にインターネットで「大学を評価するポイントを5つ選んでください」と質問しました。その結果ですが、私は意外な感じがしました。ブランドイメージや偏差値といった項目が多いのではと思っていましたが、第1位は「教育面での面倒見の良さ」。第2位は「卒業後の進路」、第3位が「教育理念」でした。教育理念を選んだ年代は、高年齢層が多かったようです。

社会的な評価の基準は、どういった教育を行っているのかにあるようです。これもここ10数年間の大きな変化です。教育面でいかにカを入れていくかで自大学の評価が変わる環境にあると言えます。

マスコミヘの対応からわかる情報もある

今まで多くの大学の取材をしてきましたが、ここで、最高の例と最悪の例を紹介します。

まず最良の例です。90年代の半ば頃、『週刊朝目』で当時気鋭の文化人類学者が大学力を測るという連載をしており、ある記事で立命館大学を取り上げました。立命館は色んな改革をしている時で、それに伴い年々志願者が増加し、マスコミの注目を集めていました。その時に彼は「立命館は志願者は増加しているが、大学としての実力が伴っていない」ということを書きました。すると発売当目に広報課長から電話がかかってきて「うちの専務理事(川本氏)が話をしたいと申しておりますので、明目時間をください」と言われました。翌日編集長とお会いしたのですが、いきなり京都の銘菓を出し「京都で一番おいしいお菓子です」と言われ、なんとなく和やかな雰囲気になりました。一時間程度のやりとりの中で、最も強調されたのが、「一度是非立命館に来て、現状を見てほしい」ということでした。

後目編集長と二人で行って話しを聞きました。今考えると立命館は自信があったのだと思います。先生方4、5人と意見交換をして、その時の対応は見事なものでした。つまり立命館の本気度が伝わってくるんですね。我々記者も人間ですから、相手が本気で向かってくるのであればこちらも本気でしっかり受け止めようとします。

逆に最悪な対応を話します。数年前、ある定員割れ大学の取材をしょうとしたときの話です。その大学は補助金が打ち切られる基準である充足率50%未満というレベルの大学でした。広報部門の担当者に「経営の問題なので理事長に取材をさせてほしい」と依頼しました。その担当者は「わかりました」ということでしたが、その後全然返事がなく、「どうなっているんですか」と尋ねても、そのうちその人がつかまらなくなってしまったのです。こちらはとにかく理事長に取材をしたいとお願いをしているのに、理事長はその目から海外に旅行に行ったと言われ、しょうがないのでほかの方に取材をし、原稿を作りつつありました。ところが、原稿の締切目の夜になって、当初取材のお願いをしていた広報の担当者から電話があり「とにかく記事を止めてほしい」と言われました。私は「こちらとしては再三取材のお願いをしたのに、ある意味逃げておきながら、今になって記事を止めてほしいと言われても無理です」と申し上げましたところ、「記事のページ分の広告を出します」と言ってきました。これはマスコミの業界そのものを全く理解していない、全く逆効果の対応です。

先ほど『大学ランキング』のアンケートの対応の話をしました。大学によっては志願者や教員数や学生数など基本的なデータを開示しないところもあります。「非公表」というのは逆の意味での情報となります。つまり、そのような大学の姿勢を公表しているものだ、と我々は受け止めます。

メディアの個性を研究し効果的なニュースリリースを

プレスリリースが今日の大きなテーマですから、記者とどう付き合うかというお話しをしてみます。

まず大事なのは記者の習性を知ることです。記者は基本的に情報に飢えていますから、情報提供は大歓迎です。朝日新聞ではこの春から教育のページが増えました。教育記事の充実を図っているのは朝日だけではありません。郵送物も含めて情報提供は積極的にされるといいです。

ただ、記者というのは単なる宣伝記事を書くのはいやがります。ほしいのは「意義付け」です。ある大学が新学部を作る、またある大学も新学部を作る、という情報があった時に、その情報を一本の線でつなげてそこに記事としての価値を見出そうとする、そうすると新聞記事になります。単独のニュースだけでは記事にしょうとはしませんね。

それから新聞記者は「特ダネ」が好きです。一方で「特オチ」するのを非常に嫌います。新聞記事に大きく書いてもらいたければ、特定の1社に情報を流すことが有効です。経済記事ではよくあることです。これをやれと言っているわけではなくて、記者にはそういう習性があります。

逆に「発表モノ」はあまり大きく取り上げません。記者会見は大事ですけれど、そこで発表したものは翌目の記事で3段以上になるかと言うとなかなか難しいかもしれません。
また記者も人間ですから、広報の方との信頼関係やその方の熱意に動かされる部分はかなりあります。
長く大学取材をしている記者とのつながりを大事にするのがいいのではないかと思います。

次に、具体的にプレスリリースや広報の仕方についてアドバイスしてみたいと思います。

情報提供を積極的にするのは当然です。プレスリリースやパンフレット類を担当記者に送ったり、記者を訪ねて最近の学内の情報やこれからの取り組みを紹介するのは大事だと思います。熱心なのは関西の大学ですね。上京すると必ず訪ねてきますし、パンフレット類を大量に送ってきます。送ったからといって必ず記事になるものではありませんが、ダメもとで送ってみるくらいがいいでしょう。

プレスリリースは日々たくさん届きます。ですから表現の方法や見出しに工夫をしたらいいと思います。何のリリースなのかをはっきりさせ、しかも「意義付け」があれば飛びついてくるかもしれません。そのニュースを書こうとしている記者に何かヒントになるような材料があるといいですね。「うちの大学ではこういうことをやりますが、ちなみに別の大学でもこんなことをやっています」といった情報も参考になります。

それから媒体の特性をよく研究した方がいいと思います。新聞で言えば、全国版の朝毎読の教育面がそれぞれどういう記事を載せているのかとかですね。こういうネタだったら食いついてくるんじゃないかとか、教育報道だとこの新聞が熱心だとか、だからこの新聞社に投げかけてみようという判断ができるようになると思います。雑誌も同じです。テレビはまた違った媒体ですね。テレビはあまりストレートに教育の問題はやりませんから、まずは活字メディアを考えるのがいいでしょう。

プレスリリースは、「◎◎編集部御中」とか「教育担当者様」でもいいのですが、担当記者の名前がわかっていれば名前入りで送った方がベターです。そうすればその記者は必ずそのリリースを見ます。

万一の不祥事をどう乗り切るか 広報部門の対応がカギに

次に危機管理についてお話しします。今日の朝刊にいい材料がありました。「K学院大学のラグビー部が大麻吸引」というニュースです。私が気になるのは、この事件が起きたときに大学がどう動いたか、誰がマスコミの前に出てきて話したのかということです。最初に発覚したのが11月8目です。9目の朝刊で各紙が一斉に報道しました。9目の午前10時からK学院大学は会見をしています。このときに出てきたのが理事長とH監督です。大学側は「不快な思いを与えたことをお詫びします。20歳を超えた社会人でありその責任は取ってもらう。他のラグビー部員は関係ない」と言いました。H監督は「他の部員に責任はありません」と語っています。その上で対外試合は辞退しないと発表しました。ところがラグビー協会から社会常識とかけ離れていると言われ、夜の8時から2回目の会見を行いました。そこでは対外試合を辞退するという発表をしています。その結果新聞各紙にどう書かれたかというと「ドタバタ対応」です。これが第一報段階での対応です。

この時の問題は、「他の部員には関係ない」と言ったことです。「関係ない」というのは一つの見方であって、世間がどう見るかという視点が欠けていたのではないでしょうか。結局昨目になって警察の調べてさらに12人の関与が明らかになったわけです。対応した,のは広報室長です。これは逆なんですよ。関与していたのが12人になったというのはラグビー部としては壊滅的なことです。ここで初めて大学のトップが出てくるべきだったのではないかと思います。

過去の例を調べてみました。

早稲田大学は2003年に「スーフリ事件」がありました。この時は副総長が出てきて謝罪しました。2006年に理工学部の女性教授による研究費不正流用事件がありましたが、この時は総長が出てきて謝罪しています。これでいいのかどうかは別ですが事実として申し上げます。

同志社大学は2005年に学習塾で学生が教え子を殺すという事件があり、この時は大きな事件ですから当然学長が出てきて謝罪しています。一方今年の5月にラグビー部員3人が深夜に女子大生をわいせつ目的で車に連れ込んだという事件がありました。この時は副学長が出てきて謝罪しています。

関西学院大学の学生が2003年に広島の原爆記念公園の折り鶴に放火するという事件がありました。この時は学長が翌日に広島を訪ねて謝罪しています。この対応はすごく立派だと思いますが、ここまでする必要があるのかどうかは難しいところです。

大事なのは、最初の対応です。誰を出して謝罪するのか。それからその後の展開をある程度読まなければいけません。K学院大学のケースで言うと、関与したのは本当に2人だけなのか、今後増える可能性はないのか、そうした場合、会見でトップを出していいのかとか、その辺は広報の責任者が大学の幹部と話をすべきでした。こういう時に意見ができるのは広報部門ですから、広報担当者は親しい記者を作っておいて相談するといいですね。世論の反応やマスコミの反応をうかがうにはいいと思います。

大学の広報はブランディングとして宣伝PRの部分が日常的には一番大きいわけですが、何か起きたときには広報部門が積極的に関わることになります。ここでヘタをするとブランドイメージが大きく傷つきますから危機意識を高く持たれた方がいいと思います。