2019年11月27日水曜日

2020年度予算に対する財務省のスタンス

来年度の予算編成も大詰めを迎えています。
「令和2年度予算の編成等に関する建議」(令和元年11月25日財政制度等審議会)が公表されています。
高等教育に関係の深い部分を抜粋します。

<文教・科学技術関係のポイント>


3.文教・科学技術(本文)

急激な少子化の進展や潜在成長率の低下、激しさを増す国際競争の中、次の時代を切り拓くための能力を一人ひとりが育むことが求められている。生産性や潜在成長率の向上に向け、教育改革や科学技術のさらなる発展は喫緊の課題として取り組む必要がある。同時に、現在及び将来の子供たちに対して既に巨額の財政負担を先送りしてきていることを
忘れるわけにはいかない。

文教・科学技術予算に関しては、これまで、教員数や公的支出額など、教育や研究のために使う「量」の多寡を目的として議論されることが多かったが、「量」は教育政策や科学技術政策の目的を達成する手段であり、本来は、教育や研究が目指す成果、すなわち「質」に焦点をあて、予算のより効果的で効率的な使い方を議論すべきである。

こうした観点から、更なる「質」の向上に向け、義務教育及び科学技術分野における人的・物的資源の有効活用について、また、国立大学、スポーツ及び文化に関する自律的なメカニズムの創出について、以下のとおり提言する。

これらの取組については、文部科学省や教育委員会、大学のみで対応できるものではなく、他省庁や地方公共団体の首長部局、産業界など、幅広く関係者を巻き込みつつ、世論も踏まえ、政府として、改革の流れを着実に支援し続けることが重要である。

(1)人的・物的資源の有効活用

② 科学技術(P42)

日本の科学技術関係予算は、対 GDP 比でも実額でも、主要先進国と比べて遜色のない水準にもかかわらず、質の高い論文の数が主要先進国に劣っている。研究力向上に向けては、この研究開発の「生産性」を改善させていくことが急務である。

〔資料Ⅱ-3-8~11 参照〕

(若手研究者の活力向上)

若手研究者は、シニアの研究者に比して相対的に質の高い論文を多く発表しており、日本の研究力の向上を目指して、その活力を高めていくことが必要である。

イ)若手研究者への支援

大学における若手研究者の処遇に着目すると、国立大学では、業績評価の活用が十分でないことや定年延長などによりシニア層や高職位層に偏重した人事運営が行われ、その結果、教員数が増加する中でも若手教員の数が減少している。

若手研究者の任期付採用数が増加していることが若手研究者の増えない一因であるとの指摘もある。一方、国立大学教員に占める任期付教員の割合は米国と同程度の水準であり、海外においても、研究者のキャリアパスは任期付きから始まるのが通例であることに留意すれば、必ずしも指摘は当たらないのではないか。しかも、競争的資金においては、科
学研究費助成事業(科研費)等での若手研究者への支援重点化を進めている。また、競争的資金の支援期間は、科研費が2~6年であるなど、OECD 諸国と同様の長さとなっている。

こうした現状を踏まえれば、まずは、大学側において、若手研究者の処遇改善に向け、自らの人事・給与マネジメント改革を図ることが重要である。また、政府においては、科研費等での若手研究者への重点化を引き続き推進するとともに、研究成果を出す若手研究者について、基礎研究の探求や社会実装など、それぞれの研究の方向性に応じて様々な研
究資金を継続して支援できるよう、関係省庁・関係機関が連携しつつ、競争的資金全体を見直していくことが重要である。

〔資料Ⅱ-3-12~13 参照〕

ロ)博士課程修了者のキャリアパスの多様化

博士課程に優秀な人材を継続的に確保するためには、そのキャリアパスの一つとして、現在は一部にとどまる民間企業への就職を積極的に拡大していくことが重要である。この点、民間企業からは、博士課程修了者の採用に消極的な意見も少なくないが、実際に採用した企業においては、学士号・修士号取得者よりも高い満足度が示されており、博士課程
修了者と民間企業の適切なマッチングが、民間企業への就職を後押しする上で重要なポイントになると考えられる。

他方、博士課程修了者がインターンシップ経験を有する場合は民間企業に就職する者の割合が大きくなるが、研究開発者向けのインターンシップを実施している企業は一部にとどまっており、産学双方での認識や取組が追い付いていない可能性がある。このため、インターンシップ機会の拡充など、産学の自発的な取組により積極的に改善を進めていくこ
とが求められる。

〔資料Ⅱ-3-14 参照〕

(研究者の事務負担の軽減)

研究者が研究成果を出す上で、研究時間の確保の困難さが最大の制約要因とされている。詳細にみると、大学運営業務が最大の負担とされている。競争的資金の事務手続きに限らず、研究者の幅広い活動に係る事務の負担も課題になっていると考えられる。競争的資金については、申請事務の電子化等研究者の負担軽減に係る取組が進められているところ
である。依然として政府の取組が不十分との指摘がある一方で、事務手続きに割く時間は研究時間全体の5%程度、との調査結果もある。

このため、まずは、関係省庁や関係機関等が研究現場の実態の把握に一層努める必要がある。そうした結果を踏まえた上で、大学における学内業務の効率化や競争的資金における事務の合理化・簡素化など、研究者の事務負担の軽減に向け、多角的に検討していくことが求められる。

〔資料Ⅱ-3-15~16 参照〕

(官民の適切な役割分担・連携)

主要先進国の中で、日本の企業部門の研究開発投資はトップクラスの水準にあるが、企業が大学に投じる研究開発費の割合は低い水準であり、また、一件当たりの規模も小さい。

企業部門から大学への資金の流れは、大学における研究開発を社会の期待に沿ったものとしつつ、企業においても新たな事業の「芽」につながるものであり、日本全体の研究力向上に向けて、その拡大が期待される。

ただし、国の基礎研究向け支援の確保に向けては、企業が自己資金で研究開発を実施することが可能な分野は、企業自ら実施することが必要である。事業化までを見据えた国の研究資金の一部において、官民で資金を負担するマッチングファンド方式の導入が図られている。これは、民間資金を活用する有効な方式の一つとして考えられるが、本来民間が
担うべき範囲について国が負担することのないよう、厳格な運用が求められる。

また、産学連携・拠点形成事業についても、欧米諸国では民間資金とのマッチングファンド方式の徹底がなされた事業が見られるが、日本では、こうした取組は一部の事業にとどまっている。

厳しい財政状況の中、国の支援が民間資金の活用が難しい基礎研究等に適切に配分されるよう、実用化を射程に含む国の研究資金や産学連携・拠点形成事業について、研究フェーズの進捗等に応じた客観的な判断に基づくマッチングファンド方式を積極的に導入するなど、民間資金を活用する仕組みを工夫していくことが求められる。

〔資料Ⅱ-3-17~19 参照〕

(2)自律的なメカニズムの創出

① 国立大学(P45)

国立大学運営費交付金(令和元年度予算1兆 971 億円)については、社会のニーズに応じた教育水準やグローバルレベルで通用する研究水準を確保するための全学的なマネジメントが行われるよう、令和元年度(2019年度)予算から、厳選された共通の成果指標による相対評価に基づき約7%(約 700 億円)を配分する仕組みが導入された。その実施状況を見ると、会計マネジメント、人事給与マネジメント等の改革に積極的に取り組む大学を重点的に支援する結果となっており、大学改革のインセンティブ付けとしては一定の機能を果たしていると考えられる。

〔資料Ⅱ-3-20 参照〕

この新たな相対評価の仕組みについて、今後は、「新経済・財政再生計画改革工程表2018」(平成 30 年 12 月 20 日経済財政諮問会議)において示されているように、

  • 教育研究や学問分野ごとの特性を反映した、教育研究の成果に係る客観・共通指標及び評価について検討を行い、その結果を活用すること、
  • 配分対象割合・再配分率を順次拡大すること、

を図っていくことが求められる。

その際、教育と研究を明確に区分したうえで、その質を測る客観的かつ比較可能な指標、特にアウトカムに重点を置いた指標を設定するとともに、平成 28年度(2016年度)から導入された重点支援評価65(約300億円)を縮小し、新たな相対評価の仕組みを拡充していくことが必要である。また、これら2つを合わせた約1,000 億円の評価枠について、その拡大を念頭に置きつつ、改革に取り組む大学への重点支援を強化することが重要である。

〔資料Ⅱ-3-21 参照〕

令和4年度(2022 年度)から始まる第4期中期目標期間を見据えると、資源配分における評価の在り方については、新たな相対評価の仕組みが一定の機能を果たしつつあることを踏まえれば、その実効性を引き続き検証し、これを基本とした重点支援の在り方を検討すべきである。

その際、配分額を長期にわたって固定してしまえば、新陳代謝や切磋琢磨を阻害し、ひいては国際競争の遅れにもつながりかねない。過去からの努力の積み重ねとして現れてくる改革の成果を、適時適切に毎年度評価することで配分の適正化につなげていくことが不可欠である。

次に、配分に際しては大学の多様性を踏まえることも必要である。ただし、評価によるメリハリ付けの観点からは、評価対象の括りを細分化しすぎると相対評価として十分に機能しなくなることから、相対評価の母数については一定の規模を確保することが求められる。

また、各大学内においても、自らの経営判断に基づき学内の資源配分の最適化を図ることが重要であり、

  • 新たな相対評価の枠組を通じた経営判断力向上に向けた環境づくりへのインセンティブ付け、
  • 大学にとって有用であるが競争的資金の獲得が難しい学問分野への学長裁量経費の更なる有効活用、
  • 寄付金等の財源の多様化に向けた取組、

を更に推進していくことが求められる。

〔資料Ⅱ-3-22 参照〕

令和2年度予算の編成等に関する建議|財務省 から