2019年11月25日月曜日

記事紹介|勘違いしてませんか、学長の権限

いつも多くの貴重な示唆を与えてくれる吉武博通さんの論考。今回は、現場を熟知されている先生ならではのリーダーシップ論。

大学等の経営トップ、その予備軍、事務系管理職の方は必読ではないでしょうか。(以下抜粋)

  • 学長に確かな地位と権限を与えれば改革が進むと短絡的に考えているわけではなかろうが、その側面を強調しすぎると、地位と権限があれば人は動くとの思い違いが起き、思い通りにならない時は、権限が不十分、構成員の意識や能力に問題がある等、他に原因を求めがちになる。
  • リーダーシップは学長はじめ上位役職者に求められるものとの理解も重大な思い違いの一つといえる。法人は教学に、教学は法人に問題があると言い、上位者は下位者に、下位者は上位者に問題があると言う。原因を他に帰せがちな傾向、つまり当事者意識の希薄さは大学の変革が進まない根本原因の一つである。
  • リーダーシップは管理者だけに求められるものではない。リーダーシップを発揮できる人材が組織内にどれだけいるか、それを育む組織文化をどう根づかせるかは、大学が困難を克服し、未来を切り拓くための不可欠の要素である。
  • リーダーシップは、組織に建設的な改革を起こすために、方向性の設定によりビジョンと戦略を生み出し、コミュニケーションを通して構成員の理解を促し、組織を一つにまとめる。そして様々な障害を乗り越えてビジョンを達成するために、構成員が能力を最大限に発揮できるよう動機づける。
  • 本物のリーダーにそなわっている資質のなかでも、特に重要なものは、①他者が共感できる意義を見いだし、周囲を巻き込む能力、②自分を明確に表現できる、③誠実さ、④適応力(絶え間のない変化にも素早く、理性的に対処できる)。
  • これからのリーダーに求められる要素は、幅広い教養、限りない好奇心、つきることのない熱意、周囲を巻き込む楽天性、仕事仲間やチームに対する信頼、すすんでリスクをとろうとする意志、短期的な利益より長期的な成長を追求する姿勢、卓越することへのこだわり、適応力、共感能力、自分自身であること、誠実さ、ビジョン。
  • 「信頼」はリーダーシップを語るうえで欠くことのできない要素である。信頼という概念の根底にある主要な要因は、誠実性、能力、一貫性、忠誠心、開放性。信頼を築く方法は、開放的である、公正である、感情を言葉に表す、真実を話す、一貫性を示す、約束を果たす、秘密を守る、能力。
  • 職員組織においても、職員間での認識や価値観の隔たり、部署間のセクショナリズムに加え、国立大学の場合は全国異動とプロパー、公立大学の場合は自治体派遣とプロパー等、職員間の立場の違いもある。企業等に比べると協働の密度が低くなりがちであることは否めない。このような状況を克服するためにも、大学は様々なテーマを設定し、プロジェクトチームやタスクフォース等の形で協働の機会を意図的に増やしていく必要がある。会議や手続きに係る業務を大幅に圧縮することで時間は捻出可能と思われる。
  • 教員同士や職員同士の協働が必要なことはいうまでもないが、教員と職員の協働は、より大きな成果を生み出し、リーダーシップを育む場としての学習効果も一層高まる可能性がある。職員が教員間の接着剤や円滑剤の役割を果たすこともあるし、その逆もあり得る。また、教員と職員では知識や経験が異なるため、問題を多面的に捉えることでアイディアも生まれ、互いに補い合うことで信頼が蓄積される可能性も高い。大学や学部のビジョン・戦略の策定、学部・学科の新設や改組、国の補助事業への申請、カリキュラム開発、学修成果の可視化、学生支援の充実、キャンパス・デザイン、広報戦略等、テーマはいくらでもある。
  • 経営者の役割はもはや命令を発し、管理することではなく、企業組織のあらゆるレベルにおいて人々の行動の質を高めたり、調整したりすることなのだ。そして、リーダーがおのれの不完全さを自覚し、長所と短所を併せ持った存在であることを認めた時、初めて自分に足りないスキルを誰かに補ってもらうことができる。
  • リーダーシップを構成する能力は、①状況認識(企業と従業員が置かれている状況を理解すること)、②人間関係の構築(社内外で人間関係を形成すること)、③ビジョンの策定(説得力あふれる将来像を描くこと)、④創意工夫(ビジョンを実現するための新しい方法を生み出すこと)。
  • 学長は任期中にアピールできる実績を残そうと意気込み、学部長は2年か4年の任期を大過なく過ごそうとし、教員はできれば静かに研究と教育に専念したいと考える。全てがこの通りではなかろうが、大学という組織の特質や個々の大学の状況を踏まえながら、大学にふさわしいガバナンスとマネジメントを確立し、それぞれの状況に応じたリーダーシップの在り方を追求していくことが重要である。