これに対し国立大学協会は、共通指標及びその活用の在り方に関する基本的な方向性や、共通指標の具体的活用方法等についての見解を11月8日に公表しました。
「2020年度の運営費交付金の配分における共通指標の活用について(考え方の整理)」の公表について|国立大学協会 要旨(本文はこちら)
1 基本的な方向性
- 教育・研究に関する評価は分野・領域単位(11 学系)で行うことを基本とし、その結果を基に大学全体の総合評価を行う。
- 評価に当たって、大学の特性、ミッション、規模等が適切に配慮されるようにする。
- 評価は定量的指標と定性的指標を組み合わせて行い、専門家のピアレビューによる厳正な分析・評価を行う。
- 評価のサイクルは中期目標期間の6年間とするが、4年目に現況分析に基づく中間評価を行う。
- 4年目の中間評価の結果を次期中期目標期間の運営費交付金の初年度の配分に活用し、6年目の最終評価の結果を踏まえ必要に応じ次期の期間中に配分額を調整する。
- 地域・社会への貢献などの全学的な取組、財務に係るマネジメント、人・物に係るマネジメントについては大学単位で評価を行い、今後さらに検討を進めていく。
2 2020年度における共通指標の活用(留意点)
(1)評価の単位・項目
- 教育・研究の評価については、分野・領域単位(11学系)で行うことを基本とすべきである。
- 教育については、「教育課程」と「学修成果」の二つで構成する指標をもって評価すべきである。「教育課程」の指標は、学術界等からのニーズを踏まえて、育成する人材像の設定と教育課程の編成等における工夫や体系的な教育の内容を構築するための工夫がどれほどなされているかなどを測定するための項目からなる。「学修成果」の指標は、在学生や卒業生にどれほどの成果を身につけさせているかなどを評価するための項目からなる。
- 研究については、「研究成果」と「研究環境」の二つで構成する指標をもって評価すべきである。「研究成果」の指標は、学術的に卓越した研究成果がどれほど生まれているかと併せて、研究活動・成果が社会などへのインパクトをどれほどもたらしているかを測定する項目からなる。「研究環境」の指標は、研究活動を持続し発展させるための方策や戦略がどれほどとられているかを評価するための項目からなる。
(2)共通指標の設定
- 共通指標の設定に当たっては、高等教育・学術に識見のある専門家による十分な検討を行い、国立大学の教育・研究活動の実態を反映し得るような具体的かつ明確な形で指標を設定するとともに、各指標の持つ意味、活用方法、用語の定義等をあらかじめ各大学に明示した上で必要なデータを収集するようにすべきである。
- 現状において入手が可能なデータは極めて限定されており、その中で妥当性をともなった指標を設定するには限界がある。特に評価者(ピアなど)による定性的評価を必要とするような事項については、国立大学法人評価(第3期中期目標期間)における現況分析がまだ実施されていないなど、指標として活用できる情報が現在は十分に存在しない。そのため、2020年度に提示する指標は、あくまで現状において入手可能なデータを活用した指標であり、将来的に教育・研究の成果を適切に測ることが可能な指標を開発することを見据え議論することが必要である。当面は、指標を試行的に導入するものとし、当該指標は将来的に追加・修正していくとの考え方に立つべきである。(教育・研究に係る評価の指標について、大学の規模(教員数、予算規模等)等を考慮した補正が必要と考えられる場合の具体的方法については、さらに慎重に検討する必要がある。例えば、教員数で補正する場合には、教育・研究等の職務活動別時間数の割合(FTE に基づく補正)の活用の可否などについても検討が必要であるが、その基礎となる正確なデータは現在無く、データの収集・分析体制の整備と並行して検討する必要がある。)
- 指標は、定量的指標のみでは状況を把握できないことに配慮すべきである。特に、教育については、一般に入手可能な定量的データが少ないことから、例えば教育マネジメントについて簡素に確認するような定性的指標の設定も検討すべきである。
(3)指標の運営費交付金配分への活用
- 第4期中期目標期間に向けては、6年間の中期目標期間を基本とした評価と資源配分の安定的な仕組みを構築すべきである。したがって、指標に基づく評価の毎年度の運営費交付金配分への反映については、各大学の中期目標・計画に基づく教育・研究の戦略的・計画的な取組を阻害することのないような範囲内にとどめるべきである。さらに、上述したように入手可能なデータの制約から当面は試行的に指標を導入していくべきとの考え方も踏まえ、指標の活用は限定的にすべきであり、教育については特にその点に留意すべきである。
- 教育・研究のいずれについても、一つの定量的指標だけに基づいて評価するのではなく、複数の指標を総合した評価を行うべきである。
- 指標に基づいて収集するデータの対象期間については、各指標や分野・領域の特性等を考慮して検討する必要があるが、原則として、単年度のデータではなく、複数年度(例えば第3期中期目標期間に入ってからの2016-18年の3年間)のデータを活用することとすべきである。
<具体的な指標の例>
(1)教育に係る評価
2020年度に導入するとすれば、次のような指標を組み合わせて活用すべきである。教育の質の向上の観点から「教育に係る評価」は、前述のように「教育課程」と「学修成果」の二つの項目から評価を行うこととすべきである。
「教育課程」の指標については、①大学・学部等のミッションに基づいて、三つのポリシー(ディプロマ・ポリシー、アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー)の改善に取組み、大学教育の内部質保証を確立し社会から求められる人材の育成が可能な教育課程の改善の取組を行っているか、②教育目的を実現するための学修支援や教育改善の取組を行っているか、という二つの観点に基づき評価を行うべきである。
また、「学修成果」の指標については、①客観的な測定方法で学生の学修成果を把握し教育の内容を改善しているか、②卒業後の活躍状況を把握し、教育効果の分析を実施し教育の内容を改善しているかの観点で評価を行うべきである。
今後、教育の成果を適切に評価するための指標については、データの収集方策も含め、さらに検討を行うべきである。現時点で定量的データが入手可能で指標として考えられるものは以下のとおりである。
【教育課程】
(将来的に開発すべき評価指標の方向性の例)
- 社会に必要とされる人材の育成を目指す教育課程が整備され実施されていることに関する評価指標
- 学科、学部、大学の各階層において三つのポリシーが整合的に策定されており、それに基づく教学マネジメントが確立・機能していることに関する評価指標
- 教育成果を生むために望ましい教育方法が工夫されていることに関する評価指標
- 教育の内容や方法についての学生の満足度調査や学修成果結果を活用して、改善点を分析するなどの内部質保証システムが機能していることに関する評価指標
(2020年度評価指標案)
評価については、分野・領域単位(11 学系)で行うことを基本とし、複数年度のデータを活用できる場合は優先して活用することとすべきである。各指標について、大学の特性、ミッション、規模等を適切に配慮した補正の具体的な方法についてはさらに慎重に検討をする必要がある。
※入学定員に対する充足状況
入学定員充足率:入学者数/定員(学士課程、修士課程、博士課程)
※ カリキュラム編成上の工夫の状況
例えば、ナンバリングの実施状況や履修系統図(カリキュラムマップ、カリキュラムチャート)等の活用状況(平成28年度の大学における教育内容等の改革状況について(概要)2.教育内容の改善の状況 <2-A カリキュラム編成上の工夫>)
【学修成果】
(将来的に開発すべき評価指標の方向性の例)
- 学修成果を把握する方法の工夫状況とそれにより得られた結果に関する評価指標
- 全国学生調査等に基づく学生の到達度や満足度等に基づく学修成果の評価指標
- 卒業後の学生追跡評価等に基づく卒業生の大学教育の有効性認識の評価指標
(2020 年度評価指標案)
評価については、分野・領域単位(11 学系)で行うことを基本とし、複数年度のデータを活用できる場合は優先して活用することとすべきである。各指標について、大学の特性、ミッション、規模等を適切に配慮した補正の具体的な方法についてはさらに慎重に検討をする必要がある。
※卒業・修了者の就職、進学、資格取得等の状況
1.卒業・修了者数に対する資格取得率:合格者数/卒業・修了者数
2.進学率:進学者数/卒業・修了者数
3.卒業者に占める就職者の割合:就職者数/卒業・修了者数
※卒業・修了者の状況
卒業・修了者のうち標準修業年限×1.5 年以内での卒業・修了率:標準修業年限×1.5年以内での卒業・修了者数/卒業・修了者数
※博士号授与の状況
本指標案については、分野・領域に加え各大学の博士課程の定員なども踏まえつつ、例えば「博士号授与数/該当年度の入学定員」とし評価を実施すること等補正のあり方について検討する必要がある。
(注)5月に独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構に依頼した文書では「研究環境」の評価指標に含めていたが、ここでは、若手人材を育成しているか、という観点から教育の評価指標としている。
(2)研究に係る評価
「研究に係る評価」について、2019年度の予算配分においては、重点支援の第3の枠組みの大学についてのみ、「運営費交付金等コスト当たりトップ10%論文数」が試行として導入された。しかし、そもそも引用数をもとにしたトップ10%という評価指標が適用できる学問分野が限られており、これのみでは大学や学問分野の多様な特性や質を考慮した評価は不可能である。2020年度に「研究に係る評価」をより広く導入するとすれば、次のような指標を組み合わせて活用すべきである。研究の質の向上の観点から「研究に係る評価」は、前述のように「研究成果」と「研究環境」の二つの項目から評価を行うこととすべきである。
「研究成果」の指標については、①質の高い研究論文や著作物などの研究業績をどれほど生み出しているか、②経済、社会、文化、公共政策・サービス、衛生、環境、生活の質などの改革や改善にどれほどの影響を与えているか、という二つの観点に基づき評価を行うべきである。
研究の成果は、「研究環境」によるところも大きく、またその「研究環境」は大学の規模にも大きく影響されることから、当該指標における適切な補正方法の開発を含め、今後、研究の質の向上に資するための評価指標については、さらに検討を行うことが求められる。
また、「研究環境」の指標については、研究活動を持続し発展させるための長期的な計画を策定しているかの観点で評価を行うべきである。
今後、研究に係る評価指標については、データの収集方策も含め、さらに検討を行うべきである。現時点で定量的データが入手可能で指標として考えられるものは以下のとおりである。
なお、どのような分母で指標を除するかについてはさらなる検討が必要である。例えば、現状において入手が困難ではあるが、フルタイム換算(FTEに基づく補正)の研究従事者数を分母とすることや、研究と同様に教育についても適切な指標を設定して、教育活動に多くの時間を割いている大学の教育実績が見える工夫をすることなどの検討も必要である。
【研究成果】
(将来的に開発すべき評価指標の方向性の例)
- 質の高い研究論文や著作物などの研究業績数(11学系別の標準的な様式、あるいはピアレビューによる評価結果など)
- 研究による社会・経済・文化的なインパクトに関する評価指標(評価結果など)
(2020 年度評価指標案)
評価については、分野・領域単位(11学系)で行うことを基本とし、複数年度のデータを活用できる場合は優先して活用することとすべきである。各指標について、大学の特性、ミッション、規模等を適切に配慮した補正の具体的な方法についてはさらに慎重に検討をする必要がある。その一例として、以下では「大学教員数」を記している。
※大学教員数当たりの科研費獲得件数の状況
内定件数(新規)/全本務教員数
内定件数(新規・継続)/全本務教員数
※大学教員数当たりの研究業績数の状況
(論文については査読付論文(学内の紀要等に掲載の論文は除く)を基本とし、11学系別の標準的な様式に基づき各大学が提出した研究業績)
(注)独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構が来年度実施予定の現況調査において指定する様式を先取りして試行的に活用する必要がある。
※大学教員数当たりの受託事業・受託研究・共同研究の実施件数の状況
(注)受託事業においてはデータ分析集の指標には含まれていないため新たに調査を実施する必要がある。
共同研究受入件数/全本務教員数
受託研究受入件数/全本務教員数
【研究環境】
(将来的に開発すべき評価指標の方向性の例)
- 国内・国際共同研究の体制、若手研究者育成、研究戦略など研究を安定的かつ発展的に実施しうる体制についての評価指標
(2020 年度評価指標案)
各指標について、大学の特性、ミッション、規模等を適切に配慮した補正の具体的な方法についてはさらに慎重に検討をする必要がある。
※大学教員数当たりの外部研究資金獲得額の状況
内定金額/全本務教員数、
内定金額(間接経費含む)/全本務教員数
受入金額/全本務教員数
共同研究受入金額/全本務教員数
受託研究受入金額/全本務教員数
「大学教員数当たりの外部研究資金獲得額の状況」の評価にあたっては、他の指標と同様に分野・領域単位(11学系)で行うことを基本とし、複数年度のデータを活用できる場合は優先して活用することとすべきである。なお、「研究環境」は大学の規模による影響もあり、「研究成果」にも波及することを踏まえ、前述した「研究成果」の「大学教員数当たりの科研費獲得件数の状況」などの件数と「研究環境」の「大学教員数当たりの外部研究資金獲得額の状況」の資金の両面から細やかに評価することによって、各大学の研究の質の向上について測定することで大学の実態を適切に評価するように配慮し、大学の特性、ミッション、規模等を適切に配慮した補正方法の開発を含めて検討する必要がある。
また、後述の「財務に係るマネジメント」よりも「研究環境」の項目で分野・領域単位(11学系)に配慮した指標として設定した方が、多面的に評価することが可能となり望ましいと考える。
3 財務に係るマネジメント
「財務に係るマネジメント」に関する指標について、2019年度の予算配分においては「会計マネジメント改革状況」及び「教員一人あたり外部資金獲得実績」の指標が導入されたが、次のような改善を検討すべきである。
- 「会計マネジメント改革状況」については、あらかじめ各大学に指標の持つ意味、活用方法、用語の定義等を明示した上で必要なデータを収集するようにすべきである。
- 2019年度の予算編成において「教員一人あたり外部資金獲得実績」のうち経営資金獲得実績を除き、新たに科研費、競争的資金を含めた共同研究、受託研究等の外部研究資金獲得額は研究環境に係る評価の指標とし、ここでは「大学に対する寄附金等の外部資金獲得実績」とする方が適切である。
5 人・物に係るマネジメント
「人・物に係るマネジメント」に関する指標について、2019年度の予算配分においては、「若手研究者比率」及び「人事給与・施設マネジメント改革」の指標が導入されたが、次のような改善を検討すべきである。
- 「若手研究者比率」は高いほど良いものではなく、年齢構成のバランスがとれた状況が望まれる。「統合イノベーション戦略2019」等の政府方針を踏まえ、2020年度において目標となるような値等を分野の違いを考慮し検討する必要がある。例えば、「教員の多様性の確保」の観点から、女性教員数等の割合や年齢構成のバランスを総合的に評価するような方法も検討すべきである。
- 「施設マネジメント改革」については、あらかじめ各大学に指標の持つ意味、活用方法、用語の定義等を明示した上で必要なデータを収集するようにすべきである。