2011年1月31日月曜日

大学の経営基盤強化

去る1月19日(水曜日)に開催された中央教育審議会大学分科会の資料「審議経過と更に検討すべき課題」の中から「教育研究機能の充実のための組織・経営の基盤強化について」に関する記述を抜粋してご紹介します。

全文をご覧になりたい方はこちらをどうぞ
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1301944.htm

教育研究機能の充実のための組織・経営の基盤強化について


教育研究機能の充実のための組織・経営の基盤強化について、これまでの成果を踏まえながら、さらに具体的に検討する必要がある。

(組織・経営基盤の強化に関し検討を要する事項)
  • 国公私立のそれぞれの設置形態において、大学・法人としてのガバナンスを強化していくための具体的検討。

  • 国公私立を超えた大学間連携、地域の産業界や公的セクター等との連携。

  • 組織基盤の強化に向けた大学職員の専門的資質の一層の向上。そのための大学を支援する団体、大学間連携による研修支援や、大学院の課程や履修証明プログラムのような大学教育を通じた研修。

  • 大学の主体的判断を促す情報提供の仕組みの整備。

    • 国は、各大学の自主的・自律的な取組を支援し、地域別・分野別の設置認可の動向や、人口当たり学生数の状況(分野別・学位段階別・地域別)等の各種の情報提供のための仕組みを整備。

    • 大学を支援する団体が、大学の教学・組織・経営に関する情報を整理・分析し、大学がそうした情報を活用。

  • 公財政に関し、1)基盤的経費、2)国公私立大学を通じた教育改革の支援、3)学生への経済的支援を通じた財政基盤の確立。また、大学の規模・分野等の多様性を踏まえつつ、機能別分化に対応したファンディング。

  • 各大学への経営相談等を充実。各大学が、自主的・自律的な機能別分化を通じて、それぞれの有する分野・機能に関し、自立・発展,連携・共同、撤退等の方向性を早期に判断できるよう支援。また、そのための支援体制の整備。

知識基盤社会において、大学は、社会の持続的な発展と成長に不可欠の存在であり、とりわけ、大学を取り巻く環境の変化や、多様化する社会的課題と要請にこたえていくことが求められる。そのためには、大学に求められる役割・機能を再認識した上で、大学教育の質の保証・向上を図り、その教育研究機能をより効果的に発揮できる環境や、意欲と能力がある者が安心して学ぶことができる環境を整備し、より発展的な大学改革を促進するため、大学の組織・経営に関する基盤強化を図ることが不可欠である。

この課題に関する論点のうち、これまで議論されているもののうち主なものは以下のとおりである。

大学の組織・経営を支える専門性の高い人材の育成

大学の組織・経営に関する取組を戦略的に進めるには、学内の各方面にわたり、専門性の高い人材を養成・確保することが不可欠である。学内で大学職員に求められる資質能力が多様化・高度化する中で、例えば、経営企画、学生支援・キャリア支援、留学生・国際関連業務、産学・地域連携といった各方面における職能開発が課題となっている。また、財務・教学等の従来から見られる分野でも、職務において期待される内容・水準が大きく変化している。

こうした職員の養成や職能開発に当たっては、各大学でのSD(スタッフ・ディベロップメント)が活発になっているが、その職員の所属する学内のみで対応するのにとどまらず、大学を支援する団体や大学間連携による研修支援、大学院の課程や履修証明プログラムのような大学教育を通じた研修により、複数大学の知見を生かしていくことが求められる。

大学の主体的な経営判断に資する情報の提供

国は、大学の量的規模や、大学教育を通じた人材需給見通しなどの情報を収集・整理し、各大学の経営判断に資するよう提供することが求められる。例えば、大学設置に関する地域別・分野別の動向や、人口当たり学生数の状況(分野別・学位段階別・地域別)等の情報の恒常的な公表が考えられる。

あわせて、大学を支援する団体は、各大学による教学・組織・経営に関する情報の公表・公開が次第に進んでいることを踏まえ、こうした情報を分かりやすく整理・分析し、大学に提供していくことも求められる。

公財政を含む大学財政の基盤の確立

大学は、新しい時代の変化や社会的要請にこたえ、多様かつ広範な分野にわたる学術研究を総合的に行い、人類の知的資産となる新しい知識と技術を創造・蓄積するとともに、それを踏まえた教育活動を通じて、次代を担う人材を養成するなど、本来的な使命を持っている。こうしたことから、大学教育は、学習者個人だけがその便益を受けるのではなく、現在・将来の社会も大学教育に多くを依存している。

国から大学への財政支援としては、
  1. 大学の教育研究活動を継続的・安定的に支える基盤的経費(国立大学法人運営費交付金、施設整備費補助金、私学助成等)、

  2. 公私立大学を通じた競争的な環境下で、大学の組織的な教育改革に関する新たな取組や、社会的要請に対応した取組への財政支援、

  3. 奨学金等の学生に対する経済的支援
が挙げられ、加えて、教員個人の研究活動に対する科学研究費補助金や、国家的課題に対応する研究プロジェクトへの支援等が行われている。大学への財政支援に当たっては、これらを総合的に展開し、全体として効果を上げることを基本とすべきである。

基盤的経費と、国公私立大学を通じた大学教育改革に関する支援は、両者あいまった支援方策(デュアル・サポート)として、教育の質保証・向上や、個性・特色の明確化と、機能別分化を促すために重要な役割・機能を果たしている。引き続き、それぞれの支援を通じた成果や、事業の効率的・効果的な実施に関し検証と必要な見直しを行いながら、大学教育の質の保証・向上に取り組むことが求められる。

その際、自主的・自律的な存在である大学は、大学への公財政支出が、大学としての機能の効果的な発揮を求めて、国民から負託されたものであることを自覚し、大学の教育研究への影響を含めた評価・検証等を行い、その成果を活用し、大学の経営改善を図りながら、その資源を適正に管理し、最大限有効に活用することに留意する必要がある。

なお、我が国では、高等教育への公財政支出の対GDP比が、国民負担率(租税負担率+社会保障負担率)の低さや、少子化の状況を加味しても、国際的に低く、その一方、私費負担の割合が多い状況にある。そうした中で、我が国の大学財政における公費と私費の負担の在り方をどう考えるか、今後、短期的な観点のみならず、中長期的な観点から検討を進めていく必要がある。

大学への財源としては、国・地方公共団体からの支援や学生納付金とともに、民間企業や個人等からの寄附金・委託費や付属病院収入・事業収入等の自主財源を確保し、財源を多様化していくことも、経営基盤の安定化に寄与し、大学の社会貢献を一層促すためにも有効である。各大学・法人が社会各層からの理解と支持を得ることで、民間企業や個人等社会全体から広く寄附金が集まるよう、国は、寄附税制の拡充を図り、寄附文化の醸成を図ることが求められる。また、資産の運用の在り方についても検討が必要である。

各大学の自主的・自立的な経営基盤の強化

これまで、大学において、学内の組織改革を進めつつ、限られた教育研究資源を効率的に活用して、経営基盤を強化する取組が自主的・自律的に進展している(例えば、大学間連携の強化、地方公共団体との連携、学部・学科等の改組、入学定員の調整、大学・学校法人の組織の一元化)。

各大学が、自律的な機能別分化を推進する中で、それぞれの有する分野・機能に関し、「自立・発展」「連携・共同」「撤退」の方向性を判断できるように、各大学の状況にきめ細かく配慮しながら支援していくことが求められる。これまでの大学分科会の提言を受けて、平成22年には日本私立学校・共済事業団が全国各地で「リーダースセミナー」を開催しており、そうした成果も踏まえ、引き続き、そうした際の支援体制の整備充実も含めて、各大学への経営改善支援を推進することが求められる。