2011年1月11日火曜日

アドミニストレーターへの飛躍 1

新年に入り1週間が経ちました。皆さんは、大学職員(事務職員)としての今年一年の抱負をどのようにお考えでしょうか。

今回は、今私たち大学職員に何が求められているのか、そのために私たちは何を考え、どう行動しなかればならないのかなど、大学職員のあるべき姿について、ひとつの示唆を与えてくれる論考をご紹介します。

日本福祉大学常任理事 篠田道夫氏が、文部科学教育通信(No258 2010.12.27)に掲載された「戦略遂行を担う職員」です。年頭にふさわしい内容だと思います。ご一読いただければ幸いです。

戦略遂行を担う職員 1

戦略経営の確立

「大学の市場化」の中、私大の最重要課題はこれと切り結ぶ、目標を鮮明にした経営の確立であり、私大の職員像は、まさにこの課題を担い推進することにある。

この間、私学高等教育研究所が訪問調査した大学経営の特徴を要約すると、第一に、ミッションに基づく戦略や目標が明示され、強みや伝統に特化した事業に資源を選択集中している。しかもトップダウンだけではなく、現場からの適切なボトムアップを生かす仕組みが機能している。また専門的な企画部門を置いて計画をリサーチ、立案している。第二に、こうした戦略を実行計画に落とし込み、教育計画や業務計画、予算編成に具体化し、PDCAサイクルが年間スケジュールとして実体化している。第三には、そうした戦略をトップ自らが直接構成員に語り掛け浸透を図るとともに、各組織が政策推進に知恵を出し、責任分担や期限をはっきり定めて実践に取り組む組織運営に努力している。そして第四に挙げられるのは経営・教学の政策一致、事務局も含む全学協力体制の構築だ。

戦略遂行を担う職員

では、なぜ職員がこうした改革推進に中心的な役割を担い得るのか。今日、戦略が現実課題の解決に有効性を持つためには、現場の実態から出発し、実際のデータや現実の問題点に立脚したものでなければならない。

私大の職員は経営や数学の現場におり、学生と接し、大学の評価に繋がる高校や企業や地域との接点に立っている。外からのニーズ、要望あるいは批判がまず最初に来るのは、この現場にいる職員のところであり、学長や理事長ではない。ここがどのような感度、問題意識を持って業務を遂行し、またそこからどんなレベルの提案が出てくるのか、ここに大学総体の改革水準が規定される。

厳しい環境の中で改革を前進させようとするとき、現場で教育・研究を支え、財政・経営を担い、学募や就職を推進する職員の、まさに開発力量が問われている。

本学の創立50周年式典で、当時トヨタの社長だった張富士夫氏に「ものづくりは人づくり」のテーマで講演していただいた。トヨタが世界の先進をいき、他の追随を許さないのは、個々の技術や生産システムの優秀さではない。根源は、現場からカイゼンし続けることのできる「トヨタのDNA」、進化能力の伝承、すなわち「人づくり」にあり、その育成システムが簡単には真似ができないということだ。

職員は、大学のすべての分掌業務の客観データを持っており、大学のあらゆる政策や計画は、こうしたデータや情報、経験の蓄積をベースに成り立っている。教員は教育行政に一部は従事しているが、大学職員は全員が大学運営を、業務を通して末端まで担っている。事業や計画の素案の立案、決定後の具体化や執行は、そのほとんどが職員の手を経ており、正確な現状分析や課題設定、適切な解決策の立案の総和で、大学全体が動くことになる。

戦略とか中期計画とかひと括りで言っても、それは、分解すれば、教育支援、就職、学募、地域連携、財務など、一つ一つの分掌になってくる。この一つ一つが、他大学より一歩でも進んだものにならない限り、政策全体の優位性は確保できない。つまり、個々の分掌の業務遂行レベルが全体政策の水準を決めることになる。

職員の「専門性」「プロフェツショナル」

ではあらためて職員の専門性とは何か。この議論には、求められるのがスペシャリストかゼネラリストかという議論が付いて回る。職員のこれまでの処理型業務の反省から専門職化を追及する向きも多い。しかし狭い専門家でも職員のプロとは言えないし、数学や経営を動かし得れば、ゼネラリストでも専門家だと呼び得る。要はプロフェッショナルな職員とは何かということだ。

今日の職員業務は多くの分野に細分化し、専門化している。学術情報管理、教育事業やカリキュラム開発、情報教育推進、研究コーディネートや知的財産管理、国際交流事業企画、就職支援やキャリアアドバイザー、学募広報政策、資産運用や財務管理、ビル管理や施設建設、学部申請許認可業務等挙げればきりがない。では職員の専門性の向上は、こうした専門職への特化や資格取得によって実現できるかというとそうでもない。

今日求められる戦略推進を担う職員像を成り立たせるためには、まず共通する基礎的な能力が必要だ-。それはコミュニケーション力や文章力、プレゼンテーション力であり、調整力や交渉力、対人支援力、調査・分析力、論理思考力、そして政策提言力や事業統治力であると言える。この上に、高等教育の歴史や制度、法体系の知識等大学固有の基礎知識が必要だ。さらに、当該大学のミッションや戦略、教育研究の概要、財政や人事の知識等大学個別の知識が求められる。最近急速に進む戦略思考を支えるツール、SWOT分析、マーケティング、ベンチマーク、戦略プランニングさらにはカウンセリングやアドバイザー等の学習も必要かもしれない。

自分の足場である業務の専門力量にこうした基本的な力が加わって、大学全体のあるいは各部課室の目標実現を担えなければ、専門家とは言えない。つまり専門分野の知識や経験がゼネラリスト的視野と結合し、ミッションの前進に結び付く事業や教育の企画、改革、推進ができたとき初めて大学職員としての専門性が身に付く、プロフェッショナルへ一歩前進できたと言える。

アドミニストレーターへの飛躍

つまり、大学アド"〉- ストレーターとは、たとえ高度であっても、つくられた政策や方針に基づく業務遂行だけでは成立しない。現場の状況を分析し、他大学を調査・研究し、その中から先駆的に取り組むべき課題を明らかにし、解決策を立案し、機関決定に持ち込み、予算をつけ実践し評価する、この一連のサイクルをマネジメントすることが求められる。どんなに専門的な仕事でも、定められた方針、指示された枠組みでやる業務には限界がある。たとえ限られた分野であっても政策づくりに参画し、また方針を豊かに具体化し、現場から大学をつくり上げる一翼を担うところにアドミニストレーターの本質がある。

大学には膨大な処理的業務、ルーチン業務が存在する。これなしには大学は存立し得ないが、専任業務は、こうした現場の業務やデータをベースにした問題発見や解決策提案に力点を置き、大学の掲げる目標を前進させねばならない。しかし、この開発するという仕事は、前例がなく、すぐにアイディアが出てくるものでもなく、勉強もいるし、調査も必要となる。正解だという保証はなく、常にリスクが伴う。また、改革には抵抗勢力が付きもので、これを説得して決定に持ち込まねばならない。

しかし、ここにこそ専任、常勤の職員の真の役割がある。事務処理から業務目的そのものの達成(創造)へのシフト、教育事務から教育づくりへの参画が求められている。この事務の目標実現から教育研究目標そのものの実現への目標の転換高度化は、単なる事務業務の変化ではなく飛躍がいる。受動的業務遂行の意識から根本的に脱却し、大学づくりへ主体的に責任を持って参画する意思が求められる。孫福弘氏が「『戦略的に仕事をする』というアプローチによって、初めてミッションの達成も、業務の卓越性も獲得できる」と言ったのはまさにこの指摘である。専門性を持った職員からアドミニストレータヘの飛躍が求められている。