2017年4月19日水曜日

記事紹介|国際産学連携の実態と課題

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、国際産学連携について、これまで「共著論文から見た日本企業による国際産学共同研究の現状」、「アンケート調査から見た日本企業による国際産学共同研究の現状」を取りまとめてきました。

本報告書では、日本国内の大学等と外国企業との間で実施された国際産学連携の実態や課題を明らかにすることを目的とした質問票調査を実施し、国際産学連携プロジェクトの実現には、研究者を通じた継続的な人的ネットワークの形成が重要な役割を果たしていること、国際産学連携を実施している大学等にとって大きな課題と認識されている事項は、業務を担当するスタッフの不足、連携相手との接触機会獲得の難しさ、国際産学連携に対応した規則や規約の未整備の3点であること、などが明らかになりました。

<まとめと考察>

本調査においては、近年注目の集まっている日本国内の大学等と日本国外に所在する企業等との間で実施された産学連携の実態や課題を明らかにするため、質問票調査を実施し、国際産学連携のより詳細な実態や国際産学連携を実施するに当たっての各大学等の持っている考え方や抱えている課題点といった面について明らかにした。

まず、国内の大学等の国際産学連携の実施状況を考えると、回答機関のうち、国際的な産学連携を行っているのは13.8%に留まっている。国内の産学連携も含め何らかの形で産学連携を実施している大学等だけに絞ってみても、国際産学連携を実施している機関の割合は2割程度であり、未だ国際的な産学連携に取り組む機関は少ないといえる。

未実施の機関においては、「国際的な産学連携を試みたが、実施に至らなかった」とする回答は3.6%に留まり、その他のほとんどの機関は様々な理由から国際的な産学連携を試みていない。最も回答の多かった理由は「国際的な産学連携を行うのに十分な体制がない」というもので65.0%を占めている。

体制面の不足を理由とした機関に、具体的な不足が何なのかを尋ねたところ、所属する研究者や経営層の問題でなく、国際的な産学連携のコーディネート機能、国際的な契約等の事務処理機能における問題が多く挙げられる結果となった。この傾向は私立に比べ国立、公立大学等で特に強くなっている。これに関連して、「どのような支援があれば国際的な産学連携に前向きに取り組むことができると考えるか」という質問に対する、最も多い回答は「事業を推進する内部スタッフの育成支援」であり、国際的な産学連携を行っていない機関においては、これを推進するスタッフの育成を支援することで国際産学連携に取り組みやすくなると考えられる。

次に、実際に実施された国際産学連携プロジェクトについて見てみると、連携の種類としては共同研究が最も多いこと、連携先企業の所在する国・地域については米国が最も多く、次に韓国が続き、以降、アジアでは中国、タイ、台湾が、ヨーロッパでは、フランス、ドイツ、スイス、英国が比較的多くの連携先が所在している国・地域となっていること、活用された大学側の技術シーズとしては工学や医学の分野に属するものが特に多くなっていることなどがわかる。

どのようにプロジェクトが形成されたのかを見ると、「相手方からの照会・引き合い」が多数を占めており、国内大学等側からの積極的な売り込みはあまり行われていない、あるいは、行われてはいるがプロジェクトの成約に結びついていないものと考えられる。

また、国際産学連携の形成された具体的なルートについて尋ねたところ、大部分は研究者の持つネットワーク経由となっている。但し、人的ネットワークのない相手方からの照会・引き合いがあるのは、学会・シンポジウムが契機となっている場合も比較的多くあり、研究成果や技術シーズの積極的なアピールも重要であるものと考えられる。

国際的な産学連携の目的については、研究資金の獲得やシーズの実用化の推進が最も多く挙げられた。また、いずれの目的においても、期待通りか期待以上の成果を上げているプロジェクトが大部分を占めており、国内大学等による国際産学連携の実施は一定の成果を上げているものと考えられる。

さらに、国際産学連携に関する機関レベルの分析によると、共同研究や受託研究については、その連携先が国内であるか国外であるかには拘らず、ニーズ・シーズの合致する相手先を探索する機関が多い一方で、ライセンシングについては、同様に考える機関はやや少なく、まず国内の連携先を優先して探すと回答した機関の割合が共同研究や受託研究と比べると高かった。

国際的な産学連携に関する業務に従事する人材の状況についてみると、必要な知識を持つ人材を確保していないとする回答が目立ち、国際産学連携の実施においては、必要な人材の確保が十分に進んでいない機関が多いことが浮き彫りになった。

連携先の決定にあたっては、技術力や実績等以上に、自らと相手方とのニーズ・シーズが合致するのか、という点を重視している。この点は、相手方が自校に対し重視していると感じている点でも同様であった。今後、特に連携先企業の決定においては、ニーズ・シーズの合致に加えて、卓越した基礎研究力を基に獲得した優位性をベースに、連携相手の国外企業をより戦略的な視点から選択し関係を構築していくことも、効果的な連携活動を長期に渡って継続する上で重要になってくるものと考えられる。

国際的な産学連携が国内での連携に比べ、どのような負担を生じさせるのかについては、最も多かったのが事務作業や手続きに関連する事柄である。内部スタッフについては、多くの機関が不足感を持っていることを考えると、必要なスタッフの不足が、事務手続きの大変さ、場合によっては研究者自らが行う事務作業等の負担につながる可能性がある。

最後に、国際産学連携の実施における課題と国や地方自治体などの公的機関からの支援のあり方について考える。国際産学連携に関する課題について、特に課題意識が強かったのは、外国語能力が充分な職員や事務手続きを担当する職員の不足であった。

また、国や地方自治体によるサポートとして必要と感じるものを尋ねたところ、事業を推進するスタッフの育成支援については必要性が高いとする回答がやはり多く集まった。

国際的な産学連携を推進する土台であるスタッフの育成支援ニーズは非常に高いことが改めてわかる。この点は国際的な産学連携の実施に際してのボトルネックと考えられることから、今後の支援、または適切なスタッフの育成手法の提示といったバックアップが有効と考えられる。

人材面以上にサポートの必要性が高いという結果となったのは「国際的な産学連携に対応した標準的な規則・規約や約款の提供・アドバイス」や「会計年度に縛られない、複数年契約に利用可能な公的予算」である。標準的な規則・規約等は、全てのケースに当てはまるものではないとしても、参考情報として各機関が接することができる。現在、国際的な産学連携に取り組んでいない機関が多数あることを考慮すれば、今後、国際的な産学連携を実施する大学等が増加していく場合、各機関が積み重ねた経験やノウハウを蓄積・共有することは有用な取り組みと思われる。