政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)の民間議員は25日、「国公私立大学の枠を超えた経営統合や再編」を提言する。若者の都市部流出などで私立大の経営悪化が深刻さを増しているため、国立大学法人が救済する形で経営安定を目指す。国立大を受け皿にした異例の集約化を通じて乱立する私立大の整理・淘汰を進め、大学教育の機会と質を確保する。
文部科学省の「私立大学等の振興に関する検討会議」が5月にまとめる報告書にもこうした検討課題を盛り込む。提言や報告を受け、6月に政府が策定する経済財政運営の基本方針(骨太の方針)で、大学教育の見直しを訴える。今後、中央教育審議会で議論を進めていく。
民間議員の提言は、教育の質を高めて地方創生やイノベーションを担う人材を育てると同時に、大学を淘汰・再編して有望な研究開発に資金を回す狙いがある。従来は教職員数や学生数で配分を決めている私学助成も、教育の成果に見合った額を出す仕組みに転換。大学が自主的に資金を集められるように、土地などの形で寄付を受けやすくする制度作りも促す。
これらの取り組みで経営改善が進まない場合は、大学同士の再編も強く押し進めていく考えだ。
現在は1つの国立大学法人が1つの大学を運営するが、傘下に複数の大学を抱えられる「アンブレラ法人」に移行することを認める。国立大学法人法を改正し、制度改革を可能にする。将来は国立大を持ち株会社のようにして私立大を傘下に入れる統合も視野に入れる。分野や地域ごとに大学を集約する狙いだ。
私立大は国立大の傘下に入ることで信用力を高め、教員などの人材を派遣してもらうなどして経営の効率化をはかる。民間出身の経営者を受け入れ、産業界との連携強化も探る。再編のメリットが少ない場合は、円滑に閉鎖するために教員や学生、習得した単位を引き継ぐ方法も検討する。
2000年以降、少子化にもかかわらず四年制大学は2割(130校)増えた。乱立による経営悪化で10年以降に10校以上が閉校・募集停止している。「文科省はいい事例をつまみ食いするだけで全体像を見せない」(経済官僚)との声も高まった。教育基盤の劣化は研究力低下などで長期的に国の成長減速にもつながるため、踏み込んだ措置が必要と判断した。
地方では大学進学や就職時に地元を離れる若者が多い。4割強の私大が定員割れしているが、教職員の確保や先端研究に投資ができず、さらに人気が低下する悪循環が強まる恐れがある。地方自治体も地方創生を担う人材が育成できなくなる危機感があり、地元産業界とも協力できるプラットフォームとして大学の経営支援を国に求めている。
実現に向けては課題も多い。文科省は進学率の低さを理由に、大学は必ずしも過剰ではないとの立場だ。大学の見直しでも、国立と私立間の人材の融通など緩い連携案を模索するにとどまる可能性がある。国立大を軸に再編することには私大側の反発も予想される。
同日の諮問会議では社会資本の整備もテーマとなる。各省庁が別々に整備しているインフラデータの集約や、遊休小中学校を活用して地域全体で高齢者を支える地域包括ケア拠点にすることも提言する。遊休不動産や所有者の把握が難しい土地を地図データとして整備することも目指す。
私大再編、国立傘下で 地方で定員割れ深刻 諮問会議の民間議員提言へ|2017年4月22日日本経済新聞 から