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4月に入り、多くの大学が新年度をスタートさせています。前年度からさらに業績を伸ばしたい、あるいは回復させたいと経営計画を練っている大学が大半でしょう。
私は弁護士、税理士の両資格を持ち、上場企業の取締役でもあります。こうした1人3役は珍しいと思いますが、それぞれの立場から大学を見ることで、経営を立体的に見られるようになりました。その経験から、経営が「伸びている」多くの大学では、部長が大切にしていることや考え方、取り組みに意外な共通点があることに気づきました。
「伸びてる大学」はみんな有言実行だ
(途中略)
目標を職員の前で公言したほうがいい理由は2つあります。
まずは、部長1人の力では大学の目標を達成できないからです。職員の力を借りるためには、職員一人ひとりが目標数字を認識し、その数字を達成したいと感じてもらったうえで仕事に取り組んでもらう必要があります。
大学全体の目標を各部署や各人に細分化したり、各月や各週に細分化したりして、職員一人ひとりがその目標数字のどの部分を担っているのかを見えるようにし、役割を自覚できるようにする必要があります。全学の目標として大きな数字をいわれても、職員はどう頑張ればいいのかわからないからです。
そして、目標数字を全職員と共有するもう1つの意義は、目標を声に出すと部長自身が本気になれるということにあります。
内に秘めた目標は誰にも伝わっていませんから、達成できなくても自分の中で言い訳ができます。「職員の頑張りが足りなかった」「開発に想定外の時間がかかった」「見込みが甘かった」など。
全職員に伝えてしまった目標が達成できないと、職員の士気にも悪い影響を与えますし、何よりも自分で言った以上は達成できないと格好悪いですから、どうやれば目標数字を達成できるかを自然に考えます。いつもそのことを考えるようになるので、本や新聞で読んだこと、人との会話の中などにちりばめられている目標達成や問題解決のヒントを、逃さずキャッチできるようになるのです。
私の友人は、「部長はヒーローでなければならない」「そして、ヒーローはみんな有言実行だ」と言っていました。ヒーローは黙って姑息な攻撃を仕掛けることは絶対にしない。
マジンガーZは「ロケットパ~ンチ!」と叫んでからパンチを繰り出し、ドラゴンボールの孫悟空は「か~め~は~め~波~~!」と言ってから波動を出すのです。そして部長はヒーローなのだから有言実行なのだというのです。
もちろん、日々部長が目標数字を公言し、職員の耳と頭にすり込んでいくうちに、職員もその気になっていきます。頭で考えるのではなく、「声に出して言う」ことにはそれくらい大きな力があるのです。
目標は誰が決めればいいのか
そんな大学の目標数字は誰がどのようにして決めるのがいいのでしょうか。このことを私は、日ごろからよい経営を考え抜き、実践しているH部長から教わりました。
「目標とは『意志』なのだから、いちばん高い志をもっている部長が決めて部下に伝えるべきだ」という人がいます。部下にとっては、目標は低いほうが楽ですから、部下に目標を決めさせては高い目標などつくれるはずがないというわけです。
一方で、「上から言われた数字では職員が本気になれるわけがないから、目標数字は職員が自分たちで決めて積み上げるべきだ」という人がいます。職員が自発的に動くためには、自分たちが自発的に設定した目標である必要があるというわけです。
このように、目標をトップダウンで定めるべきなのか、ボトムアップで定めるべきなのかといった議論は、さまざまな場所でよく行われますが、H部長は、「ボトムアップでトップダウンの数字をつくるべきだ」と言います。
つまり、職員は部長が一方的に決めた目標数字では納得せず、本気にならないので、まずは職員たちに目標数字を考えさせます。それが部長の考える数字より低い場合には、「本気を出せばもっとできるのではないか」「本当はもっとやりたいと考えているのではないか」「もう一度考えてきてくれないか」と言いながら、何度も職員と徹底的に話し合うのです。
そこまでした結果、部長が「やる」と約束する数字が、部長のやりたい数字と一致したときに来期の目標が出来上がるというわけです。
ボトムアップでトップダウンの目標数字をつくるためには、何度も職員と話し合うことが必要ですから、今期が終わりそうになって慌てて来期の目標数字を考えても、間に合いません。H部長は期が締まる3カ月以上前から、来期の目標数字を職員と話し合っています。
職員の目標を統一することも大事だ
そして違う目標をもっている人と、同じチームで働くことはできません。ですから、部長は目標を公言することにより、職員の目標を統一することも必要です。
たとえば、あなたが日本代表のサッカー選手だとして、本気でワールドカップで優勝したいと考え、血のにじむようなトレーニングを重ねているとします。ところがチームメートに「自分は日本代表に選ばれただけで満足だ」と考えている人がいたら、どう考えますか。おそらく「こんなやつはチームから外してくれ」と思うのではないでしょうか。
大学でも同じことです。職員の中に目標が低い人が交じっていると、目標が高い職員のやる気を削いでしまいます。全職員に高い目標を与えて、共有させる役目を果たすことができるのはただ1人、部長だけなのです。
伸びてる大学の部長は、部長にしかできない仕事をしています。決して、職員と同じ仕事をしていません。
(途中略)
大学の成長に合わせて、部長の仕事も変わっていかなければなりません。ときどき、どうしても人に仕事を任せることができず、何でも自分で抱え込んでしまう部長がいます。「部下に頼むより、自分がやったほうが早い」と考えてしまう部長に多く見られるケースです。それは「部長が部下の仕事を取り上げてしまっている」状態です。
「組織化」を図るためには
仕事の「属人化」から脱却し、「組織化」を図るためには、部長が何でも仕事を抱え込むのではなく、どんどん部下に任せなければなりません。
任せるとは丸投げでもなく、放任でもありません。任せたから一切口出しをしないとか、ミスをしても叱らないというのもいけません。「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」とは山本五十六の有名な言葉ですが、まずは上司がお手本を見せること、そしてやり方を手取り足取り教えて、やらせてみなければなりません。
部長が忙しくなりすぎてしまうと、部下の前で手本を示したり、手取り足取り教える時間が取れなかったり、日々中途半端な指示を繰り返すことになってしまいます。そして、結局「部下に教えるより自分がやってしまったほうが早い」という悪循環に陥ってしまいます。
自分で手を動かすのではなく、部下に教えるのが部長の仕事です。部長と同じような仕事ができる部下が1人、2人と育つことによって、大学は一気に2倍、3倍と伸びていくのです。
そして、部下が少しずつ仕事を覚えてきたら、今度は最初から最後まで指示をしたり、細かいミスを指摘したりするのではなく、部下に裁量を与え、部下たちだけでもっといい仕事や、もっと短時間でできるやり方を考えられるのが望ましいでしょう。いつまでも細かい指示を繰り返していると、職員はやる気を失い、自分の頭で考えることを放棄して指示待ち人間になってしまいます。
「社長が何でも抱え込む」会社は成長できない できるリーダーは社員を信じて仕事を任せる|2017年4月4日東洋経済 から