「政府の介入が強まる懸念があり、問題が多い」と指摘。
日本の科学者は戦後軍事研究とは一線を画してきたが、なぜ半世紀ぶりに議論することになったのか。科学者は軍事研究とどう向き合うのか、水野倫之解説委員の解説。
解説のポイントは、学術と軍事の歴史的な関係。そして議論では何が焦点となったのか、さらに今後必要なことについて。
学術会議は科学の振興策を政府などに提言するために戦後作られた組織で、去年5月から軍事研究にどうかかわるのか検討会を設置して議論。そして先週の幹事会で、「軍事研究は学問の自由と緊張関係にあることをここに確認し、軍事目的の研究を行わないという過去の声明を継承する」とした新たな声明を決定。
議論で焦点となったのは、戦後に掲げた声明。
戦時中科学者たちは軍に動員され、軍が用意した手厚い環境の下で兵器の開発に協力した。
学術会議は、これを反省し、戦後間もなく、「軍事目的の研究は行わない」とする声明を発表して軍事研究とは一線を画すことを鮮明に。
しかし状況に変化。
安全保障環境が厳しくなっているとして政府は「国家安全保障戦略」などを決定し、防衛力の基盤強化のため、大学との連携を強め民生技術を活用する方針。
防衛省が、将来の防衛装備品の開発に、大学などに資金をだす研究制度。
背景には軍事技術と民生技術の線引きが難しい現状。
ロケットは弾頭を載せればミサイル。
また携帯に位置情報を届けてくれるGPSも、アメリカ軍がミサイル誘導のために開発したシステムを民生利用しているもの。
防衛省は年間最大3000万円を用意。これまでに大学からは防毒マスクや艦船のスピードを上げる研究など9件が採択。
声明があるにもかかわらず、科学者はなぜ応募したのか。
防毒マスクの繊維の研究が採択された豊橋技術科学大学の研究者。
取り組むのは髪の毛の10分の1の太さの極めて細いナノファイバーの開発。人体に有毒なガスを吸着する繊維。
防衛省はこうした繊維を活用すれば防毒マスクを軽量化でき、負担が減らせることに期待。
これに対して研究者は、「この繊維で人を殺傷できるわけではない。使い捨ての防毒マスクができれば、農薬散布にも使える」と言います。
また自由に使える研究費が極めて少なく、目についたのが防衛省の研究制度だったと。
制度に応募した大学が続いたことを受けて、学術会議は、過去の声明との整合性を検討。
議論では、自衛のための研究であれば許されるという主張。
これに対しては、多くの国際紛争は自衛の名のもとに始まっており、歯止めが無くなるとの反論も。
そこで検討会では、政府の安全保障政策の是非については踏み込まず、合意点を見出すため、主に大学の科学者がどう向き合うかを、検討。
焦点となったのは、憲法でも保障されている「学問の自由」。
この点、防衛省の研究制度は、研究の進捗状況を防衛省の職員が確認することになっていること。それに、成果の公開も、事前に防衛省に連絡することになっていたことから、学問の自由が守れなくなる懸念があるという意見で一致。
これをうけて、学術会議は「過去の声明を継承する」としたあらたな声明を決定。
防衛省の制度については「職員が研究の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と指摘するなど、軍事研究に否定的な内容。
これに対して防衛省は「研究に介入することは無く、今後も丁寧に説明していきたい」と。
ただこの声明が決まったからと言って、大学での軍事研究が自動的に禁止されるわけではない。
学術会議の声明は、大学の判断や行動を拘束するものではないから。
今後重要になってくるのは、今回の議論や声明を受けて、各大学やすべての科学者が自らにつきつけられた問題ととらえ、軍事研究にどう対応するのか考えていくこと。
というのもアメリカ軍も日本の民生技術を活用しようと、大学や研究機関に資金の提供を行ったことが明らかに。
しかしこうした研究資金を認めるかどうか審査検討する仕組みがある大学は少ないのが現状。
今後は各大学や研究機関が、それぞれ内部に検討会を設け、今回の声明案をもとにまずは軍事研究にどんな方針で臨むのかを議論していく必要。
そして議論にあたっては、将来を担う若い科学者も参加することが重要。
筑波大学新聞が学生600人にアンケートしたところ、賛成が34%、反対が27%と賛成が上回り、理科系に限ってみると賛成が42%。
そして大学などで議論を深めるためにも学術会議の役割は重要。
学術会議は半世紀もの間、この問題についてかかわりを避けてきた。今後学術会議がこの問題に積極的に関わっていくことが求められる。
科学者は軍事研究にどう向き合うか|2017年3月27日NHK解説委員室ブログ から