施行は、来年の4月からのようですが、大学は、これから、公表すべきとされた情報の整備や公開体制の準備に忙しくなりそうです。
情報公開の促進に向けた体制整備を(2009年10月17日 大学サラリーマン日記)
学校教育法施行規則(文部科学省令)の一部改正の概要について、文部科学省が作成した資料から抜粋してご紹介します。
1 改正の趣旨
現在、学校教育法及び大学設置基準等において、大学等の教育研究活動等の状況について、積極的に情報を公表することが規定されているところであるが、大学等が公的な教育機関として、社会に対する説明責任を果たすとともに、その教育の質を向上させる観点から、公表すべき事項を法令上明確にすることが求められる。
このため、中央教育審議会大学分科会の審議を踏まえつつ、学校教育法施行規則等の一部を改正し、教育情報の公表の一層の促進を図ることとする。
2 改正の内容
(1)大学は、次に掲げる教育研究活動等の状況についての情報を公表するものとする(学校教育法施行規則第172条の2を新設)。
- 大学の教育 研究上の目的に関すること
- 教育研究上の基本組織に関すること
- 教員組織及び教員の数並びに各教員が有する学位及び業績に関すること
- 入学者の選抜に関する方針及び入学者の数、収容定員及び在学する学生の数、卒業又は終了した者の数並びに進学者数及び就職者数その他進学及び就職等の状 況に関すること
- 授業科目、授業の方法及び内容並びに年間の授業の計画に関すること
- 学修の成果に係る評価及び卒業又は修了の認定に当たっての基準に関すること
- 校地、校舎等の施設及び設備その他の学生の教育研究環境に関すること
- 授業料、入学料その他の大学が徴収する費用に関すること
- 大学が行う学生の修学、進路選択及び心身の健康等に係る支援に関すること
※これらの規定は大学院、短期大学についても適用される。また、高等専門学校にも準用する。
(2)認証評価において、上記の情報の公表の取組状況が確認されるよう、必要な規定を追加する(学校教育法第110条第2項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令第1条の改正)。
(3)(1)に伴い、大学設置基準等の法令について、所要の整理を行う。
3 公布・施行
公布:平成22年6月項 施行:平成23年4月1日
参考までに報道された記事を二つほどご紹介します。
学生数の公開義務付け=大学・短大に、来年から-文科省(2010年5月26日 時事通信)
中央教育審議会大学分科会は26日、全国の大学と短大、大学院に学生数や教員数などの情報公開を義務付ける学校教育法施行規則改正を了承した。文部科学省が改正規則を制定し、来年4月に施行する。
大学の経営悪化につながる可能性がある定員割れなどの重要情報は、これまで実質的には公表義務がなかったが今後は明らかにされる。
改正規則では、定員や入学者数、在学者数、就職者数など学生に関する情報のほか、教員数や教員の学位・業績などをインターネット上や機関誌に掲載することを義務付ける。
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2010052601070
情報公開:「入学者数公開」大学に義務付け・・・中教審了承(2010年5月26日 毎日新聞)
文部科学相の諮問機関「中央教育審議会」大学分科会は26日、入学者数や就職者数の情報公開を11年4月から大学や短大、大学院、高等専門学校に義務付ける大学設置基準等の改正を諮問通り了承した。
情報公開が義務付けられるのは、入学者数や在学生数、定員、卒業・修了者数のほか、進学・就職者数といった進学就職状況。教員の数や教員の持つ学位や業績、年間の授業計画など9項目にわたる教育研究情報も含まれる。パンフレットなどの刊行物やホームページなど広く周知できる方法で公表しなければならない。
同省によると、私立大学の中には、合格者数だけしか公表せず、定員割れかどうかの実態が分かりにくいところもある。
また、就職率は、大学による差が明確になってしまうため、大学側は公表には消極的だ。審議の過程でも、就職率は大学だけの責任とは限らず、地域の求人率なども関連するとの声が上がったが、「就職も大学教育の成果」として盛り込まれることが決まった。
同省は「教育の質を向上させ、進学を希望する生徒や保護者の利益を図るため」と説明している。義務化後、情報公開について、各大学の状況を見ながら、大学側が説明責任を果たしているかどうかを点検する。私学助成や競争的資金の配分・選定などの際、評価ポイントにすることも検討する。
http://mainichi.jp/life/edu/news/20100527k0000m040048000c.html
追記
社説:大学情報公開 地域との連携の礎に(2010年6月21日毎日新聞)
大学など高等教育機関が来年4月から授業内容や入学、就職状況などの情報を公開するよう義務づけられる。当然のことだ。この徹底をバネに、地域に開かれ、連携する大学へ脱皮を図ってほしい。
私立では4割以上の大学で定員割れがあるといい、一部で募集停止も行われるなど少子化の中で経営環境は厳しい。国公立も財政難は深刻だ。現在770を超える大学の多くは、入学者を選ぶ側から選ばれる側に移りつつあるといえるだろう。
公開対象は、入学者数、卒業者数、進学・就職の進路状況、教員数やその学位と業績、年間の授業計画と方法、内容など9項目が挙げられた。これらが容易に分かるよう、ホームページや刊行物などで広く知らせることを求めている。これまで入試の合格者数しか公にせず、実際の入学者が定員を満たしているのか判然としにくい例もあったという。
授業内容の公開はどこまでという規定はないが、抽象的な項目を並べたものではなく、どのような方法で何を目的にした授業か、具体的に示さなければ公表する意味はない。
就職状況には経済環境で差異がある。構造的な不況と雇用不安がある地域と、就業機会に比較的恵まれた地域で有利不利が生じる、と大学側には公開に二の足を踏む声もある。
しかし、大学で学んだことを将来どう生かせるかと考える志願者側には絶対必要な情報であり、実態を開示するのは当然だ。
これは大学と地域社会の密接な連携という、これからの大学運営に不可欠の課題にかかわってくる。大学が高度な教育研究機関として超然と存在しておればよかった時代はとうに過ぎた。今や5割を超す進学率ながら、少子化で大幅な学生数増は見込めず、数字の上では「全入時代」と呼ばれる状況になった。全体的な学力低下傾向も指摘されて久しい。
「大学の存廃は淘汰(とうた)に任せよう」という意見もある。だが、その前に大学と地域や産業界が人材育成についてどれほど意見を交わし、議論しているだろう。また生涯学習や「学び直し」の機会を提供する地域の教育機関としても活用できるはずだ。
地域も大学をもったいない公共の財産として生かすべく知恵を絞ろう。実際、卒業生や社会人に再教育の機会を継続的に提供し、成功している大学は少なくない。
今「キャリア教育」の必要性が盛んにいわれる。まだその体系は整っていないが、自分にマッチした職業の選択、そこに生きがいを見いだし創造していく意欲や力の育成といったものだ。開放された大学と地域の密接な協力、交流、活用はその大きな支えにもなるはずである。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100621k0000m070086000c.html