2010年6月8日火曜日

国立大学法人の概算要求

国立大学法人から文部科学省に提出される概算要求作業もいよいよ大詰めを迎えています。各大学とも6月17日(木曜日)の提出期限に向けて、調書の最終調整や学内の意思決定等で担当者の方は多忙な日々を送られていることでしょう。

平成23年度の概算要求については、風の便りによれば、政府が取りまとめる「新成長戦略」がその柱となるようですが、今後も税収が伸びるとは思えませんし、国際経済の落ち込みもあり、客観的な情勢は極めて厳しいようです。

このような中、各大学は、国の政策課題や地域の知の拠点として係わる課題等を踏まえ、他大学との差別化をいかに図れるかなど要求事項の更なる精選が求められています。

民主党政権の国立大学法人や高等教育重視の考え方に期待したいと思います。

さて、概算要求に当たって、文部科学省が、国立大学法人評価委員会等の意見を参考としつつ取りまとめ、各国立大学法人に示した「平成23年度の国立大学法人運営費交付金による支援に係る留意点」(平成22年4月20日各国立大学法人学長宛、文部科学省高等教育局長・研究振興局長連名通知)を抜粋してご紹介します。
   

平成23年度の国立大学法人運営費交付金による支援に係る留意点について

■支援の基本的な考え方■

平成23年度の国立大学法人運営費交付金による支援の基本的な考え方を以下のとおり示す。

1 教育研究事業に対する支援

各国立大学法人における教育研究活動は、各法人の個性や特色に応じて意欲的かつ重点的に取り組まれるものであるが、同時に、社会経済の変化や学術研究の進展等を踏まえた我が国の高等教育政策、学術政策の推進の観点からも、その中核を担う重要な活動であり、次の(1)から(6)までに掲げる事業について必要な支援を行うことが求められる。

その際には、中期目標・中期計画や国の各種政策との関連性・整合性も勘案した上で、各法人の自助努力を求めつつ、各法人における事業の優先度を尊重した適切な支援となるようにすることが必要である。

(1)国立大学法人の個性・特色を生かした教育研究事業への支援

各法人としての役割や使命を果たすため、その個性特色を生かした先導的・萌芽的な取組、各種の社会的な要請、学問バランス等を踏まえた取組を支援

(2)国の政策課題等を踏まえて自主的に取り組まれる教育研究事業への支援

「新成長戦略」(世界的に魅力ある大学院、理工系博士課程修了者の完全雇用、新しい公共を担う高度な人材養成など)、「東アジア共同体構想」(域内の人的交流の拡充や各国言語・文化の専門家育成など)等の国の政策課題や地域の知の拠点として関わる課題等を踏まえて各法人が自主的に取り組む教育研究活動を支援

(3)大学間の連携・協力に基づく取組への支援

文部科学大臣が認定する「共同利用・共同研究拠点」及び「教育関係共同利用拠点」を含め、大学同士の連携・協力に基づき、各大学単独では不可能であっだ教育や研究等の抜本的な改革・発展につながる取組を支援

(4)教育・研究・診療基盤設備の老朽化対応への支援

各法人が保有する教育・研究・診療用の基盤的な設備の更新等を支援

(5)学生に係る教育研究環境の充実等への支援

教育機会確保のための授業料減免措置の取組、留学生や障害のある学生のための教育環境の整備等の学生に係る教育研究環境の充実に資する取組、学部・大学院における授業や研究指導の内容・方法の改善を図るための組織的な研修・研究の取組等を支援

(6)附属病院の機能強化・医療の向上の取組等への支援

地域医療のセーフティネット構築のための体制等整備、医師・看護師をサポートするコメディカルスタッフの配置等の取組、健康対策のための革新的な医療技術の研究開発や実用化の取組、感染症等の疾病に対応するための国際的な教育研究の取組等を支援

2 教育研究組織の整備に対する支援

教育研究組織の整備については、中期目標・中期計画に沿い、「新成長戦略」(世界的に魅力ある大学院、理工系博士課程修了者の完全雇用、新しい公共を担う高度な人材養成など)、「東アジア共同体構想」(域内の人的交流の拡充や各国言語・文化の専門家育成など)等の国の政策課題や各法人が地域の知の拠点として関わる課題等も踏まえた整備が求められる。

基本的には既存組織の見直しにより対応することになるが、新領域等に係る教員の配置に必要となる経費の増額など既存組織からの財源捻出だけでは対応が困難な場合には、必要に応じて、国としての積極的な支援が求められる。

その際、「国立大学法人の組織及び業務全般の見直しについて」(平成21年6月5日文部科学大臣決定)の趣旨に沿った取組を促すことが重要である。

なお、同決定への対応が適切になされていない法人については、その状況に応じ、支援の見直しを行うことが必要である。

■各国立大学法人における留意点■

平成23年度の国立大学法人運営費交付金による支援に関して、各国立大学法人における留意点を以下のとおり示す。

1 数育研究事業に係る留意点

(1)各事業区分(プロジェクト分、全国共同利用・共同実施分、基盤的設備等整備分)に共通する留意点

1)事業区分との適合性等
  • 事業区分に対応した取組として具体的かつ明確に事業内容が設定され、社会ニーズや学問の進展を踏まえたものとなっているか。
  • 事業内容が中期目標及び中期計画の記載事項と関連性のあるものとなっているか。
  • 各種の競争的資金による事業との違いが明確となっているか。
2)実現可能性等
  • 事業の目的、目標が具体的かつ明確に設定され、かつ実現可能な内容となっているか。
  • 組織、経費、実施体制等について、事業の推進にふさわしい計画となっているか。
  • 事業を確実に実現するため、学内外の協力体制の構築等の具体的な工夫が行われているか。
  • 他大学等の諸機関との連携により推進する事業については、a)連携先との調整や役割分担の明確化が図られ、連携による事業効果が期待できるものとなっているか、b)それぞれが分担する経費の内容が明確になっているか、c)法人の主体性が確保されているか。
3)社会的効果等
  • 事業成果の具体的な活用方策や、事業成果による波及効果が十分に期待できるものとなっているか。
  • 事業が教育研究活動の改善をもたらすものとなっているか。
(2)各事業区分ごとの留意点

1)プロジェクト分

<国際的に卓越した教育研究拠点機能の充実>
  • 客観的な指標等により、推進する事業が国際的に卓越していることの検証が十分に行われているか。
  • 全学的な取組として充分な実施体制が確保されるなど、拠点機能を発揮することが確実に見込まれるものとなっているか。
  • 国内外の大学や教育研究機関との連携がなされているか。
<高度な専門職業人の養成や専門教育機能の充実>
  • 高度な専門職業人の養成に関する事業については、教育方法の開発や教育内容の質の向上が見込まれるものとなっているか。
  • 専門教育機能の充実に関する事業については、高い専門性や実践的な能力を培うための教育内容・方法の改善が見込まれるものとなっているか。
<幅広い職業人の養成や教養教育機能の充実>
  • 教育目標の明確化とこれに伴う教育課程の改善、成績評価の在り方の改善、学生の就職活動等に係る学生支援体制の抜本的充実に向けた取組など、教育効果の創出が期待できるものとなっているか。
<大学の特性を生かした多様な学術研究機能の充実>
  • 推進する事業の当該研究分野における位置付けや意義についての検証が十分に行われているか。
  • 長年取り組んできた分野の更なる発展を図ろうとする取組、当該法人の利点を生かした新たな研究分野・領域への挑戦など、各法人の特性を生かした取組となっているか。
<産学連携機能の充実>
  • 事業内容全体と連携内容との整合性や、連携先との調整、役割分担の明確化が図られており、連携による事業効果が期待できるものとなっているか。
<地域貢献機能の充実>
  • 地域において当該法人に期待される役割を発揮しようとする取組となっているか。
2)全国共同利用・共同実施分
  • 共同利用・共同研究拠点における研究活動は、拠点としての機能発揮を存分に期待できるものであり、関係分野のニーズを的確に反映した内容を有しているか。
  • 教育関係共同利用拠点における教育活動は、拠点としての機能発揮を存分に期待できるものであり、かつ、利用する全ての大学の教育の改善に資するものであるか。
3)基盤的設備等整備分
  • 設備マスタープランにおいて現有設備の状況を分析し、更新等が予定される設備の範囲を把握するとともに、継続的に設備整備に充てる学内資源の額等を明示しているか。
  • 設備マスタープランにおいて具体的な設備整備(設備名、金額、財源等)についての年次計画が設定されているか。
(3)継続事業についての留意点

継続事業については、当該事業の進捗状況を把握し、事業計画の有効かつ効率的な推進が図られているか。

【進捗状況の把握の観点(例)】
  1. 当初の目的・目標に沿って計画が進展しているか。
  2. 事業を確実に実施するための学内外の協力体制があるか。
  3. 事業の実施により社会的課題や教育研究活動に改善効果をもたらしてきているか。
  4. 経費が効率的・効果的に使用されてきているか。
  5. 事業の実施上の課題に対して適切に改善策を検討し、改善を講じているか。
  6. 事業計画に沿って事業が進展していない場合の解決策や、計画で見込まれた以上の成果が得られた場合の対応策について検討しているか。
  7. 事業計画を変更する場合には、変更内容や変更理由が合理的であるか。
  8. 事業の実施状況、事業の成果、外部からの評価を客観的な指標等をもって的確に把握しているか。
2 教育研究組織の整備に関する留意点

教育研究組織については、以下に示す点に留意しつつ、学内における資源の再配分の努力を十分に行いながら、新たな学問分野の発展や社会ニーズに適切に対応するために必要な組織整備を行うことが求められる。
  1. 学部については、18歳人口の減少を踏まえつつ、社会ニーズ、志願者や就職等の状況及び将来見通し等の検討が十分に行われているか。
  2. 大学院については、課程ごとの学位授与の実績や見込みの検証、大学院教育の質の維持・確保、定員の充足状況等の検討が十分に行われているか。
  3. 研究所やセンター等については、新たな学問分野の発展や社会ニーズの変化等と当該組織整備との関係・必然性についての検討が十分に行われているか。
  4. 各法人の置かれた状況や、その個性・特色を生かし、また、必要に応じて、地域社会の特性や要請を踏まえたものとなっているか。
  5. 当該組織が、中央教育審議会答申等を踏まえるなど、我が国の高等教育政策、学術政策の方向性を反映した位置付けとなっているか。