2010年6月19日土曜日

大学と新成長戦略

政府は、昨日(6月18日)、今後10年間の経済運営の指針となる「新成長戦略」を閣議決定しました。絵に描いた餅にならないよう、政治の実行力が求められます。

大学関連部分を抜粋します。

科学・技術力による成長力の強化

人類を人類たらしめたのは科学・技術の進歩に他ならない。地球温暖化、感染症対策、防災などの人類共通の課題を抱える中、未来に向けて世界の繁栄を切り拓くのも科学・技術である。

我が国は、世界有数の科学・技術力、そして国民の教育水準の高さによって高度成長を成し遂げた。しかし、世界第二の経済大国になるとともに、科学・技術への期待と尊敬は薄れ、更なる高みを目指した人材育成と研究機関改革を怠ってきた。我が国は、今改めて、優れた人材を育成し、研究環境改善と産業化推進の取組を一体として進めることにより、イノベーションとソフトパワーを持続的に生み出し、成長の源となる新たな技術及び産業のフロンティアを開拓していかなければならない。

研究環境・イノベーション創出条件の整備、推進体制の強化

このため、大学・公的研究機関改革を加速して、若者が希望を持って科学の道を選べるように、自立的研究環境と多様なキャリアパスを整備し、また、研究資金、研究支援体制、生活条件などを含め、世界中から優れた研究者を惹きつける魅力的な環境を用意する。基礎研究の振興と宇宙・海洋分野など新フロンティアの開拓を進めるとともに、シーズ研究から産業化に至る円滑な資金・支援の供給や実証試験を容易にする規制の合理的見直しなど、イノベーション創出のための制度・規制改革と知的財産の適切な保護・活用を行う。科学・技術力を核とするベンチャー創出や、産学連携など大学・研究機関における研究成果を地域の活性化につなげる取組を進める。

科学・技術は、未来への先行投資として極めて重要であることから、2020年度までに、官民合わせた研究開発投資をGDP比の4%以上にする。他国の追従を許さない先端的研究開発とイノベーションを強力かつ効率的に推進していくため、科学・技術政策推進体制を抜本的に見直す。また、国際共同研究の推進や途上国への科学・技術協力など、科学・技術外交を推進する。

これらの取組を総合的に実施することにより、2020年までに、世界をリードするグリーン・イノベーション(環境エネルギー分野革新)やライフ・イノベーション(医療・介護分野革新)等を推進し、独自の分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数を増やすとともに、理工系博士課程修了者の完全雇用を達成することを目指す。また、中小企業の知財活用を促進する。

質の高い教育による厚い人材層

成長の原動力として何より重要なことは、国民全員に質の高い教育を受ける機会を保障し、様々な分野において厚みのある人材層を形成することである。すべての子どもが希望する教育を受け、人生の基盤となる力を蓄えるとともに、将来の日本、世界を支える人材となるよう育てていく。

このため、初等・中等教育においては、教員の資質向上や民間人の活用を含めた地域での教育支援体制の強化等による教育の質の向上とともに、高校の実質無償化により、社会全体のサポートの下、すべての子どもが後期中等教育を受けられるようにする。その結果、国際的な学習到達度調査において日本が世界トップレベルの順位となることを目指す。

また、高等教育においては、奨学金制度の充実、大学の質の保証や国際化、大学院教育の充実・強化、学生の起業力の育成を含めた職業教育の推進など、進学の機会拡大と高等教育の充実のための取組を進め、未来に挑戦する心を持って国際的に活躍できる人材を育成する。

さらに、教育に対する需要を作り出し、これを成長分野としていくため、外国人学生の積極的受入れとともに、民間の教育サービスの健全な発展を図る。
http://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/sinseichou01.pdf


関連報道を抜粋します。

社説:「新成長戦略」 人材育成を最優先に(2010年6月19日毎日新聞)

日本経済の活力を高めるという意味では、人材の育成に最も力を入れるべきだろう。人が変わらない限り、経済も変わらない。グーグルやアップルが成功したのは、米政府が「成長分野」に指定し、支援したからではない。まだ誰もやっていないことに挑戦する精神やそれを後押しする教育、経営、金融が米国にはある。

政府は「グローバル人材の育成と高度人材の(海外からの)受け入れ拡大」を戦略の一つに位置づけた。具体的には、外国語教育や高等教育の国際化の支援、外国人学生の日本企業への就職支援などを挙げている。迅速に、大胆に、実行してもらいたい。初等教育から、自由な発想を奨励することも大切だ。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/archive/news/20100619ddm005070003000c.html


クローズアップ2010:新成長戦略決定 「強い経済」実現掲げ 財源確保、道険しく(2010年6月19日毎日新聞)

力を入れるのが「科学・技術立国」だ。日本の競争力を今後も維持するため、「特定分野で世界トップ50に入る研究・教育拠点を100以上構築する」との目標を定め、各国の主力研究機関と研究者の交流を進める「トップレベル頭脳循環システム」、一部の拠点に資金を重点化する「リーディング大学院」などを今後1、2年以内に始める。

特に、「若者が希望を持って科学の道を選べるよう」改革を加速するとし、就職難が続く博士課程修了者の完全雇用実現や「特別奨励研究員(仮称)」制度の創設を掲げた。

「世界トップ50を100拠点」の目標については、現行の科学技術基本計画に「世界トップクラスの研究拠点を30程度形成」との目標があり、今回は「上位50位」とハードルを下げつつ、拠点数を拡大する。文部科学省内には「急に出てきた数字」といぶかる声もある。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100619ddm003010069000c.html