今回各大学に伝達された内容は、これまでの運営費交付金算定ルールが変更されたこともあり、資料を読むだけでは理解することがなかなか大変です。ある大学の会計監査人(公認会計士)さんも、会計処理、決算への影響を含め分析するのが大変だとおっしゃっていました。
◇
それでは、このたび閣議決定された平成22年度予算案は、大学にとってどのような意味を持つ内容なのでしょうか。まずは新聞から抜粋します。
教育の予算案、大幅に伸びたけど 明暗わかれた大学事業(2010年1月12日 朝日新聞)
大学病院を強化する予算や奨学金は増えたが、留学生の受け入れや大学の補助事業は大幅減に-。来る18日召集予定の通常国会に提出される2010年度の政府予算案で、教育予算全体の金額は大幅に伸びたものの、大学関連予算は事業によって明暗が分かれた。
削減の一方で、大学の経営基盤となる国からの「国立大運営費交付金」の一律の削減方針が撤廃された。運営費交付金は、自民党政権下の「骨太の方針」で毎年1%ずつ削られ、法人化後の5年間で720億円減っている。小規模の大学なら約20校の配分額にあたるという。
今回の予算案をみると、総額1兆1585億円と、結果的に0.94%減になった。厳しい経営状態自体は変わらないが、それでも国立大学関係者は、削減方針の撤廃に、ひとまず胸をなで下ろしている。また、文科省も「09年度2次補正での計上分を加えると0.2%減にとどまっている」としている。
また、私立大の経常費補助(私学助成)は、0.1%増の3222億円で4年ぶりの増額になった。
大学生への奨学金事業も大幅に改善されそうだ。予算額は前年度と同じだが、財政投融資や返還金の増額分を含めた事業規模は、6.1%増の1兆55億円に。貸与人数を3万5千人増やして118万人分とした。
医師不足対策では、医学部の定員増を受けて、医学教育や大学病院の機能強化のために25.3%増の68億円を計上した。そのうち、医師らの事務負担を減らすスタッフ雇用のために21億円が新しく盛り込まれた。
09年度の2次補正予算でも、医学部定員が増えたことに伴う整備事業に24億円が、周産期医療の整備には5億円が計上されている。
http://www.asahi.com/edu/news/TKY201001120194.html
◇
次に、文部科学省は、予算案に関しどのような説明をしているのでしょうか。文部科学大臣談話を抜粋します。
平成22年度文部科学省予算(案)関係(文部科学大臣談話)(平成21年12月25日)
国立大学法人運営費交付金については、前政権下において、骨太2006で決められていたマイナス1%の削減方針を撤回しつつ、医学部定員増に伴う教育環境の整備充実や授業料免除枠の拡大などを図ることとしています。
医師不足解消のための医師等養成と大学病院の機能強化については、医師等の医療人材養成機能強化、大学病院で働く医師等の勤務環境の改善などを行うことといたします。
大学奨学金については、事業の健全性を確保するとともに、貸与人員で対前年度3万5千人増(無利子5千人、有利子3万人)の118万人の学生に奨学金の貸与ができるよう充実を図ります。また、8.5万人の国私立大学生に授業料減免をします。
http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1288759.htm
◇
それでは、最後に、文部科学省が各大学に通知した資料から抜粋します。(資料のほとんどが担当者向けのマニアックな記述のため多くを省略しています。ご了承ください。)
平成22年度文部科学省予算(案)について
1 平成22年度文部科学省予算(案)のポイント
- 「コンクリートから人へ」の理念に立ち、「人と知恵」を産み育てる施策に重点化
- マニフェスト主要事項である高校の無償化を確実に実施
- その他の事業については、事業仕分けの評価結果を踏まえた予算の見直しを行い、文部科学省予算については、過去30年間で最高の伸び率となる5兆5,926億円(対前年度3,109億円(5.9%)増)を確保
2 文教関係予算のポイント
- 文教予算については、過去30年間で最高の伸び率(対前年度8.1%増)
- 家庭の状況にかかわらず、全ての意思ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくるため、公立高校の授業料を無償化するとともに、高等学校等就学支援金を創設することにより、民主党マニフェストを更に踏み込んだ内容を実現
- 義務教育費国庫負担金については、教員が子どもと向き合う時間を確保するため、教職員定数を大幅に改善(4,200人(対前年度の5倍強))
- 国立大学法人運営費交付金については、骨太2006以来の削減方針を撤回
3 高等教育関係予算案のポイント
- 国立大学法人運営費交付金の確保 1兆1,585億円(△110億円)
- 交付金総額について、骨太方針2006で決められていた毎年度△1%の削減方針を撤回(△1%未満の削減にとどめる)
- (参考)第2号補正予算案(+82億円(附属病院の救急医療・基盤設備))を含めると対前年度28億円減(△0.2%)。更に国立大学法人等施設の整備 503億円(+62億円)
- 附属病院に係る経営改善係数の廃止
- 医学部入学定員増に伴う教育環境の整備充実(+13億円)、授業料減免枠の拡大(+14億円)、地域医療のセーフティネットの構築の体制整備(+79億円)などを推進
- 私立大学等経常費補助の充実 3,222億円(+4億円)
- 経常費補助総額について、骨太方針2006で決められていた毎年度△1%を見直し、対前年度4億円の増額(4年ぶりの増額)
- 授業料減免補助の大幅拡大(2倍増)、地域における高等教育の機会の確保や自主的経営改善に対する支援、医学部定員増に伴う教育環境の整備充実などを推進
- 医師不足解消のための医師等養成と大学病院の機能強化 68億円(+14億円)
- 医師不足を解消し、質の高い医療サービスを安定的に提供するため、大学・大学病院において、医師等の医療人材養成機能を強化(26億円)
- 大学病院における医師等の勤務環境の改善のための人員の雇用等による大学病院の機能強化を実施(新規22億円)
- 大学奨学金等の充実 1,309億円(±0)事業費ベース1兆55億円(+580億円)
- 事業の健全性を確保しつつ、貸与人員を対前年度3.5万人増(118万人の貸与)、無利子奨学金5千人増、有利子奨学金3万人増
- 8.5万人の国私立大学生の授業料減免を実施
- 無利子奨学金における支給開始時期の早期化(在学採用7月→4月)
- 経済的理由による返還猶予者等に対する減額返還の仕組みの導入
- 大学教育改革の推進 466億円(△135億円)
- グローバルCOE、大学院GP、大学間戦略連携推進事業など国公私立大学を通じた質の保証や教育研究拠点形成の支援事業について、事業仕分け結果を踏まえ、効率化・重点化を図りつつ、若手研究者の研究の継続などに留意しつつ確実に実施
- 学生の就業力の育成強化 30億円(新規)
- 現下の厳しい雇用情勢を踏まえ、学生の卒業後の社会的・職業的自立につながる教育課程内外にわたる国公私立大学等の実学的取組(キャリアガイダンス)を支援する新たな事業(大学生の就業力育成支援事業)を創設
- 大学間の国際交流の推進 38億円(△3億円)
- 日中韓等のアジア地域での大学間交流の促進のため、国際化拠点整備事業を引き続き推進するとともに、成長分野(環境保全、エネルギー、情報通信等)での高度専門職業人材育成のための留学生受入れの新たな事業(新規5億円)を創設
- アジア地域における質の保証に関する国際会議を来年度我が国で新たに開催
(参考)平成21年度第2号補正予算案(高等教育局関係)
- 新卒者の就職支援態勢の強化 1億円
- 救急医療の最先端機器の整備・病院基盤設備の更新 82億円
- 医師不足解消のための医学部定員増に伴う教育環境の整備 24億円
- 周産期医療環境の整備 6億円 計 113億円
国立大学法人運営費交付金予算額の推移
区分 | 予算額 | 差引対前年度額 | 対前年度比 |
---|---|---|---|
平成16年度 | 1兆2,415億円 | - | - |
平成17年度 | 1兆2,317億円 | ▲98億円 | ▲0.8% |
平成18年度 | 1兆2,214億円 | ▲103億円 | ▲0.8% |
平成19年度 | 1兆2,043億円 | ▲171億円 | ▲1.4% |
平成20年度 | 1兆1,813億円 | ▲230億円 | ▲1.9% |
平成21年度 | 1兆1,695億円 | ▲118億円 | ▲1.0% |
平成22年度(案) | 1兆1,585億円(注) | ▲110億円 | ▲0.9% |
(注)平成22年度概算要求のうち、医療機械設備(82億円)については、平成21年度第2号補正予算案に前倒し計上
国立大学法人運営費交付金関連の主な係数について
区分 | 根拠 | 数値(平成21年度) | 平成22年度 予算案の対応 |
---|---|---|---|
効率化係数 | 運営費交付金算定ルール、中期計画 | 教員給与相当額を除外した教育研究経費(一般管理費を含む)について、毎年削減(▲1%) | 廃止。但し平成22年度については、臨時減を実施 |
経営改善係数(附属病院) | 運営費交付金算定ルール、中期計画 | 附属病院運営費交付金を受ける病院に毎年増収努力(2%) | 廃止 |
歳出改革 | 閣議決定(基本方針2006) | 交付金予算額について毎年削減(平成23年度まで)(▲1%) | 廃止 |
人件費改革 | 簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律 | 平成18年度以降5年間で人件費について削減(▲5%以上) | 継続 |