このたび、国立大学協会から各国立大学宛、「内閣府の官民競争入札等監理委員会公共サービス改革小委員会国立大学法人分科会において、平成22年6月の公共サービス改革基本方針の改定に向け、国立大学法人の事務(施設の管理運営業務・図書館業務)を公共サービス見直しの対象業務として検討が進められている」旨の情報提供がありました。
具体的には、上記分科会において、首都圏7大学(東京大学、東京医科歯科大学、東京学芸大学、東京工業大学、お茶の水女子大学、一橋大学、政策研究大学院大学)から当該業務内容についてヒアリングを実施し、改善の取組み状況等に関する議論を行うことになっているとのこと。また、全国立大学法人に対し、施設管理運営業務及び図書館業務の民間委託に関するアンケート調査を実施し、同分科会の評価結果に反映するとの情報もあるようです。
この市場化テスト、個人的には以前から興味があり、国立大学経営の効率化・合理化に資する導入価値の高い制度ではないかと思っています。既に自治体では積極的に導入されているところもありますし、教育・研究という業務の特性に配慮しなければならないといった国会の付帯決議などを踏まえつつも、管理的な業務・運営に関しては導入に向けて前向きに検討してもいいのではと思っています。
この国立大学に関する市場化テストの概要について、国立大学協会から提供された資料の中から抜粋してご紹介します。
1 市場化テストとは
「市場化テスト」は、「民でできるものは民へ」の具体化や公共サービスの質の維持向上・経費の削減等を図るためのツールであり、官の世界に競争原理を導入し、官における仕事の流れや公共サービスの提供の在り方を変えるもの。具体的には、「官」と「民」が対等な立場で競争入札に参加し、価格・質の両面で最も優れた者が、そのサービスの提供を担っていくこととする制度。平成18年6月に「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(以下、「市場化テスト法」という。)」が制定され、制度開始。担当は内閣府官民競争入札等監理委員会事務局及び公共サービス改革推進室。
(参考)内閣府HP「市場化テストとは」
2 競争の導入による公共サービスの改革に関する法律制定の経緯
市場化テスト法においては、対象となる行政機関の範囲を第2条で規定しており、国立大学法人・大学共同利用機関法人についても、その対象となっている。そのため、公共サービス改革基本方針において官民競争入札及び民間競争入札の対象として選定された公共サービスについて、官民競争入札実施要項を定めることが義務付けられている。しかしながら、国立大学法人については、国会の附帯決議において、その特性に鑑み、市場化テストの適用について、慎重かつ適切に対応することとされている。
(参考)国会附帯決議
- 国立大学法人、文化芸術や科学技術については、独立行政法人とは別途の国立大学法人制度を創設した趣旨、長期的かつ継続的な観点に立った対応の重要性などを踏まえ、それぞれの業務の特性に配慮し、本法の規定する手続に従い、慎重かつ適切に対応すること。(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律国会附帯決議(平成18年4月19日 衆・行政改革に関する特別委員会))
- 国立大学法人については独立行政法人制度と別途の制度を創設した趣旨を、文化芸術や科学技術の振興については長期的かつ継続的な観点に立った対応が重要であることをそれぞれ踏まえ、各業務の特性に配慮し、本法に規定する手続に従いつつ、慎重かつ適切に対応すること。(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律国会附帯決議(平成18年5月25日 参・行政改革に関する特別委員会))
3 官民競争入札等監理委員会の概要
市場化テスト法では、内閣府に第三者委員会として官民競争入札等監理委員会を設置することとされており、監理委員会は、1)公共サービス改革基本方針の案の審議、2)官民競争入札実施要項等の審議、3)官民競争入札の落札者の決定に係る評価の審議、4)これらの事務等にかかる報告の徴収、勧告等を行うこととされている。
官民競争入札等監理委員会にはテーマに応じて委員会や分科会が置かれており、市場化テストの対象を議論するものとして公共サービス改革小委員会が置かれて、その中に国立大学法人分科会が平成20年7月に設置されている。本分科会における検討の一環として、内閣府において、各国立大学法人に、アウトソーシング実施状況等調査を行うとともに、アウトソーシング先進事例調査を昨年実施。
(参考)第1回国立大学法人分科会(平成20年7月28日)の配布資料
4 公共サービス改革基本方針と国立大学に関する記述
平成20年7月からの国立大学法人分科会における議論を踏まえ、平成21年6月に公共サービス改革基本方針が改定されており、国立大学についても以下のような記述が盛り込まれ、各国立大学法人等において、民間活用の一層の推進を検討することとされている。
(参考)公共サービス改革基本方針(別表)(平成21年7月10日閣議決定)
- 国立大学法人については独立行政法人制度と別途の制度を創設した趣旨を踏まえ、業務の特性に配慮しつつ、経営効率化の観点から、既に他の国の行政機関等において官民競争入札等の対象とされ、質の維持向上及び経費の削減が期待される施設の管理・運営業務、内部管理業務、試験実施業務、医業未収金の徴収業務等について、官民競争入札等を含む民間活用の一層の推進を検討する。
- 国立大学法人については独立行政法人制度と別途の制度を創設した趣旨、文化芸術や科学技術については長期的かつ継続的な観点に立った対応が重要であることを踏まえ、各業務の特性に配慮し、法に規定する手続に従い、慎重かつ適切に対応する。
5 高等教育関係における市場化テストの導入状況
高等教育関係では、これまでに日本学生支援機構の兵庫国際交流会館の管理・運営業務(平成21年12月)、大阪第二国際交流会館の管理運営業務(平成20年11月)、広島国際交流会館及び東京国際交流館プラザ平成の管理運営業務(平成19年12月)、大学入試センターの大学入試センター試験の出願受付業務・成績開示業務(平成21年4月)について民間競争入札を実施している。
6 今後のスケジュール
公共サービス改革基本方針については、毎年6、7月を目処に改定を行っており、新政権発足後初めての官民競争入札等監理委員会において、行政刷新担当大臣の指示で11の項目について公共サービスの見直しを本格的に進めることとされており、その中に国立大学法人施設の管理運営と国立大学法人の事務が盛り込まれている。
内閣府官民競争入札等監理委員会事務局としては、これを踏まえ、国立大学法人関係の議論の進め方を文部科学省に提示してきており、それによると、首都圏7大学については国立大学法人分科会の場において施設等管理運営の実態と図書館業務の実態等についてヒアリングを行うとともに、他の国立大学に対して同様のアンケートを実施し、市場化テストの対象業務を議論し、本年6月(予定)の公共サービス改革基本方針の改定に向けて作業を行っていくとのこと。
(参考)公共サービスの見直しの進め方(仙谷大臣配布資料)(第55回監理委員会(平成21年12月10日開催)配布資料)
(参考)第56回官民競争入札等監理委員会配布資料
7 まとめ
各大学の判断において対象業務を民間企業等に委託する場合と、市場化テストの対象にする場合の違いについては、第三者に委託するということでは違いはないが、市場化テストについては、1)市場化テスト法で業務の落札者に守秘義務やみなし公務員規定が課せられること、2)実施中の監督、実施後の評価などの仕組みにより実施業務の質を確保できること、3)官民競争入札等監理委員会の専門的見地からのレビューやアドバイスにより多面的に実施方法を検討できること等が考えられる。
ただし、これまで各大学の判断において対象業務を民間企業等に委託する場合に比べ、市場化テスト法(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律)に則り実施する場合は、次の点が大きく異なる。
1)仕様書等入札に係る業務について、官民競争入札等監理委員会が審査
- 他機関の実績(審査期間3ヵ月、業務内容の選定から業務開始まで約1年)を踏まえると業務開始までに時間を要すことが予想される。
- 当該業務の仕様等については、官民競争入札等監理委員会による審査を受けることとなり、大学のマネジメントへの影響が懸念される。
- 業務実施による監督・評価のため、報告等を求められることとなる。
- 市場化テストによる当該業務実施期間終了後、官民競争入札等監理委員会により、当該業務の必要性等について再評価を受けることとなる。なお、その評価結果を基にして他大学へ市場化テストの結果を促すことも考えられる。
以上のことから、市場化テストの導入の検討にあたっては、多面的な角度から判断することが求められる。
なお、現在、各大学の判断において民間企業等に委託している業務についても、市場化テストの手順を参考に、外部等の有識者からの意見を取り入れるなどして適時適切に見直しを行い、実施することが望まれる。