2021年7月15日木曜日

記事紹介|教学マネジメントとは

教学マネジメントの必要性及び背景

現在、我が国の大学進学率は50%を超えており、少数エリートが通っていたかつての大学のあり方とは大きく異なっている。18歳人口が大幅に減少し、いわゆる大学全入時代となった今、従来型の「入難出易」の大学教育モデルが維持できない状況になるとともに、これまでの雇用慣行を見直す中で、ポテンシャル採用からジョブ型採用への転換や、学修成果を活用した採用活動が広がりをみせ、これまで以上に、大学における学修が重要視されつつある。そのような状況下において、依然として、大学生の学修時間が少ない状況が続いている(東京大学の調査によると過去十年間、1週間の学生の授業外学修時間平均は6時間程度で推移している)。

このため、成績評価の厳格化や卒業認定の基準の明確化・管理により、卒業時の出口保証を徹底しようという機運が高まり、中央教育審議会から平成20年に「学士課程教育の構築に向けて」(答申)や平成24年の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(答申)等が示された。ここでは、学士号に保証される能力の内容を定義し、その内容を身に付けるための具体的な取組例として、「学位授与の方針」や「教育課程の編成・実施の方針」に基づき、「教学マネジメント」を確立させ、学位プログラムごとに、教育の質保証を行っていくことが求められてきた。平成30年の「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」(答申)でも同様の課題が指摘されていたものの、大学教育改善に関連する手法等は、教学マネジメントの観点からは、一元的に整理されたものとなっていなかった。このため、教学マネジメント指針の策定により、大学運営のあり方において、教学マネジメントをシステムとして組み込むことを提言するに至った。

教学マネジメントの概要

教学マネジメントは「大学がその教育目的を達成するために行う管理運営」と定義できる。教学マネジメント指針は、「三つの方針」(特に「卒業認定・学位授与の方針」及び「教育課程編成・実施の方針」)に基づき、「学修者本位の教育」への転換を図るための教育改善に取り組みつつ、社会に対する説明責任を果たしていく大学運営、教学マネジメントが図1(「教学マネジメント指針」概要)で示したようなシステムとして確立している状態に向け、各大学の真剣な検討と取り組みを促すことを目的として策定された。その各論について、以下を参照されたい。

図1 「教学マネジメント指針」概要

Ⅰ 「三つの方針」を通じた学修目標の具体化

三つの方針は教学マネジメントの確立に当たって最も重要なものであり、以降のプロセスも全て三つの方針、とりわけ「卒業認定・学位授与の方針=ディプロマ・ポリシー」を軸として実施される必要がある。
そのため、各大学は「卒業認定・学位授与の方針=ディプロマ・ポリシー」が学生の学修目標及び卒業生に最低限備わっている能力の保証として機能するよう、それぞれの大学の強みや特色を生かし、具体的かつ明確に設定する必要がある。

Ⅱ 授業科目・教育課程の編成・実施

各学位プログラムにおいては、ディプロマ・ポリシーに定められた学修目標を達成し、卒業生に最低限備わっているべき能力を学生に身に付けさせるため、明確な到達目標を備えた個々の授業科目が学位プログラムを支える構造となるよう、体系的・組織的に教育課程を編成する必要がある。
そのためには、例えば「カリキュラムマップ」の作成等を通じた授業科目の過不足の検証や、「カリキュラムツリー」の作成等を通じた授業科目相互の関係性の検証等が必要となる。
さらに、密度の濃い主体的な学修を可能とする前提として、授業科目の精選・統合のみならず、学生が一つの学期において同時に履修する授業科目数の絞り込みが求められる。
また、各授業科目とディプロマ・ポリシーとの関係を教員・学生双方が十分に理解するため、シラバスには各授業科目の到達目標のほか、客観的な成績評価基準等の内容を適切に盛り込む必要がある。

Ⅲ 学修成果・教育成果の把握・可視化

学修者本位の教育の観点からは、一人ひとりの学生が自らの学修成果を自覚し、エビデンスと共に説明できるようにすることが、学修成果等の把握・可視化の第一の目的と考えられる。さらに、大学が自らの教育を改善する上で前提となる現状を認識することも、学修成果等の把握・可視化の目的の一つと考えられる。
また、大学の学びの中心は授業科目の履修となるため成績評価を厳格に行うことは、学修成果・教育成果を把握・可視化する上で重要であり、大学教育の質保証の根幹にも関わるものとなる。

Ⅳ 教学マネジメントを支える基盤

ディプロマ・ポリシーに定められた学修目標を踏まえ、学修者本位の教育を提供するために必要な望ましい教職員像を定義したうえで、教職員に対し適切かつ最適なファカルティ・ディベロップメント(FD)※1・スタッフ・ディベロップメント(SD)※2を実施することが必要としている。
また、教学に関する情報の調査分析を実施する機能である教学IRを教学マネジメントの基礎となる情報収集基盤と捉えた上で、学内での理解や制度整備・人材育成を促進する必要がある。
これらのFD・SDや教学IRは、教学マネジメントの一環として実際に教育活動を改善していくという側面も有する重要な活動と理解される必要がある。

Ⅴ 情報公表

各大学が学修者本位の観点から教育を充実する上で、学修成果・教育成果の自発的・積極的な公表も必要であり、公表された情報に対し、地域社会や産業界、大学進学者といった社会が評価を行い、それを契機として大学自身が教育を見直すことで、大学教育の質の向上を図っていくことが期待される。
教学マネジメントは、各大学が自らの理念を踏まえ、その責任において、本来持っている組織としての力を十分発揮しつつ、それぞれの実情に合致した形で構築すべきものである。そのため、本指針は大きな方向性を示すものであり、そのまま従う「マニュアル」であることは意図していない。

教学マネジメントと内部質保証について

内部質保証というと、設置認可後の認証評価等に関連する各大学の大学評価委員会等が行う業務という感覚がまだまだ現場にはあり、実際の教育の改善からは切り離されて理解される傾向があるのではないかと考えられる。しかし、教学マネジメントとは、学生の学修がしっかりと行われているかを、大学自らが、点検・評価をし、絶えず改善・向上に取り組むことによって、大学教育の質保証を大学の責任において実施することであり、教務・教学の関係部署の方も、内部質保証の取組として、本指針をベースに取り組まなければならないという認識をしていただく必要がある。

どこから手をつけてよいかという質問が大学関係者から多く寄せられるが、まずは、図1(「教学マネジメント指針」概要)でも示したとおり、「三つの方針」のさらなる明確化が非常に重要になる。今後は大学においても、「どのような人材養成を行い、どのように社会貢献していくのか」をステイクホルダーに発信するために、「どのような基準を満たしている学生を卒業させるか」及び「どのようなカリキュラムポリシーでその目的が実現されるか」等を積極的に公表する必要がある。

学修成果の把握・可視化と情報公表について

その上で、実際に学生が上記で示した能力や資質をしっかりと身に付けているかを客観的に示すことが重要である。教学マネジメント指針においても、学修成果・把握可視化の章で示しているが、例えば、アセスメントテストの結果、卒業論文・卒業研究の水準、学外試験のスコア等(図2情報公表について)によって卒業生の学修成果を測定することが有効と考えられる。その他、大学に入学した後の学修成果、すなわち成長度合いを様々な教学データを活用し示すことが必要となってくるので、今後の大学教育において教学IR体制を確立・強化することが重要である。例えば、事例集でも取り上げている山梨大学においては、学長のリーダーシップの下で、強力に教学IR機能を高めるために、学則で教学データを扱うことが規定されている。

また上記で獲得した教学データを分かりやすく社会に情報公表していくことが必要である。就職活動でも、学生の学修成果を活用する企業が年々増加している。しかし、まだまだ大学によって情報の開示方法がばらばらであり、活用しづらいという課題がある。GPAで評価をしようにも、大学ごとに成績の付け方が異なることや、実際の成績分布がどうなっているのかもわからない中では、相対的に優秀かどうかを企業としても見極めることが困難という指摘もされている。

図2 情報公表について

学長のリーダーシップ

これらの取組を実施する上で、学長のリーダーシップが決定的に重要になる。特に学長は「学部等の学内組織の縦割りを超えて、学部横断的な共通基盤を創ること」や「大学全体、学位プログラム、授業科目レベルの各取組間の整合性を確保し、必要な指示や報告、情報が円滑にやりとりされる環境を構築」するなど、学長のリーダーシップや権限が不可欠な課題から取り組むべきである。例えば、各学位プログラムレベルで、カリキュラムマップを作成し、授業科目を精選し、真に必要な科目を絞り込むなど、大規模な開設授業科目を整理する際には、学長がリーダーシップを発揮し、各学部の教授会を説得することなくしては実現できない。文部科学省としても、こうした取組を推進するために、今年度より知識集約型社会を支える人材育成事業メニューⅢ「インテンシブ教育プログラム」を新設し、学長のリーダーシップの下、科目を精選・統合し、短期集中で学修を完結させ、各学期で「何を学び、何を身に付けることができたか」を学生が認識できるような「学修者本位の大学教育」への転換に向けた取組を支援しており、我が国の大学において、教学マネジメントの確立が推進されるよう取り組んでいる。

ポストコロナ期における新たな大学教育への期待と教学マネジメント指針

令和2年1月に「教学マネジメント指針」が策定されてから、約1年半が経過しようとしている。昨年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、直接現場と意見交換を行う場を設けることができなかったが、昨年度、文部科学省が実施した「教学マネジメントの確立に資する事例の把握等に関する調査研究」を実施する過程で、各大学において教学マネジメントを確立するための様々な取組が進められていることを確認することができた。

コロナ禍において、より質の高いニューノーマルな大学教育の実現を目指すべく、中央教育審議会や教育再生実行会議で御議論をいただいており、そうした新たな教育手法を効果的に取り入れる前提として、教学マネジメントがシステムとして組み込まれ、教育プログラムを実施する土台が確立していることが求められている。具体的には、遠隔授業を導入する際、カリキュラムの中で、どのように位置づければ効果的なのかを検証し、効果的な教育課程を編成することが求められている。

教学マネジメント確立に向け、事例・動画集を作成

教学マネジメントを確立し、しっかりと学生の学修の質保証を図ることが、各大学の強みや特色をさらに伸ばすことにもつながる。

各大学の特色を生かしながら「卒業認定・学位授与の方針」を策定し、「何を学び、何を身に付けることができたか」に関する客観的な教学データを学生に提供し、学生が自信を持ってそれを社会に説明できるようにする。そして、企業側でも採用にあたって、しっかりと学修を評価するという相互の好循環を生み出すことが、これからの大学教育の質保証の在り方と考えられるのではないか。

事例集や動画集については、下記リンク先に掲載しているので、是非御覧いただきたい。これらを参考に各大学における取組が加速することを大いに期待している。

※なお事例集・動画集は以下のリンク先より御覧いただきたい。

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1411360_00001.html

※1 教員が授業内容・方法を改善し向上されるための組織的な取組の総称。

※2 職員全員を対象とした、管理運営や教育・研究支援までを含めた資質向上のための組織的な取組を指す。

出典:「学修者本位の教育の実現」に向けた教学マネジメントの構築|カレッジマネジメント リクルート進学総研