人間というものは、実地身をもってそこを経験しないことには、単に頭だけでは察しのつかないところがあるわけです。
たとえその人の人柄は立派でありましても、世の中の苦労をしたことのない人は、どうしても十分な察しとか、思いやりのできないところがあるものです。
もちろんただ経験さえすれば、それで他人に対する同情が湧くとは言えないのであって、そこには自分の経験したことがらの意味を反省し噛み締めて、その味わいを他人の中に見出すところまで行かねばならぬのです。
そうした反省力のない限り、たとえ反省してみたところで大して苦労の仕甲斐はないとも言えましょう。
森 信三