2012年5月9日水曜日

高等教育に関する経済同友会の提言

4月25日に開催された、中央教育審議会教育振興基本計画部会(第16回)の資料のうち、公益社団法人経済同友会が作成した「『第2期教育振興基本計画』の策定に対する意見」を抜粋してご紹介します。

1 初等・中等教育に関して

(1)基礎力の必要性(略)

(2)大学入試・受験勉強の問題点-高等教育との接続のあり方
  • 高校における受験偏重の学習が、高校生の学力に悪影響を及ぼしている。例えば、早い段階で私立文系クラスなどを選択すると、数学や理科をほとんど勉強することはない。一方、私立理系クラスでは社会や国語をほとんど勉強することはない。大学では、いわゆる文系の学部でも、数学や理科(サイエンス)の知識は必須の場合が少なくなく、逆も同様である。
  • 推薦入試やAO入試で入学する学生の中には、基礎学力が相当に不足している学生も少なくない。そのため、大学の授業についていけない学生も多いという指摘もある。したがって、入学者の基礎学力が不足している場合には、大学が責任をもって、補修等により基礎学力を身に付けさせるべきである。

(3)キャリア教育の重要性
  • 大学におけるキャリア教育が義務化されたが、高等教育機関によっては入学時点ですでに専攻が確定し、入学後の選択余地がない場合も多いため、キャリア教育は、進路指導も含め、初等・中等教育の段階から行う必要がある。
  • キャリア教育を行うに当たっては、単に職業の内容を教えるのではなく、中学・高校で学んでいる各教科が、経済社会にどのように関係しているのか、経済社会を理解する上でどのように役に立つのかなど、生徒が学ぶ意義を自覚できるよう、具体的にわかりやすく教える工夫も必要である。

2 高等教育に関して

(1)「質保証」問題の早期解決
  • 「質保証」問題は10年以上も議論をしているが、実行の段階に移行しない。何をやるべきかの議論は尽くされており、一刻も早い実行を望む。
  • 例えば、「質保証」問題を解決するためには、「質」の水準(良し悪し)を計測する何らかの基準が必要である。学士課程の専門教育(学部の3、4年)については、日本学術会議において学問分野毎の「参照基準」の策定作業が行われているが、この策定を急ぐべきである。また、日本の大学教育で最も弱いとされる「教養教育」についても「参照基準」、又は基本概念的なものを策定し、その内容について経済界をはじめ広く国民的議論を行うべきである。
  • また、学生が自ら学ぶ習慣を身に付けることが重要である。「教養教育」において、ものごとを考える上で必要な学問的方法を教え、自ら疑問を持ち、調べ、考え、議論し、仮設を立て、検証するという一連の行動様式を習慣化させることが必要である。

(2)大学のガバナンス改革と情報公開の充実
  • 大学のガバナンスのあり方について考え方・指針を取りまとめ、大学のガバナンス改革を促進するとともに、ガバナンスの健全性確保のために、一層の情報公開を推進すべきである。現在の情報公開項目では、不十分である。

(3)高等教育への公財政支出のあり方、ならびに大学の合併・統合の促進
  • 我が国の高等教育への公財政支出はGDP比0.5%であり、これはOECD加盟国中で最低である。グローバル人材や高度人材の育成、科学技術・イノベーションの発展のためには、高等教育予算を諸外国レベルに増加させる必要がある。
  • ただし、その条件として、約800近くもある大学の合併・統合や、機能別分化の促進、質の向上が不可欠である。その上で、国立大学運営費交付金や私学助成金の配分のルールについても見直す必要がある。現状では、定員割れの大学に対し、補助金を減額する仕組みを取っているが、これでは、学力の低い学生でも定員充足のために入学させるという歪んだインセンティブが働く恐れがあり、問題である。

(4)大学院教育の見直し
  • 国立大学の大学院重点化策によって、大学院の定員数は大幅に増加したが、結果としてポストドクターを増加させ、産業界の高度人材ニーズにも十分に応えられていない。大学院を強化するという方向性は間違っていないが、産業界のニーズを把握し、教育内容・体制・カリキュラムの改善を図った上で定員を増員すべきであった。
  • 定員を適正規模に修正した上で、教育内容・体制・カリキュラムの改善に注力すべきである。その上で、産業界からの評価が高まれば、定員を増加することは問題ない。
  • 産業界と大学の相互理解の促進のため、インターンシップを積極的に活用するとともに、インターンシップを採用に結びつけることも検討すべきである。

(5)高等専門学校モデルの拡充を
  • 産業界で高い評価を得ている高等専門学校の教育方法・カリキュラム・教員体制を成功モデルとして、大学教育に活かすべきである。高専教育の特長は、理論と実践の融合であり、大学教育においても理論面だけでなく、実験・経験を織り込んでいくべきである。
  • 高等専門学校の校数・規模の拡大を行うべきである。

【参考】経済同友会提言