2012年5月28日月曜日

「大学データブック2012」から見えてくるもの(3)

前回に続き、「大学データブック2012」から主な要点を引用しご紹介します。

第4章 大学から社会へ

1 仕事・将来への展望と準備

1-1 大学生の仕事観・社会観・将来観

8割の学生が、「仕事を通じて社会に貢献することは、大切なことだ」と考えている。「いい友だちがいる」ことは将来の幸せのための重要なファクター。

「仕事を通じて社会に貢献することは、大切なことだ」という考えを支持している(「とてもそう思う」+「まあそう思う」、以下同)大学生が8割強。社会観については、「努力すればむくわれる社会だ」と考える学生は半数以下(42.8%)で、「競争が激しい社会だ」(79.0%)という認識の方が強い。また、将来については「いい友だちがいると幸せになれる」という考えを92.1%が支持し、「とてもそう思う」だけでも52.7%と、大学生にとって友だちの存在は大きい。大学生は、競争が激しいと認識しながらも、他者への貢献や人とのつながりを重視している傾向がうかがえる。

1-2 卒業後の進路の検討・準備を始めた時期

卒業後の進路を考え始めた時期は大学3年生以降が6割、進路に向けた準備・活動の開始時期は大学3年生の後期以降が6割。

大学卒業後の進路を考え始めた時期は、大学入学後が8割で、そのうち大学3年生以降が6割である。具体的な準備・活動の開始時期についても4割が就職活動の始まる大学3年生の後期に開始しており、4年生に開始する割合(「大学4年生の前期」+「大学4年生の夏休み以降」)も足すと6割が3年生の後期以降に準備 ・ 活動を開始している。

2-1 就職活動で重要だと思うこと

重要なのは自分の考えをわかりやすく口頭で伝えられること。

民間企業を受けた大学生に就職活動を通して重要だと感じていることをたずねたところ、「自分の考えを口頭でわかりやすく伝えること」「自分なりの考えをまとめられること」が9割以上(「とても重要」+「まあ重要」、以下同)を占める。一方、「海外経験が豊富なこと」や「インターンシップの参加経験があること」を重要と感じている割合は2割程度である。

2-2 内定の得られる学生とそうでない学生の違い

キャリアセンターでは、内定の得られる学生は「自分なりの考えをまとめる力」「文章力や口頭での表現力など基礎的な力」が優れていると感じている。

キャリアセンター長 ・ 就職部門長が、内定の得られる学生の、そうでない学生に比べて優れていると思う点は、「自分なりの考えをまとめる力が優れている」が 89.5%(「とても思う」+「やや思う」)ともっとも高かった。これは前ページの、学生に就職活動で重要だと感じたことをたずねた結果でも高く、認識は一致している。

2-3 大学で力を入れたことと就職活動の関連

就職活動で活かされた経験は「アルバイト」「クラブやサークル活動」。

大学で力を入れたことと、その経験が就職活動においてどの程度活かされたのかについて、民間企業を受験した大学4年生にたずねたところ、大学で「とても力を入れた」こととして多いのは「卒業論文・卒業研究」が34.6%、「アルバイト」が33.1%であり、「やや力を入れた」も含めるといずれも7割程度になる。それに対し就職活動で「活かされている」との回答が多いのは、「アルバイト」「クラブやサークル活動」で経験者の約4割、「卒業論文 ・ 卒業研究」は 3割程度である。これには就職活動の時期の問題があるが、学生が勉学に力を入れていても企業はそれをあまりみることができていない様子がデータからも読み取れる。

2-4 企業が採用時に求めている力と評価方法

新卒採用時の要件として「社会人としての常識・マナー」「チームワーク力」を9割以上が重視。ほとんどの資質・能力が、面接を通して評価されている。

汎用的な能力・スキルを中心として、企業が採用時に重視する度合いについてたずねた結果では、態度や志向性に関するものが上位にきており、もっとも高いのが「社会人としての常識・マナー」92.7%(「とても重要」+「まあ重要」、以下同)、次いで「チームワーク力」が92.5%であった。一方で、ICTや英語に関するスキルは相対的に低くなっている。また、企業が採用時に学生の資質・能力を評価する方法はほとんどが面接である。このことを学生の側からみれば、面接の会話やエピソードの中で、これらの資質・能力が備わっていることをどれだけ示すことができるかが重要になる。

3-1 キャリア教育の実施状況

キャリアセンターと教学側でキャリア教育の取り組みが併存。

平成21年度の取り組みとして、7割の大学が、キャリアセンター主体で「職業観育成のためのガイダンス」を単位なしの講座として実施しており、そのうち約半数の54.3%が1年生から実施している。一方、教学側主体の取り組みをみると、約5割が「職業観育成のためのガイダンス」を単位ありの科目として実施しており、学年別には2年生で64.6%ともっとも多い。単位の有無の違いはみられるものの、キャリアセンター側と教学側で同様の取り組みが併存している様子がみてとれる。

3-2 就職支援の実施状況

9割の大学で「エントリーシート指導」「面接対策講座」「自己分析指導」を実施。

就職支援は、「就活ガイダンス」が96.9%ともっとも実施率が高く、そのうち2割弱は1年生で、3割弱は2年生と早期から実施している。「エントリーシート指導」「面接対策講座」「自己分析指導」といった就職活動のノウハウに関する具体的な指導も9割の大学で実施している。

3-3 キャリアセンターが感じている学生の課題

学生の課題は文章力や思考力・表現力の不足。内定のとれる学生ととれない学生の二極化も多くの大学が感じている。

就職支援活動を通して、キャリアセンターが感じている学生側の問題点・課題は、「エントリーシートの作成に必要な文章力が不足している」が82.5%「とても思う」+「やや思う」、以下同)で、「とても思う」のみでも4割にのぼる。また、「複数の内定を獲得する学生と、内定の決まらない学生が二極化している」という現象も70.3%と、多くの大学が感じている。

3-4 キャリア教育・就職支援の課題

今後の課題はキャリアセンターと学部教員の連携強化と汎用的能力の育成。

今後の課題としては、「キャリアセンターと学部教員の協力関係を深めることが重要である」がもっとも高く、「とても思う」との回答が68.3%、次いで「就業力の基礎となる汎用的能力(思考力、表現力、討議力等の育成を通じた課題解決力)の育成が重要である」が51.0%と続き、「やや思う」も含めるといずれも9割にのぼる。さらに、「キャリアセンター職員の専門能力を高めること」「キャリア教育と就職支援の一体的な企画 ・ 運用」「低学年時からの指導の拡大」についても半数近くが「とても思う」と回答しており、まだこれから検討・改善すべき課題が多い状況であることがわかる。

4 社会で求められる力

4-1 仕事で必要とされている能力・スキル

高いレベルの必要性を感じているのは、若年層で「傾聴力」、中堅層では「問題解決力」。

社会では実際にどのような力が求められているのか。この節では、文部科学省の「学士力」、経済産業省の「社会人基礎力」などを参考にして、社会で求められていると思われる能力 ・ スキルを25項目設定し、様々な角度から質問を行った結果を紹介する。まず、今の仕事での必要度合いを社会人にたずねたところ、社会人1-3年目の若年層の3割強が「高いレベル ・ 程度が必要である」と感じているのは、「傾聴力」「問題解決力」「倫理観」「継続的な学習力」。10-12年目の中堅層では、これらの能力が必要とされている全体の割合(「高いレベル ・ 程度が必要」+「やや高いレベル ・ 程度が必要」+「基礎として必要」)にほとんど変わりはないが、必要とされるレベルや程度の感じ方が「高いレベル ・ 程度が必要」が減り、「やや高いレベル ・ 程度が必要」「基礎として必要」が増えている。反対に中堅層で「高いレベル ・ 程度が必要」が増えており、全体の必要度もあがっているのが「リーダーシップ力」である。

4-2 社会人に身についている能力・スキルの度合い

若年層と中堅層とで能力・スキルの身につき度合いが大きく違うのは「問題解決力」「リーダーシップ力」。

社会人の能力 ・ スキルの身につき度合いについて、若年層と中堅層を比較すると、中堅層の方が身についている割合(「身についている」+「まあ身についている」、以下同)が総じて高くなっているが、なかでも20ポイント程度高いものが「問題解決力」「リーダーシップ力」である。逆に、若年層と中堅層であまり違いがないものが、「英語(外国語)で読み、 書く」「英語(外国語)で聞き、 話す」「継続的な学習力」である。仕事を通じて伸びていく力と伸びにくい力があるようだ。ただし、英語については、現在仕事で必要とされている人が4割程度と、他の項目に比べて少ないことも一因であろう。

4-3 社会人が5年後に重要となると思う能力・スキル

「プレゼンテーションスキル」「問題解決力」「リーダーシップ力」がべスト3。

近い将来に重要になる、と社会人が感じている能力 ・ スキルは何か。若年層も中堅層も、上位3項目は、「リーダーシップ力」「問題解決力」「プレゼンテーションスキル」である。若年層ではもっとも高いものは「プレゼンテーションスキル」だが、上位3項目で選択率にほとんど差はない。一方、中堅層では「リーダ-シップ力」が4割強ともっとも高くなっており、経験年数による求められる力の違いを反映した結果となっている。職種別、部門別にみても、中堅層では「リーダーシップ力」は職種、部門によらずもっとも高くなっている。また、中堅層では「英語(外国語)で聞き、話す」が上位に入っている。

4-4 社会人になる前に身につけたい能力・スキル

若年層では「継続的な学習力」、中堅層では「倫理観」が最も高く「英語」も上位に。

社会人になる前に身につけておいた方が望ましいと思う能力 ・ スキルは、若年層では「継続的な学習力」「チームワーク力」「ストレスコントロール力」、中堅層では「倫理観」「英語(外国語)で聞き、 話す」「英語(外国語)で読み、 書く」が上位3項目。また、職種別、部門別にみると、中堅層の技術職では「英語(外国語)で聞き、 話す」「英語(外国語)で読み、 書く」が上位に、また「研究 ・ 開発」部門においては、若年層も中堅層も「英語(外国語)で聞き、話す」「英語(外国語)で読み、 書く」が上位にきており、中堅層では4割強が選択している。理系を中心とする職種や部門で、特に英語の必要性が感じられている様子がうかがえる。

4-5 大学生の能力・スキルの身につき度合いと育成状況

「英語力」と「グローバルな視野」は、身につき度合いが低い。

大学生の能力 ・ スキルの身につき度合いは、「英語(外国語)で読み、 書く」「英語(外国語)で聞き、 話す」 は2割前後(「身についている」+「まあ身についている」)と低い。また、学生が授業で育成機会があったと感じている割合を学部系統別にみると、外国語 ・ 国際学系統は「プレゼンテーションスキル」などコミュニケーションスキルが高く、法学系統は「論理的思考力」など思考力系が高いなど、学部特性の表れた結果となっている。学部間で大きく異なるのは「グローバルな視野」で、外国語 ・ 国際学系統で66.7%に対し、理工学系統では8.0%である。




ポーター教授『競争の戦略』入門 (ビジネスバイブル)
グローバルタスクフォース
総合法令出版
売り上げランキング: 4176