2012年5月14日月曜日

国立大学法人の給与減額支給措置

去る5月11日、「政府は、閣議後の閣僚懇談会で、国立大学法人に対し、給与削減に向けた労使交渉を急ぐよう要請する方針を正式に確認するとともに、国立大学法人への運営費交付金を、給与引き下げに見合う分だけ減らす方針を申し合わせた」との報道がありました。これは、東日本大震災の復興財源の捻出を目的とするもので、2月に決まった国家公務員の給与削減に合わせた措置ということです。


安住財務大臣閣議後記者会見の概要(平成24年5月11日)(抜粋)

冒頭発言

閣僚懇で独立行政法人等の人件費について、ご存じのとおり国家公務員が法律改正を行って引き下げたわけですけれども、公的部門全体でこれに倣ってもらいたいということで、減額分を今それぞれの法人と管理側で話をしておりますけれども、これを是非急いでほしいということと同時に、次の予算編成の際には、運営費交付金により人件費が賄われている独法等については、国家公務員の給与削減と同等の給与削減相当額を算定し運営費交付金等から減額をしたい旨、私の方から申し上げました。

質疑応答

(問)先程の運営費交付金のことですけれども、次の予算編成においてということで仰られましたので、そうしますと13年度から3年間運営費交付金がその分独法等で減るというふうに考えてよいのかということと、地方公共団体、地方公務員とかあるいは教職員の人件費に関しても同じような考え方を来年度の予算編成で求められるのでしょうか。
(答)独法の給与見直しについては次の予算編成のタイミングでしっかり行っていきたいということですから、これは補足いたしますが、今のお話というのは地方や教職員に及ぶのかということでありますけれども、法律上は及んではおりません。ただ公的セクター全体でということを私は申し上げているわけですね。ですから国や独立行政法人がそうしたことを行っているということをよく見ていただいて対応していただければありがたいと思っております。
(問)対象となる独法ですけれども、国から財政的な支援を受けていない公的機関に対しても給与の引下げを求めるということでしょうか。
(答)102法人全てでお願いをしております。ですから労使交渉も行って組合側にもご理解をいただくようなことを是非急いでやっていただきたいと。我が方もそうなんですけれども、印刷局や造幣局、鋭意話し合いを行っている最中です。
(問)独法の話に戻って恐縮なんですけれども、102の独法の人件費を削減した場合どのくらいの財源捻出が。
(答)700億。
(問)年間700億ですか。
(答)トータル700億。内数を言うと、独立法人300億、国立大学法人300億、特殊法人100億、合わせて700億です。7.8%乗ずれば。

関連報道

このことは、以前、この日記でもご紹介したように、総務省→文部科学省→国立大学といったルートでの要請や、予算成立時の財務大臣発言などにおいて、国立大学法人についても、国家公務員の給与減額支給措置(2年間、7.8%減)に準拠した対応が求められていましたし、東日本大震災からの復興の加速に向け、国民の税金を主な原資として運営されている公的機関としての立場から、適切に対応する必要があると思われますし、国民感情的には当然のことでしょう。

(関連過去記事)国家公務員の給与減額支給措置への対応(2012年3月15日)

すでにほとんどの国立大学法人では、国家公務員の給与減額支給措置に準拠した対応を講じることについて教職員に対し協力が要請され、労使交渉が進められているようです。しかし、その内容は、減額支給の開始時期、実施期間、減額支給対象の範囲等の条件設定をどうするかによって様々な違いが生じており、結果として、大学間の給与格差が更に拡大することが懸念されています。

国家公務員の給与減額支給措置への準拠に関して、これまで文部科学省や国立大学協会のイニシアティブは全く機能してきませんでした。その結果、各大学が保有する情報に乖離が生じてしまいました。そればかりか、文部科学省からの情報提供が朝令暮改的に変化している(これは文部科学省の責任ではないと思いますが)ことにより、学内が混乱し、大学の経営に支障が生じているといった声も聞かれます。

今回、政府は各法人の労使交渉の結果、給与の引き下げに応じない法人があった場合でも、復興財源を確実に確保するため、運営費交付金の削減を強行することにしています。しかし、授業料等の学生納付金や病院収入等の自己収入を財源とする人件費については、各大学の経営努力によって賄われているのであり(国立大学法人における人件費は、国からの運営費交付金と独自の自己収入の両方によって賄われています)、公的機関だからという理由だけで、この部分まで運営費交付金の削減対象にするのは極めて乱暴ですし、筋違いではないでしょうか。

また、地方自治体との人事交流により採用されている附属学校教員については、出身母体である地方自治体が給与支給減額措置を行わないのに、国立大学法人に身を置くばかりに給与を減らされてしまうといった不公平を強いるのは、優れた人材確保の観点からも大いに問題があり、運営費交付金の減額対象から除外すべきだと思います。

さらに、今回の強制措置は、各法人の学長宛に出された「独立行政法人における役職員の給与の見直しについて」(平成24年3月8日付、文部科学省大臣官房長名)において、「法人の自律的・自主的な労使関係の中で」という趣旨にも完全に反しているのではないでしょうか。

すでに労使交渉に入っている法人は多く、交渉の結果、国家公務員に準拠した対応が完全にできない場合には、削減できない分の財源を自ら確保しなければなりません。しかし、収入が確保できない、また、人件費比率が極めて高く硬直化した予算構造を持つ小規模大学等では、結果として、教育研究費等を削減するしか財源捻出の方法がなく、ひいては、学生・生徒・児童の教育に重大な支障をきたしかねません。

政府(特に財務省)及び政権与党である民主党は、このたびの措置が、実は消費増税のためのポーズであり、その結果、国立大学法人の経営の健全性を損ない、教育研究を陳腐化させ、この国の将来を担う人材を育てる責務を放棄する軽挙妄動にならないよう、再考されるべきと考えます。


(関連記事)議論 復興支援の捻出のために、独法・国立大学の給与削減へ(BLOGOS)