2012年5月21日月曜日

政府は不退転の決意が必要(土光敏夫)

国民の皆様へ

明日をもって、行革審はその任期を終え、解散いたします。顧みれば昭和56年3月鈴木内閣によって臨調が設置され、中曽根内閣に引き継がれ、さらに行革審となって、今日まで5年3か月約2千日になります。

この間、国民の皆様の絶大なるご支援を得て、臨調・行革審は、全国民的課題である行政改革の推進に努めて参りました。臨調発足当時、行政は肥大化し、財政はまさに危機的状況にありました。このままでは、戦後のめざましい復興を成し遂げ、自由世界第二位の経済対策を実現してきた国民の活力が、失われてしまうのではないかと、私は深く憂慮しておりました。

我が国の将来にとって、国民の活力を維持・発展させるとともに国際社会の一員として責任を果たすことが何より必要であり、それはまさに国家の存立と盛衰にかかわる重大事であります。その意味で、臨調は「活力ある福祉社会の建設」と「国際社会に対する積極的貢献」という行政の二大目標を提示したのであります。

この目標実現の前提として、「増税なき財政再建」の基本方針を厳守し、国民負担比率の上昇を極力抑制しつつ、行財政の改革をやり遂げることが不可欠であります。それは、行政には抜本的な制度・施策の見直しと厳しい削減努力を要請するものであり、国民の皆様には行政に対する甘えを捨て自立自助の努力を求めるものであります。

これまで政府・国会、地方公共団体は、全力を挙げて行政改革に取り組まれ、医療・年金・電電改革等見るべき成果を上げてこられました。しかしながら、国鉄改革をはじめ中央・地方の肥大化した行政の役割の見直し・規制緩和等なお多くの問題が残されております。また、公債依存度はある程度減少したとはいえ、赤字国債依存脱却という当面の財政再建目標の達成はなお困難な状況にあります。

行政改革に倦み、歳出抑制に疲れ、また国際収支の不均衡是正や内需拡大を重視するあまり、行財政改革路線の転換を強く主張する向きもないわけではありません。しかし、市場開放と民間活力の発揮が強く要請されている現在、思い切った行政改革の断行がまさに必要なのであります。

いま、ここで行財政の改革をあきらめられるならば、これまでの努力は水泡に帰し、行財政は再び肥大化の道をたどり、ようやくほの見えてきた明るい希望も消え去るでありましょう。私はこのことが心配でならないのであります。

行政改革は、21世紀を目指した新しい国作りの基礎作業であります。私は、これまで老骨に鞭打って、行政改革に全力を挙げて取り組んで参りました。私自身は21世紀の日本を見ることはないでありましょう。しかし、新しい世代である私たちの孫や曾孫の時代に、わが国が活力に富んだ明るい社会であり、国際的にも立派な国であることを、心から願わずにはいられないのであります。

行政改革を遂行する責任を負っているのは、政府・国会及び地方公共団体であります。政府が不退転の決意をもって行政改革を遂行され、国会が国権の最高機関として政府の努力を鞭撻するとともに率先して国会改革・政治改革に取り組まれることを、私は強く願っております。また、地方公共団体においても、自らの責任において行政改革に邁進されることを念願してやみません。

行政改革の成否は、一に、国民の皆様の支持と熱意にかかっております。私は、より良き明日を拓くため、皆様が、政府・国会及び地方公共団体の改革努力を厳しく見守るとともに、たとえ苦しくとももう一段の痛みに耐えて、行政改革というこの国家の大事業を最後までやり遂げてくださることを、心からお願い致します。