2012年5月26日土曜日

「大学データブック2012」から見えてくるもの(1)

これからの大学教育のあり方を考える材料を提供することを目的として、Benesse教育研究開発センターが2011年度までに実施した様々な調査結果の中から、高等教育(学士課程教育)に関連するデータを選択して編集した「大学データブック2012」から主な要点を引用しご紹介します。

この報告書では、大学教育改革に役立ちそうな調査結果が次の5つの観点から整理されています。
  1. 高校生の学習・進路選択の状況
  2. 大学生の学習・生活の状況
  3. 海外留学の課題
  4. 就職活動の現状、社会で求められている力
  5. 大学の内部質保証の課題

第1章 高校から大学へ

2 大学受験・進学

2-1 大学受験に対する意識

5~6割の高校生が「行先がなくなるのは怖い」「できるだけ楽に済ませたい」と回答

親子とも「学力を伸ばすよい機会だ」と回答した比率がもっとも高かった。しかし、受験は「学力を伸ばすよい機会だ」「成長を促すよい機会だ」と回答した比率は、親が子どもよりも10ポイント前後高い。他方、子どもは親よりも、「受験に失敗し、行先がなくなるのは怖い」が15ポイント以上、「できるだけ楽に済ませたほうがよい」が20ポイント以上高い。

2-2 大学進学に対する意識

子どもは親よりも、「大学に行けば社会で活躍するための実力がつく」、親は子どもよりも、「大学に入ったら勉学に力を入れてほしい」と考えている。

「大学で過ごすこと自体が子どもの人生経験として貴重だ」「大学で学問に取り組めば専門性を高めることができる」と回答した比率は、親子とも約9割と高い。一方で、子どもは親よりも、「大学に行けば社会で活躍するための実力がつく」、親は子どもよりも、「大学に入ったら勉学に力を入れてほしい」と考える傾向がある。大学進学後の親の心配としては、72.9%が「大学卒業後にすぐに就職できるかどうか」を心配しており、もっとも高い。

2-3 大学を選ぶ際に重視すること

親子とも、「専攻したい学問分野があること」をもっとも重視している。子どもは「入試難易度」「キャンパスの雰囲気」、親は「授業料負担」「就職実績」を重視。

大学選択の際にもっとも重視するのは、親子とも「専攻したい学問分野があること」である。第2位以降は、子どもは「入試の難易度が合っていること」「キャンパスの雰囲気がよいこと」と続くが、親は「授業料が過度の負担にならないこと」「就職実績がよいこと」と続く。

2-4 生徒の進路意識が高まる時期

高校生の進路意識がもっとも高まるのは、高校3年生の6月頃。

高校の進路担当の教員が実感していることによると、高校2年生の9~10月以降に生徒の進路意識がやや高まり、高校3年生の4月に大きく上昇して6月頃にピークを迎えるようだ。一方、高校教員が生徒に進路意識を高めてもらいたい時期のピークは、高校2年生の10月となっている。高校生の進路意識が高まる時期は、高校教員が期待しているタイミングよりも半年以上遅いということがわかる。

2-5 大学入試方式に対する考え

4割強の高校生が、「推薦・AO入試」の利用を決定または関心あり。その理由は、「早く進学先を決めたいから」。

43.1%の高校生が「推薦入試やAO入試の利用を決めている・関心がある」(推薦入試やAO入試の利用を「すでに決めている」+「とても関心がある」+「なんとなく関心がある」)と回答している。その理由は、「早く進学先を決めたいから」が66.6%ともっとも高く、続いて「一般入試へ向けての受験勉強は大変だから」が39.4%と高かった。

3 大学情報のニーズ

3-1 子どもの進路選択に対する保護者の関与

6割の保護者が「学校の情報を集める(資料の請求やインターネットによる情報収集)」と回答。

59.7%の保護者が「学校の情報を集める(資料の請求やインターネットによる情報収集)」と回答している。「学校の入試方法を調べる」(56.1%)、「子どもに合いそうな学校を調べる」(53.5%)、「具体的な受験校を子どもにアドバイスする」(50.0%)は、いずれも5割台であった。情報収集に熱心な保護者の姿が目に浮かぶ。

3-2 高校生の保護者が求める大学情報

過半数の保護者が、「学費や納付方法」「毎年度の卒業後の就職先(率)、進学先(率)」に関する情報が「大いに必要」と回答。

「入学・入試に関する情報」や「学費に関する情報」「就職に関する情報」を「大いに必要」、と回答した比率が3~5割と高くなっている。なかでも、「学費や納付方法に関する情報」「毎年度の卒業後の就職先、進学先に関する情報」「毎年度の卒業後の就職率、進学率に関する情報」は、過半数の保護者が「大いに必要」と回答している。保護者が不足していると感じる大学情報については、「毎年度の卒業後の就職先、進学先に関する情報」が2割を超えており、相対的に高い。

3-3 高校教員からみた大学の課題

約8割の高校教員が「十分な情報を開示していない大学への進学は勧められない」と回答。

「就職率や定員充足状況など、十分な情報を開示していない大学への進学は勧められない」と回答した比率(「とてもそう思う」+「まあそう思う」、以下同)が78.2%でもっとも高い。続いて、「学部・学位名を見ても何を教えているのかがわからないことが多い」が70.0%と高くなっている。なお、「生徒には、教育内容よりも就職率のよい大学を勧めたい」と回答した比率は約2割であった。高校教員は、大学の教育内容も重視して高校生の指導にあたっていると考えられる。

3-4 高校教員が求める大学情報

7割弱の高校教員が「入試科目の内容や合格要件」、6割前後が「毎年度の卒業後の就職先(率)、進学先(率)」が「大いに必要」と回答。

「入学・入試に関する情報」「学費に関する情報」「就職に関する情報」を「大いに必要」と回答する比率が高くなっている。なかでも、「入試科目の内容や合格要件に関する情報」が「大いに必要」と回答した教員は67.1%ともっとも高い。「毎年度の卒業後の就職先、進学先に関する情報」「毎年度の卒業後の就職率、進学率に関する情報」も、6割前後と高い。

4 高校教員からみた大学の課題

4-1 進路指導をする上での課題

「生徒の基本的な学習習慣が確立していない」「進路を決めきれない生徒が多い」ことが高校での進路指導のネックとなっている。

88.1%の高校教員が「生徒の基本的な学習習慣が確立していないこと」に困難を感じる(「とても困難を感じる」+「やや困難を感じる」、以下同)と回答している。「とても困難を感じる」比率は51.7%と半数を超えていることから、多くの教員が感じている共通の課題と考えられる。「進路を決めきれない生徒が多いこと」に困難を感じる教員も76.8%と高い。また、「進学環境の変化が速いこと」「大学の入試制度が複雑なこと」といった環境要因に起因する課題も、6割台と高くなっている。

4-2 高大接続の課題

75%の高校教員が、「推薦やAO入試で早期に進路が決まった生徒に対し、卒業まで勉強させるような仕組みを大学と共同して検討する必要がある」と回答。

「推薦やAO入試で早期に進路が決まった生徒に対し、卒業まで勉強させるような仕組みを大学と共同して検討する必要がある」と回答した比率(「とてもそう思う」+「まあそう思う」、以下同)がもっとも高く、75.4%であった。また、「推薦入試やAO入試にもっと学力検査を課すべきだ」「推薦入試やAO入試の実施割合をもっと減らすべきだ」という回答も、6割前後と高い。


IR実践ハンドブック 大学の意思決定支援 (高等教育シリーズ)

玉川大学出版部
売り上げランキング: 70439