九十年の生涯を修養に生きた常岡一郎氏の言葉がある。
「勤勉、努力、誠実の積み重ねは明るい心を生む。わがまま、勝手、怠け、不実、その積み重ねが暗い心、冷たい心、ずるい心、苛立つ心になる」
修養は明るい心をつくる努力、とも言えよう。
人の上に立つ人の心得を説いた古典の名著『大学』は「修己治人(しゅうこちじん)」と教える。
己を修めて初めて人を治めることができる、ということである。
「治める」は支配することだけではない。
「治」には助ける、育てるという意味がある。
人は己を修めた分だけ人を助け、育てることができる、と『大学』は教えているのだ。
修養のないところに人生の繁栄、発展はない。
後世に伝承すべき人生の大事である。
安岡正篤師が若かりし頃の豊田良平氏(コスモ証券元副社長)に語った言葉が思い出される。
「賢(けん)は賢なりに、愚(ぐ)は愚なりに、一つのことを何十年も継続していけば必ずものになるものだ。
君、別に偉い人になる必要はないではないか。
社会のどこにあっても、その立場立場においてなくてはならぬ人になる。
その仕事を通して世のため人のために貢献する。そういう生き方を考えなければならない」
その立場立場においてなくてはならぬ人になる・・・安岡師がすべての人に託した願いである。