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手続きや規則に必要以上にこだわる人物がいる。どうでもいいような細かな規則を持ち出し、仕事にストップをかける。まったく融通が利かないのだ。
このタイプが上司だと、職場の活気が失われる。
「チャレンジしやすい体制づくりが必要だ」
などと口では言いながら、いざとなると、
「決められた手続きを踏まないと」
「前例がないから、それは無理だろう」
などと足を引っ張るようなことばかり言う。
でも、本人に仕事を邪魔しているといった自覚はなく、きちんと管理するのが自分の役目だと思っている。
■「コンプライアンス」が大好き
コンプライアンスなどという言葉が導入されてから、このようなタイプは自分に存在意義を見出し、活き活きとしてしまった感がある。
「コンプライアンスを軽くみてはダメだ」
などと言って、まったく意味のない細かな規則にこだわって仕事を止めたりする。
出張届けをうっかり出し忘れており、当日の朝思い出して、慌てて書類を書いて提出し、事後決裁になるけどこれから取引先に寄って一緒に視察に行ってきますと言うと、
「出張の決裁はまだ下りてないでしょ」
と言って許可が出ない。
どうせ形式的なもので、必ず決裁は下りるのだし、取引先に今さら日程変更を頼んだりできないし、何とか行かせてほしいと頼んでも、
「先方に社内の事情を伝えて、延期をお願いしてください」
と、あくまでも規則を最優先させる。届け出を忘れていたのも悪いが、この程度の臨機応変の対応くらいしてもよいだろうに、どうにも融通が利かない。そんな上司に苛立つ人もいる。
■なぜ所定の用紙にそんなにこだわるの?
仕事上必要なものを購入するにも、いちいち書類を提出して決裁を待たされるためイライラするという声も多くの職場で上がっている。
たとえば、1時間後の会議で必要な文具類が急遽浮上し、立て替え払いで購入して間に合わせようとすると、
「立て替え払いは極力やめてください。所定の用紙で申請してください。急ぎの決裁を頼めば、今日の昼過ぎには決裁が下りるので、会議は午後に回したらどうですか」
などと、あくまでも規則を遵守させようとする。
どっちみち仕事で必要なものの購入だから通らないわけはないのだし、書類の決裁に会議を延期させるだけの価値があるとでもいうのだろうかと、その頭の悪さに辟易(へきえき)するという人もいる。面倒だからいつも私費で購入しているという人さえいる。
こちらの提案に対して取引先の感触が良く、まったく差し障りのない条件を提示され、受け入れてくると、
「手順を踏めと言ってるだろ。まずは会議でちゃんと説明して承認を得てからじゃないとダメだ。話を進めるのはそれからだ。先方には待ってもらえ」
などと言ってストップをかける。仕事の受注の邪魔をされているようにしか思えない。そんなことがしばしば起こるため、まじめに営業する気がなくなった、という人もいる。
■規則にこだわる人ほど、成果が今イチな理由
何かにつけて規則を持ち出す人物に対して、「なんで個別の事情を考慮してくれないんだ」と不満に思うのは、状況を読みながら臨機応変に判断をする能力がある人である。
規則に必要以上にこだわる人物は、そういう能力が乏しい。臨機応変に適切な判断をする自信がない。だから規則に頼るのだ。規則にこだわる人が能力的にあまりパッとしないのは、そのせいだ。
本人ははっきり意識していないことが多いが、心のどこかで自分の判断力に不安を感じている。自分が自由な状況に弱いのを知っている、ゆえに、臨機応変の判断が求められるような状況を極力避けようとする。
規則でがんじがらめになっていれば、臨機応変の判断をせずに済む。規則にしがみつくのは自己防衛のためなのである。
万一出遅れるようなことがあっても、規則に則って動いていれば責められる可能性は低い。「コンプライアンスを重視した」「規則に従ってものごとを進めた」と規則のせいにできる。
また、規則や手順にこだわるタイプは、概して論理能力が乏しい。
事情を論理的に説明できる人は、仮に規則違反になろうとも、それが倫理的問題を含まず、形式を踏むというだけの意味しかないのなら、規則にむやみに縛られることはない。論理能力が乏しく、人を説得する自信がないからこそ、何かにつけて規則を持ち出すのだ。
■柔軟で論理力ある人にとっては「バカの壁」
さらに言えば、規則にこだわる人物にとくにイライラするのは、論理能力が高く、発想力・企画力のある人である。自分の頭で考えて動くタイプなだけに、なぜ「規則、規則」といって自分で考えて判断をしないのかがわからずイライラする。
だが、規則に必要以上にとらわれるタイプは、規則に従っていないと不安なのだ。規則に従って動いていれば、自分で考えて判断する必要がない。ひたすら規則に従う姿勢をとっていれば、自分の発想力や判断力の乏しさを隠すことができる。結局、自分の能力に自信がないのである。
このタイプは、自分で判断して機動力を発揮したいという、能力もモチベーションも高い人物にとって、「バカの壁」としか言いようのない面倒な存在なのである。