これまで、この日記でも、概算要求基準の決定に至る重要なプロセスとして、「財政制度等審議会建議」と「骨太方針2009」についてフォローしてきましたが、高等教育予算に関しては、例年様々な議論が展開されるものの、結局は、小泉政権下における「骨太方針2006」を踏まえた「国立大学法人の運営費交付金▲1%削減」「私立大学の経常費補助金▲1%削減」が踏襲されるだけで終わってしまい、予算の確保に向けた各界における真摯な議論や行動が残念ながら徒労に終わってしまいます。一国民としては、我が国を取り巻く様々な厳しい状況を理解しつつも、大学人としては焦燥感だけが残る結果に落ち着くことになります。
平成22年度概算要求基準が閣議了解されました。(2009年7月1日 財務省ホームページ)
本日の閣議において、平成22年度概算要求基準が閣議了解されました。各省庁は、これを踏まえて平成22年度概算要求を作成することとなります。
○平成22年度一般歳出の概算要求基準の考え方
○平成22年度概算要求基準のポイント
(参考)平成22年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について(閣議了解)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/sy210701press.htm
平成22年度予算の概算要求基準決定 歳出削減後退(2009年7月1日 産経新聞)
政府は1日、平成22年度予算の大枠を示す概算要求基準(シーリング)を閣議で了解し、正式に決めた。これまでの社会保障費の抑制方針を撤回し、一般歳出は過去最大の52兆6700億円とした。今回の決定に沿って各省庁は8月末までに予算要求を財務省に提示するが、衆院選で政権が交代すれば、シーリングが変更される可能性もある。歳出削減の流れが後退する中、衆院選に向けて各党がどういう財政政策を打ち出していくかが、今後の予算編成にも大きな影響を与えそうだ。
シーリングは、社会保障費の自然増のうち年2200億円分を抑制するという従来方針を撤回し、1兆900億円の自然増を認めた。麻生太郎首相は22年度予算に関し「社会保障の必要な修復ということが大事」としている。公共事業関係費は前年度比3%減、防衛関係費や国立大学運営費・私学助成費もそれぞれ1%削減して歳出削減の努力も続けるが、一般歳出は21年度当初予算に比べ9400億円も膨らんだ。
一方、世界経済の先行きがいまだに不透明で、「日本経済の下振れリスクがある」(財務省幹部)ことから、経済緊急対応予備費で6500億円を確保、新たな景気対策などに備える。
年末の予算編成では、特別枠となる「経済危機対応等特別措置」の3500億円をめぐり各省庁による予算の奪い合いとなりそうだが、このところ歳出削減が続いていた防衛や公共事業分野などで、要求が強まることが予想される。
ただ、政権交代が起これば状況は大きく変わるとみられる。民主党は、中学生まで1人当たり月2万6000円を支給する子ども手当や、高速道路無料化などを掲げているが、与野党ともに、財源問題や財政再建への道筋を明確に示したマニフェスト(政権公約)をどう示すかが問われそうだ。
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090701/fnc0907012253019-n1.htm
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今回の閣議決定は、あくまでも「概算要求上限の設定」であり、言い換えれば、「前年度予算から1%削減したところからの予算復活の闘いの始まり」でもあります。
今回のシーリングでは、骨太方針2009に掲げられた「経済危機克服」「安心社会実現」「成長力の強化」のための施策に重点投資することとして「経済危機対応等特別措置3,500億円」が設定されました。このうち、「安心社会の実現」には「教育の再生」が位置付けられており、高等教育に関しては、「国際的に開かれた大学づくり、高等教育の教育研究基盤の充実、競争的資金の拡充などの新たな時代に対応した教育施策に積極的に取り組む。」とされ、さらに、「安心して教育が受けられる社会の実現に向けて、各学校段階の教育費負担に対応するため、所要の財源確保とあわせた中期的な検討を行いつつ、当面、軽減策の充実を図る。」として、教育格差是正の措置を講じることが骨太方針2009に明記されています。
私達大学人は、骨太方針2009に謳われたこれら緊要な課題の解決に向けた予算の確保・拡大について、年末までの予算編成過程において、側面から文部科学省を支援するとともに、自らも様々な機会を捉えて主張していかなければなりません。
この日記でも既にご紹介しているように、これまで、国立大学協会は、国立大学を取り巻く厳しい財政事情を踏まえ、財政制度等審議会の建議や建議に至る議論の内容に関し、国立大学関係者に勇気と希望を与える反論を公に示しています。さらに、このたび、来年度予算の確保・拡大に向けたアピールを発信しています。今後は、こういった国立大学の「声」を社会に積極的に発信していくことが何より大事になってきます。
平成22年度国立大学関係予算の確保・充実について(要望)(2009年6月29日 国立大学協会)
国立大学協会は、6月29日(月)に、文教関係議員等に、「平成22年度国立大学関係予算の確保・充実について(要望)」についての要望活動を行いました。
要望事項
- 運営費交付金の拡充(総額△1%及び深掘りの撤廃)
- 国立大学附属病院の経営に対する財政的支援等(△2%撤廃)
- 教育費負担の軽減(授業料等標準額の減額及び減免措置の拡大)
- 教育・研究環境整備の予算の確保(施設・設備費の増額)
- 科学研究費補助金の拡充(予算の拡充、間接経費の措置)
- 国際的に開かれた大学づくりに資する予算の拡充
貴職におかれては、日頃から国立大学法人について深いご理解と力強いご支援をいただいており、厚く御礼を申し上げます。
現在我が国は、深刻な「経済危機」に見舞われています。本協会は、我が国が、この未曾有の危機を克服し、国民の不安を払拭して持続的な発展を図るためには、従来から国立大学が果たしてきた役割を更に強化・充実することが不可欠であると考えております。
国立大学は、これまで、我が国における知の創造拠点として高度人材育成の中核機能を果たすとともに、高度な学術研究や科学技術の振興を担い、国力の源泉としての役割を担ってきました。また、学生の経済状況、居住する地域や学問分野を問わず、教育の機会均等を確保するために大きな役割を果たしてきました。
しかしながら、我が国における高等教育への公財政支出は、GDP比0.5%に過ぎずOECD平均の1%を大きく下回り最下位になっています。
国立大学法人の財政的基盤である運営費交付金は、骨太方針2006に基づき、毎年△1%の適用を受け、削減され続けており、各法人では各々が懸命の経営努力により対応しているものの、その努力も限界に近づきつつあります。
特に、医師養成等の国の重要な機能を担う大学附属病院には経営改善係数(△2%)の適用や診療報酬の減額改定等とも併せて大きな影響が生じています。
また、国立大学の教育研究活動を支える施設・設備については、施設整備費補助金等の削減により、その老朽・狭隘化が著しく進んでおります。
このような運営費交付金・施設整備費補助金等の削減が続けば、今後数年を経ずして教育の質を保つことは難しくなり、さらには一部国立大学の経営が破綻するばかりか、学問分野を問わず、基礎研究や萌芽的な研究の芽を潰すなど、これまで積み上げてきた国の高等教育施策とその成果を根底から崩壊させることとなります。
知的競争時代において諸外国が大学等に重点投資を行い、優秀な人材を惹きつけようとする中で、ひとり我が国だけが投資の削減を続けていては、教育研究の水準の維持・向上を図り、国際的な競争に打ち勝つことはもとより国際競争力を維持することさえも困難となり、国民の望む「安心社会」の実現は期しえません。
つきましては、貴職に対して我々の意をお伝えするため、別紙の事項について、要望いたします。第2期中期目標期間を迎える平成22年度の概算要求に向けて、国立大学関係予算の確保・充実について、ご理解をいただき、引き続きご尽力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
要望事項の要点
運営費交付金の拡充(総額△1%及び深掘りの撤廃)
我が国の発展の基礎を支える国立大学法人の教育・研究活動が安定的・持続的に推進できるよう、基盤的経費である運営費交付金を拡充すること。
また、骨太の方針2006に盛り込まれた5年間の運営費交付金の総額1%削減方針は、今期のみならず次期の中期目標期間にわたり、大学の教育・研究の基盤に重大な影響を与えるものであることから、これを早期に撤廃すること。
特に、平成21年度概算要求基準においては、総額1%削減に加え、さらに2%を削減(深掘り)することとされたが、国立大学法人の教育・研究活動を支える基盤的経費である運営費交付金の性格を全く考慮しない取り扱いであり、このような取り扱いが繰り返されることがないようにすること。
国立大学附属病院の経営に対する財政的支援等(△2%撤廃)
経営改善係数の適用による△2%を撤廃するとともに、医師等の人材育成、地域医療の中核病院、地域医療体制の確立、高度先進的医療の提供など、国立大学附属病院特有の役割を果たすために必要な財政的支援を行うこと。
また、経営努力にもかかわらず、診療報酬の減額改定等、外的な要因による経営への影響については、特段の配慮を講ずること。
特に、診療報酬については、国立大学附属病院の診療実態を適切に反映したものとなるよう、増額改定を行うこと。
教育費負担の軽減(授業料等標準額の減額及び減免措置の拡大)
昨今の経済危機の中で教育の機会均等を確保するため、授業料等標準額の減額及び減免措置の拡大のための財政支援を行うこと。
教育・研究環境整備の予算の確保(施設・設備費の増額)
「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」の最終年度として整備目標の達成を目指し必要な予算を確保すること。
また、イノベーション創出の基盤となる研究施設・設備の整備や老朽化した教育・研究及び診療用設備の更新に必要な財政措置を講ずること。
さらに、国立大学附属病院の施設整備については、施設整備費補助金の補助率アップ(現在10%)など、必要な財政的支援を行うこと。
科学研究費補助金の拡充(予算の拡充、間接経費の措置)
第3期科学技術基本計画に従って、競争的資金、特に、大学等で行われる学術研究を支える科学研究費補助金の拡充に必要な措置を講ずること。
また、研究環境の向上、適正な資金管理等に寄与する間接経費30%措置の早期実現に必要な予算を確保すること。
国際的に開かれた大学づくりに資する予算の拡充
グローバル化する知識基盤社会、学習社会の中で、喫緊の課題である我が国の大学の国際的な通用性・共通性の向上や国際競争力の強化の推進、大学のグローバル戦略展開を図るための「留学生30万人計画」の実現に資するため、大学の国際化や留学生の受入環境の整備など関係の予算の拡充を行うこと。
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国大協「撤廃を」 国の交付金削減方針(2009年6月29日 朝日新聞)
国立大学協会が、毎年減らされている国立大への運営費交付金について、削減方針を撤廃するよう求める緊急アピールを出した。文部科学省や財政制度等審議会など各機関にも要望書を送った。
国立大学法人の経営基盤である運営費交付金は、政府の「骨太の方針2006」に基づいて毎年1%ずつ削減されている。協会によると、この5年間で23大学分の運営費が消えた計算になる。付属病院の経営も圧迫され、07年度には42病院のうち16病院が赤字に転落したという。アピールは「遠からず教育の質を保つことは難しくなり、研究の芽をつぶすだけでなく、地域医療の最後のとりでが破綻する」とし、国からの財政支援を経済協力開発機構諸国並みに拡充するよう求めた。日本の高等教育への公財政支出は、対GDP比0.5%で、加盟国(平均1.1%)の中で最下位だ(05年実績)。
また、今月15日に開かれた総会で、授業料の目安になる「標準額」を来年度から引き下げることを国に求める中間報告を了承した。運営費交付金の増額を前提にしている。
国立大の授業料は04年度の法人化まで一律だったが、現在は各大学が決め、標準額の2割増まで値上げできる。標準額は、法人化時の52万800円から、05年度に53万5800円へ引き上げられた。
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200906290112.html
最後に、是非とも読んで教育費についてお考えいただきたい記事を。(削除される可能性があるため全文を掲載)
子どもにも社会保障を 教育の格差、固定化に懸念(2009年6月22日 朝日新聞)
「人生前半の社会保障」。最近、こんな言葉が教育の世界で言われ始めた。親の所得格差が露骨に子どもの教育環境の格差につながっている。不況などで学校に就学費用を納められない子も少なくない。社会保障費といえば介護や医療など人生後半に集中してきたが、活力ある社会にするため教育分野の公費支出を増やそうという考え方だ。政府の教育再生懇談会委員で、以前からこの考え方を提唱してきた広井良典・千葉大教授に聞いた。
機会の均等 国が守れ
▼「人生前半の社会保障」とは?
社会保障の議論といえば、これまで、介護や年金、医療と高齢期に集中していた。雇用がしっかりし、家族の基盤もしっかりしていたから、暮らしの上でのリスクは、もっぱら退職後の時期に現れた。
しかし、いまは若者の失業率一つとってみても、退職期の年齢層より高くなっている。経済成長の時代は終わり、現役世代の雇用は不安定。先進国は生産過剰で失業が慢性化している状況だ。この結果、生活リスクが高齢期以外に広く及ぶようになり、人生前半での生活保障が必要になってきた。
所得格差が世代を通じて徐々にたまってきたのも大きい。人生の始まりで「共通のスタートライン」に立つという前提が崩れている。教育はそうした「人生前半の社会保障」の核になるもので、平等の実現とともに、経済や社会の活性化のためにも手厚くする必要がある。
▼人生を教育と社会保障の両面で支えるということ?
社会保障は人生の後半を対象にした、いわば事後的な対応策。一方、教育は人の能力を伸ばすという、能動的な人生前半の分野として別々に考えられてきた。しかし、社会が成熟して両者はクロスしており、人生の各段階で融合させて生活を保障することが必要になる。こうした考え方は欧州ではすでに定着している。
▼公的な教育支出の国際比較では、日本は経済協力開発機構(OECD)で最低水準。人生前半の公的な財政支援は乏しい。方向性は?
政策としては、小学校に入る前の時期と大学教育の時期の支援が日本では特に不足しており、強化が必要だ。児童手当や保育サービスを充実させるほか、大学教育では私費負担を下げ、返済する必要がない奨学金や職業訓練、職業紹介の制度を広げるべきだと思う。20~30歳の人に月額4万円程度の年金を支給する「若者基礎年金」制度も提案したい。
今は人生が長くなっている。高齢期が延びたと同時に、「子ども」の時期も大きく延びているととらえるべきだ。思春期の頃までを「前期子ども」、30歳ごろまでを「後期子ども」と考えることができる。後期は「遊・学」と「働」の複合期ととらえ、教育の概念を広げたい。
生産から少し距離を置いた子ども期と高齢期が長いのが人間という生き物の特徴で、そこにこそ創造性の源がある。一見「効率的」でないことの価値に気づくことが重要だ。経済成長を目標にする時代ではない。成熟化の時代に合った教育政策をどう描くかが課題になる。
▼実現には、やはり財源が必要になる
今より負担が大きくなる代わりに、給付も大きい社会を目指すべきではないか。スタートラインでの平等という意味では、相続税を強化し、就学前の支援にあてることも考えられる。ドイツなどでは、社会保障の財源として環境税をあてている。
従来の米国型の「強い成長志向・小さな政府」という社会モデルは破綻(はたん)しつつあり、「持続可能な福祉社会」とも呼べるモデルを考えることが重要だ。
家庭の教育費負担軽減提言 教育再生懇・4次報告
広井教授が委員を務める政府の教育再生懇談会は5月28日、第4次の報告を河村官房長官に提出した。その中には「人生前半の社会保障」の言葉と考え方が強く表現されている。
報告書は「安心できる社会の実現には、子どもたちが努力すればより豊かな人生を送ることができるという希望がもてる環境を整えることが大切」「家庭の経済状況で教育を受ける機会や質に差ができないような社会の構築が必要」と指摘。
現実には家庭の所得水準によって進学機会や学びの継続に影響が出ているとし、「教育を『人生前半の社会保障』と位置づけ、家庭の教育費の負担軽減を図る」と提言している。
具体的には、▽幼児教育の無償化の早期実現▽経済的に困難な高校生への授業料減免措置の拡充や奨学金の充実、給付型教育支援制度の検討▽大学などでの授業料減免措置の拡充と給付型奨学金の充実――などを求めている。
〈解説〉
政府内で教育政策を「人生前半の社会保障」として位置づける流れが生まれたのは今年初めだった。社会保障費を将来的にどうするのか、消費税率の引き上げ論議が盛んだったころだ。
日本は教育費の公的支出が対国内総生産(GDP)比で先進国の最低水準だが、これまでは家庭が負担をかぶってやりくりしてきた。だが、それも近年の不況や雇用の激変で支えきれなくなっている。
所得が高い世帯の子どもばかりがいい教育を受けるような形で固定化されたら、社会は活力を失う。戦後教育の基本となった「機会均等」がますます希薄になることへの危機感は大きい。
広井良典氏らの考え方は、社会政策と教育政策を連動させることで「人生前半の社会保障」を充実させ、職業訓練や事業創造などにつなげて人生中盤から後半のリスク要因を小さくしようというものだ。文科省はこの考え方を取り入れつつ、「社会保障費」として教育財源を確保しようと考えている。
この動きは、旧来の教育行政の転換につながる可能性がある。文科省と厚生労働省で縦割りになっている教育・社会保障行政の見直しにもなる。最近の政策決定を審議する場では、狭くマンネリ化した教育の世界の枠を超えて政策を立案しようとする姿勢も見られる。
政府・文科省がこれまでの政策と調整した上で社会モデルを具体的に描き、財源確保の道筋を示したとき、「新たな流れ」が現実味を帯びてくる。
http://www.asahi.com/edu/tokuho/TKY200906210084.html