外部の弁護士を中核とする調査班によって、法の網をくぐる行為の広がりと、手法の悪質さが明らかになりつつある。
内閣府の再就職等監視委員会が国家公務員法に違反、もしくはその疑いがあると指摘した計38件のうち、今回、文科省自身が27件を違法だったと認めた。関与した官僚は前川喜平前事務次官を含め20人に及ぶ。
あっせん作業の手順を引き継ぎ、共有するための人事課内のメモも2種類見つかった。あっせんが「業務」として位置づけられていた事実を物語る。
うち一つは監視委対応マニュアルというべきもので、天下りのあっせん役を担っていた文科省OBの氏名は明らかにしないようにと明記されていた。
後ろ暗さがあるからこその隠蔽(いんぺい)ではないか。前高等教育局長の早稲田大への天下り疑惑を監視委が調べた際、人事課職員が関係者に口裏合わせを求めたことと並んで、許しがたい。
当のOB自身を学長予定者とする大学の設置申請に関するやり取りも、調査対象になった。
驚くことに、申請内容を審査する審議会の情報が、まったく関係のない人事課職員に漏れ、OBに伝わる可能性があったという。文科省内のコンプライアンスのあり方に重大な疑念を抱かせる出来事といえよう。
文科省はさらに調査を進め、来月、最終報告を発表する方針だ。行政や税金の使い道がゆがめられていなかったかを、徹底的に調べる必要がある。
違法行為をうんだ原因について、松野文科相は「規制への認識が十分でなく、省内の順法意識が欠けていた」と述べた。
だが根本的な問題は、再就職先を必要とする文科省と、設置認可や補助金の獲得を有利に運びたい大学との、持ちつ持たれつの関係にあるといえる。
この十数年、文科省は改革を促すために大学を競わせ、めがねにかなったところに補助金を出す政策を続けてきた。大学側からは「国の狙いをいち早くつかみ、繁雑な事務手続きをこなすには文科省出身者の力が不可欠」との本音が漏れてくる。
加えて、来年からの18歳人口の急減期を前に、経営の行く末を心配する大学は少なくない。再就職だけでなく、文科省職員の現役出向も広がっている。
調査班は事実関係の解明にとどまらず、こうした官と学のもたれ合いの構図にも切り込み、違法な天下り根絶策の検討に役立つ素材を示してほしい。
再就職あっせん問題で文科省が設置した調査班が、中間報告を公表した。新たに17件を国家公務員法違反と認定した。政府の再就職等監視委員会が違法性を認めた分と合わせると、違反事案は計27件となった。
既に判明している早稲田大などに加え、上智大や岐阜大などが、あっせん対象となっていた。
依願退職した前次官が、次官在任中に違法なあっせんに関与していたことも判明した。16人の処分が検討されている。
問題なのは、OBの嶋貫和男氏を調整役とするあっせんについて、人事課職員が引き継ぎ書を作成していたことだ。
OBを介在させて、現役職員によるあっせんを禁じた国家公務員法の規制をすり抜ける仕組みを維持するためだった。あっせんを「業務」の一環として行っていた実態が裏付けられたと言える。
無論、官僚の再就職が、一律に非難されるものではない。在職中に培った知見が、企業や大学などにとって貴重な戦力となるケースは少なくない。
ただ、所管する業界への再就職には、慎重な対応が求められる。文科省は大学の補助金や設置認可に強い権限を持つ。大学側が見返りを期待することも否めまい。
国家公務員法が天下りに規制を設けているのは、癒着の温床となるのを防ぐためだ。ルールをないがしろにした文科省の責任は重い。
調査では、嶋貫氏の天下り先に関わる大学設置審査の情報が、文科省内で不適切に扱われていたことも判明した。
嶋貫氏を学長予定者とする私立大の設置審査について、認可の見通しが厳しいことを、当時の高等教育担当の審議官や職員が人事課職員に伝えて、助言を行った。担当部署で厳格に管理すべき情報の事実上の漏えいである。
調査班が「審査の信頼性を大きく損なう」として、国家公務員法が禁じる信用失墜行為にあたると判断したのは当然だ。
別のOBが調整役を務めた事例も、調査で明らかになった。脱法的な行為が広がった背景には、天下りに対する認識の甘さや感覚のまひがあるのではないか。
文科省は3月末に最終報告をまとめる。全職員への書面調査などで全容を解明するとともに、再発防止のために、抜本的な意識改革を急がねばならない。