科学者の研究力低下に歯止めがかからない。
研究内容が注目され、同じ分野の科学者に数多く引用される「注目論文」の数で、日本はイランに抜かれ、過去最低の13位にまで落ち込んだ。
はなから低迷していたのではない。30~40年前は米国や英国に次ぐ世界3位だった。その後も20年ほど前までは4位を維持していた。
おととし10位に下がって学術界に衝撃を与え、さらに昨年は韓国とスペインに追い抜かれて12位に落ちた。一体どこまで下がるのだろう。抜本的な対策が求められる。
最新の順位は、2019~21年の平均発表数などを基に文部科学省の科学技術・学術政策研究所がまとめた。
見過ごせないのは、政府の危機感の乏しさだ。「順位のみで議論する際には注意が必要」という。今後の状況で大きく変動する可能性があるとして、順位は気にしていないようだ。年々、深刻さを増している科学力低下をあまりにも軽んじてはいないか。
そもそも低下を招いたのは科学技術政策の失敗だ。2004年度に政府が強行した国立大の法人化である。その研究・教育の土台を支えていた運営費交付金を最初の10年で1割以上も減らした。
金集めに苦労する地方大学などを揺るがし、研究者の裾野を狭めてしまった。そうなれば、山の頂は低くなることは予想しなかったのか。
同政策研究所も指摘している。注目度の高い論文を増やすには、トップクラスの大学だけでなく、「群としての研究力の向上が必要だ」と。にもかかわらず、逆のことを政府は今なお続けている。
運営費交付金の減少を受け、多くの大学は人件費を抑え込んだ。あおりで、任期付きという非正規のポストが増え、腰を据えた研究の見通しが立てられず若手が苦しんでいる。長期にわたる基礎研究を断念せざるを得なくなったり、よりよい環境を求めて海外に出て行ったり…。
これでは、国内の大学院博士課程への進学者が減るのも当然だ。科学技術立国を支える人材の育成基盤を政府が掘り崩したと言えよう。
東京大学長を務めた有馬朗人・元文相は生前、自ら道を付けた国立大の独法化を失敗だったと認めていた。最近相次いだ国産ロケットの打ち上げ失敗などにも、何か影響を与えているのではないか。
岸田文雄首相は21年秋の自民党総裁選の時から、10兆円規模の大学ファンド設立を掲げるなど科学技術に力を入れる姿勢を見せている。政権初の骨太の方針でも、科学技術立国「再興」を打ち出した。
科学力は衰える一方だと認識しているのだろう。ただ、対応は不十分だ。10兆円ファンドにしても、資金提供先は3大学に絞られ、幅広い大学を支援して研究を底上げするには程遠い。
鉱物資源に乏しく、食料さえ自国では調達できない。そんな日本が未来に向けて選んだのが科学技術立国だった。その旗を掲げ続けるのなら、まずは科学技術政策の検証こそが急がれる。