2023年8月5日土曜日

記事紹介|低学歴国ニッポンの危機

イノベーションを生み出せる、高い知的戦闘力を持った人材が育っていない。それが日本の弱点だ。その根っこには大学院に対する日本社会の評価の低さ、期待の欠如がある。

日本企業は新卒採用に際して応募者を学歴、つまり「どの大学に合格したか」でふるい分けするやり方を長く続けてきた。大学でどんな学び(知的訓練)を経たか、そこで何を身につけたかは、ほとんど問われない。

そうした社会では、学びは入試を突破して学部に入った時点で終わりだ。大学院は研究者を目指す、ごく限られた層の学生が集まる場となり、魅力が高まるはずはなかった。

文科省は義務教育の管理官庁の性格が強く、高等教育政策の司令塔としての存在感は薄い。多くの企業も院卒採用の経験・ノウハウがなく、博士の採用拡大に向けて大胆な一歩を踏み出せずにいる。採用選考の担当者や責任者が学部卒で大学院教育を知らず、院卒者をどう評価してよいか分からないことも多い。

高校生に将来の進路として、大学院進学があることを知らせていくことも大事だ。日本はこれまで、大学院を含む高等教育が社会の中でどのような役割を果たすべきなのかを、きちんと考えてこなかった。その結果、企業は大学院教育に期待せず、大学院は研究者を育てるだけで満足し、学生もより高度な学位に挑戦しないという、三者それぞれが低いレベルで納得してしまう状態が生まれた。

そうしたぬるま湯のような均衡を、いつまで続けるのだろうか。

産業界には戦後の高度成長をなし遂げた成功体験がいまだに強く残ることも、従来モデルからの脱却を難しくさせている。だからこそ、産学官が連携してビジョンを描き、実行することなしに「低学歴国ニッポン」の危機は脱せない。

出典:博士課程進学者、ピーク時の約半分に 「低学歴国」ニッポンの現状|日経BOOKプラス