▶問題提起:人口減社会での地方私大の役割と私大の再編・統合の課題
大森 昭生 共愛学園前橋国際大学 学長
地域の 〝来賓〞 ではなく来賓に胸章を付ける側へ
地域から頼られる存在になるために大学ができることを考えてみると、まず必要なのは、地域の一員として雑巾がけから始める覚悟。「第二の建学」と言えるレベルの、学長の固い意志です。かつての本学しかり、大学には、地域に〝目を向ける〞〝手を貸す〞といった、一段上から見守るような意識がないでしょうか。地域の催しがあれば、胸章を付けられる来賓として招かれるのではなく、来賓に胸章を付ける事務局側にならなくては、地域と同じ足取りでは歩めません。
そして、粘り強くアプローチすること。本学も、地域の信頼を得たと言えるまでに10数年かかりました。自学が地域を知らないうちは、地域も自学を知りません。「目を向けてくれない」と思ってしまうのは待ちの姿勢だからで、先に声をかけなければいけないのはこちらです。両思いになるまで諦めずにプロポーズしてください。
地域連携を重視した人事も不可欠です。地域連携室をつくれば連携が進むわけではなく、あらゆる教職員に、常に「地域と何ができるか」を考える姿勢が求められます。地域の一員である旨を示すビジョンを掲げ、賛同する人を採用し、一員たる活動を評価する制度が、それを支えるでしょう。本学も、地域を舞台とした教育や活動への理解を、研究実積と同じくらい重視する教員採用を続けてきたからこそ、ことさら自学で企画しなくても、地域からのオファーで次々と地域での学びや研究が生まれる好循環をつくれています。
さらに、地域内の大学が連携しているなら、若者の流出状況データを持ち寄って統合してはいかがでしょう。国立、私立大学は原則、自治体の管轄外であり、地域外に転居しても住民票を移さない若者が多いため、「進学時、就職時にどれだけの若者が流出したか」の詳細は、教育機関が協力し合って初めて実態がつかめます。前橋市では、プラットフォーム設立時に課題抽出のため共同IRでこのデータを集計、人材定着施策の基礎資料としています。
「経営困難校は退場」 で本当にいいのか
2021年、法人間の移管が成立し、明和学園短大を本学の短期大学部としました。これもプラットフォームの成果の一つです。共に地域活性化に取り組む中で人材育成の熱意が共有され、まずは現場レベルで相談があり、前橋市の教育力の維持、向上という目的が一致して設置者変更手続きへと進みました。
むろん、社会的意義だけでなく、本学が得るメリットも考慮のうえです。特に、自前での設置が簡単ではない理系分野への領域拡大は魅力でした。例えば、本学のリソースである経営学と短大の栄養学を掛け合わせれば、群馬県の基幹産業である食品産業を担う、文理融合型の人材が育てられそうです。国の理系学部再編支援の申請も視野に入れて、理事長からパート事務員までが対等に話し合うスタッフ会議で検討を進めています。
定員割れで経営を自立できない私大は統廃合すべき、というのが世の論調ですが、地方には、「都市部には進学できないが地元でなら進学できる」状況の高校生が数多くいます。各校の努力だけでは学校経営がままならないであろう今後、競争原理に任せて地方私大を減らせば、日本全体の大学進学率が下がるでしょう。本当にそれでいいのでしょうか。
地方の進学機会を守る空気をつくるためには、地域に必要とされるだけの教育の質担保が前提となります。そのうえで地域における自学の存在意義の再定義が、真の意味で地域の一員になりきるための第一歩となるでしょう。
▶[エリア別]2040年の学生募集予測
九州・沖縄
大学等進学率が低いエリアのため、進学希望者の掘り起こしが必要だ。沖縄県は2020年時点で40・8%と現役進学率の低さがめだっていたが、その後の2年間で3・8ポイントも上昇。県教委は、県内進学にこだわらず、他県にも進学させる方針を打ち出している。
エリア内では、福岡市が突出して活気がある。政令指定都市の中で人口の増加数・増加率がトップ(2015〜2020年)。若年層も増加傾向にあり、市内私立大学も学生募集が安定している。2023年3月に地下鉄七隈線が延伸し、博多駅に直結したため、今後、路線沿いの大学は受験生が増える可能性があるだろう。
福岡県以外の県には、地元国公立大学不合格者の受け皿になる私立大学が少なく、福岡県への流出がめだっている。特に佐賀県は大学収容力が低いこともあり、受験生の多くが福岡県の大学に進学。流出を抑制するために、佐賀県立大学を設置する動きがある。
福岡県、沖縄県以外の私立大学が将来的に受験生を呼び込むには、その土地ならではの〝とがった〞教育が必要だろう。公立高校ながら韓国語を本格的に学べるカリキュラムを備え、全国から入学者を集めている長崎県立対馬高校の取り組みなどが、一つの参考になるのではないか。(九州支社長・横山宏治)
地域一体の未来創生に高校生を巻き込む
【図表4】を見ると、全国で最も大学進学率が高く、他県からの流入者が多い東京都でも、入学定員が変わらなければ、2040年の充足率推計は92%にとどまる。
県によっては定員の約3分の1が埋まらない状況も予測されている。国公立大学から定員が埋まっていくとすると、私立大学の充足状況はより厳しくなるはずだ。
従来の学生募集では、「いずれかの大学に進学する高校生が一定数いる」という前提の下、その中で自学志望者を1人でも増やそうと、入試広報の部署が高校や高校生に進学情報を発信してきた。
人口減時代の学生募集は、大学進学者を増やすことから考え始める必要があるだろう。学生や卒業生が魅力ある地域をつくり上げていく未来を提示し、大学に進学する価値を高校生や保護者、社会に訴えていかなければいけない。大学には、自治体や企業と協力しながら、地域産業の転換・高度化に必要な人材を、全学を挙げて育成する役割が期待される。単なる広報戦略ではなく、地域の未来を創造する活動に高校生を巻き込んでいく戦略が不可欠だ。
自治体と共に新規産業を創出し、活性化を図る大学、自治体や地元企業と連携して課題解決にあたる大学も現れ始めている。地域における大学の存在意義を高め、国内外から学生が集まる構造をつくりたい。