2010年12月18日土曜日

科学技術の司令塔はいずこに

去る12月15日(水曜日)、政府の総合科学技術会議(議長=菅直人首相)は、2011年度から5年間の科学技術政策の方針を示す「第4期科学技術基本計画」の答申案を固めました。
政府による研究開発予算を5年間で25兆円、国内総生産(GDP)比1%とする目標を明記。現行の第3期計画を踏襲した内容となっており、来年3月に閣議決定するようです。

科学技術基本計画とは、総合科学技術会議のホームページには、「平成7年に制定された「科学技術基本法」により、政府は長期的視野に立って体系的かつ一貫した科学技術政策を実行することとなりました。この基本法の下で、これまで第1期(平成8~12年度)、第2期(平成13~17年度)の基本計画を策定しています。そして、第3期基本計画が、平成18年4月から次の5年間をにらんでスタートしました。総合科学技術会議は、この基本計画の策定と実行に責任を有しています。」と書かれてあります。

では、科学技術基本計画を策定している総合科学技術会議とはどのようなところなのでしょうか。同会議のホームページには、「総合科学技術会議は、平成13年1月の中央省庁再編に伴い、「重要政策に関する会議」の1つとして内閣府に設置されました。内閣総理大臣のリーダーシップの下、科学技術政策の推進のための司令塔として、わが国全体の科学技術を俯瞰し、総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行っています。
総合科学技術会議は、現在、原則月1回開催されており、議長である内閣総理大臣をはじめ、関係閣僚、有識者議員などが出席しています。会議では、1)科学技術に関する基本的な政策についての調査審議、2)科学技術予算・人材の資源配分などについての調査審議、3)国家的に重要な研究開発の評価などを実施しています。」と書かれてあります。

このように、総合科学技術会議は、我が国の科学技術に関する重要政策を推進する”司令塔”として設置されているわけですが、高次元の話し合いばかりやっているわけではないようです。


譲れない「・」 科学技術か科学・技術か、専門家バトル(2010年12月16日 朝日新聞)

「科学技術」と「科学・技術」。表記をめぐり、譲れない攻防が続いている。学者の国会とも呼ばれる日本学術会議が「科学・技術」を使うのに対し、科学技術政策の司令塔の総合科学技術会議は再び「科学技術」に戻した。「・」にこだわる背景には、政策の方向をめぐる意識の違いがある。・・・
http://www.asahi.com//science/update/1214/TKY201012140441.html?ref=rss


学者の論争に政府が巻き込まれてやや混乱気味といった感じでしょうか。かなり国民生活から乖離した世界のようですし、こんな議論のために税金を使ってもらいたくないものですね。

関連して、山崎正和さんという方が読売新聞に寄稿されている記事を抜粋してご紹介します。個人的にはかなりうなづける内容でしたので。


学術振興に「司令塔」必要(2010年12月12日 読売新聞)

すでに旧聞に属することだが経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、もともと日本の大学予算は国内総生産(GDP)の0.5%、欧米先進国の半分にすぎなかった。それが昨今の財政緊縮のあおりを受け、国立大学への運営費交付金は毎年約1~2%ずつ減額されて、行き着く先も定かではない。旧帝大のような有名大学の場合、総予算の半分以上を授業料や付属病院の収入、それに政府の追加する競争的資金と産学連携の果実でまかなっている。

だがこれはあくまで糊口の策にすぎず、このうち外部資金を真に競争的に拡大する風土は日本にはない。大学は受け入れ機関も設けて努力しているが、不況下の企業現場は貧すれば鈍するの喩え通り、目先の利用を超えて研究を種子の段階から育てるほどの見識はない。個々の学者も自分の研究を解説し、市場を説得して資金を獲得する才覚に乏しい。弱小の私学や地方大学の場合、これに少子化と大都市集中の影響が加わり、倒産、廃校の危険さえあることを私は経験から知っている。

そのうえ大学授業料は高騰をつづけ、奨学金の拡充の見込みはなく、外国留学などを志す学生には失業の不安が待っている。大学院修了者の失業は限度に達しているのに、大学にも企業にも研究職の席は絶望的に少ない。にもかかわらず奇怪なことに、大学の新設は規制緩和で今もなおつづいているのである。

最大の問題は日本には学術振興の司令塔がなく、知的生産の将来を決める永続的な政策がないことである。文部科学省には危機感があっても、財政当局には問題意識が乏しく、政治家には政策がないという認識さえない。

必要なのは国民の総意にもとづく選択であって、持続的に一貫した戦略である。かりに高度研究は集中化を進め、地方大学には教養教育や地域に特化した研究のみを許すというなら、同時に各地の学生が自由に国内を移動する費用を給付しなければなるまい。大学の淘汰を認めて弱小大学の廃校もやむなしとするなら、廃校後の学生を救済する法的施策が必要だろう。

上山(隆大)氏も引用している福沢諭吉が力説したように、「学問社会の中央局」を定め、「百般の文事を一手に統括」する中枢を持つことが、今ほど切実に求められているときはないのである。

山崎正和(劇作家)
1934年、京都生まれ。大阪大学教授などを務め、現サントリー文化財団副理事長、前中央教育審議会会長。