記事紹介|組織の贅肉を削ぎ落とす「引き算の人事戦略」
リクルートワークス研究所が発表した「人事の『体脂肪』調査」。この調査は、人事施策の中に潜む「成果を伴わない過剰なリソース(時間・ヒト・モノ・カネ)」を“体脂肪”と見立て、どこに無駄があるのかを浮き彫りにした非常に興味深い内容です。
今回は、この調査結果から見えてくる組織の構造的な課題と、形骸化した人事施策をそぎ落とすための具体的な「人事のダイエット法」について、一歩踏み込んで深く分析していきます。
1. 「組織のお作法」という、やめられないブラックボックス
調査において、人事部門・現場の管理職の双方が「最大の無駄」として一致して挙げたのが、「組織に根付いた慣行や・お作法」でした。ここに組織が抱える最初の大きな罠があります。
「過去の正解」が引き起こす、業務の肥大化
かつて組織の規律を守るために作られたルールや、過去のたった一度のトラブル防止のために追加された二重・三重のチェック体制。これらが時代やビジネスモデルが変わった現代でも、「前例踏襲」のまま残り続けています。これこそがまさに組織に蓄積した「贅肉」です。
多くの企業は、新しい施策(DXツールの導入や新規研修など)を導入する「足し算」は得意です。しかし、古くなって形骸化した慣行を廃止する「引き算」の仕組みを持っていません。誰も「やめる責任」を取りたがらないため、古い慣行がブラックボックス化し、現場の貴重な時間とエネルギーを奪い続けているのです。
2. 人事と現場の「深刻な認識ギャップ」
この調査の最も重要な示唆は、「人事の良かれ(大義名分)」が「現場の足かせ(過剰負担)」になっているという非対称性、つまりすれ違いの構造です。
| 視点 | 無駄と感じる領域 | 背景にある構造的課題 |
|---|---|---|
| 人事部門 (上流の無駄) |
・人材採用の形態 ・募集活動 ・社員の配置 |
激化する採用市場において、従来のやり方が通用せず「空振り」が増えている。また、配属後のミスマッチによるやり直しコストに強い危機感を持っている。 |
| 現場の管理職 (下流の無駄) |
・評価制度(業績・行動) ・上司と部下の対話 ・大規模な会合 |
人事が設計した「精緻で公平な評価シート」や「1on1の義務化」が、日々の業務に追われる現場にとっては「こなすだけの作業」や「過剰な書類仕事」と化している。 |
大義名分が「ただの作業」に変わるとき
人事は「社員の成長や公平な評価のため」という大義名分(目的)を持って施策を打ち出します。しかし、肝心の現場への「なぜやるのか」の腹落ちが不十分なまま制度だけが走ると、現場にとってそれは「人事が作った指定フォームを埋めるための時間」という無駄に成り下がります。
自由回答からは、人事側は現場の「属人性(個人の勘や経験頼み)」を問題視しているのに対し、現場側は人事を「現場の実態を理解していない」と批判する構図が見て取れます。お互いが相手の仕事をよく知らない(ブラックボックス化している)ことが、不信感とさらなる無駄を生む温床になっています。
3. データの格差が物語る、仕組み化の有無
企業の属性による分析を進めると、さらに面白い事実が見えてきます。外資系企業や海外売上比率の高い企業、IT系企業では、評価や配置における無駄の指摘が比較的少ない傾向にあります。これは、「システムによる標準化とデータ整備」が先行して進んでいるためと考えられます。
一方で、多くの伝統的な日系企業では「根回し」や「すり合わせ」といったアナログな意思決定が多く、これがそのまま無駄の温床になっています。また、多くの管理職が人事施策を「あまり無駄がない(こんなものだ)」と受け入れている点も注意が必要です。これは、長年その組織にいることで、「形骸化した業務を無駄だと気づけないマヒ状態」に陥っている可能性を示唆しています。
4. 組織の筋肉を残す「人事のダイエット」4つのステップ
現場の不満を真に受けて「面倒な施策をただ削る」のは間違いです。それでは組織の規律崩壊か、トラブルが起きて再び新しいルールが追加されるというリバウンドを招きます。目指すべきは、大義名分(人事)と実効性(現場)のバランスを最適化した「筋肉質な組織」です。
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1施策の棚卸しと「不満の因数分解」
現場の不満が「施策の目的そのもの」にあるのか、それとも「手続きの煩雑さ(UI/UX)」にあるのかを切り分けます。多くの場合、現場が嫌がっているのは目的ではなく、入力項目の多さやシステムの使いにくさです。
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2「足し算」の前に「引き算」を課すルール化
「新しい研修や評価項目を1つ増やすなら、古いものを1つ廃止・削減する」というワンプラス・ワンマイナスの原則を人事内のルールにします。これにより、制度の代謝を強制的に促します。
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3人事施策の「UI/UX」を徹底的に改善する
タレントマネジメントシステムや生成AIを活用し、現場の管理職が文字を入力する負担を極限まで減らします。「公平に評価する」という目的を崩さずに、現場の「作業負担」という脂肪だけをテクノロジーで消し去ります。
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4人事と現場の「越境コミュニケーション」
人事担当者が定期的に現場のミーティングに同席したり、現場の優秀なマネージャーを人事プロジェクトに巻き込む兼務体制を作ります。人事が現場の「リアルな時間感覚とリソースの限界」を肌感覚で理解することが、独りよがりな施策の乱発を防ぐ特効薬になります。
まとめ
人事の体脂肪の本質は、施策そのものの良し悪しではありません。現場のリソースを無視して精緻な仕組みを押し付ける「人事の独りよがり」と、過去の遺物を捨てられない「前例踏襲の姿勢」が原因です。
人事のダイエットとは、手抜きをすることではありません。現場が最も時間とエネルギーを注ぐべき「本業」や「部下との本質的な対話」に集中できるよう、周囲の雑音(形骸化した手続き)を人事が責任を持って排除することです。「管理のための人事」から「現場を勝たせるための人事」へ。今こそ、組織の体脂肪をそぎ落とす時です。
【データ引用・参考元】
人事の「体脂肪」調査:人事に関わる環境、戦略、施策に潜む無駄|機関誌Works 特集|リクルートワークス研究所
https://www.works-i.com/works/special/no196/hr-diet-01.html

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