知識はAIへ、知恵は教師へ
今やわからないことがあれば、AIに問いかけるだけで整理された答えが返ってきます。こうした時代に、教師という職業はどこへ向かうのでしょうか。中国の教育研究者たちの議論から、その輪郭が見えてきました。
AIには代替できない「教育の核心」がある
深圳大学の李樹英教授は、教師ならではの強みとして4つを挙げています。状況に応じた価値判断、臨機応変な対応、生徒との信頼関係の構築、そして自らの教育を振り返り改善する力。これらはどれも、現在のAIが本質的に苦手とする領域です。
「AIには感情がなく、人と関わる温かみもありません。生徒の心の成長や価値観の育成、心理的なサポートは、教師が対面で寄り添い、手本を見せながら導くことでしか実現できません。」 ― 余勝泉教授(北京師範大学)
知識を教えるという面でも同じです。対外経済貿易大学の孫宇研究員はこう指摘します。「AIは正確な答えを素早く提供できますが、教師は目の前の生徒の理解度や関心に合わせて知識を組み替え、深く考えさせることができます。教室での生きた対話や問いかけこそが、自分の頭で考える力を育てるのです。」
役割を変えることは、簡単ではない
とはいえ、教師が役割を変えていくことは一筋縄ではいきません。最大の壁は、多くの教師が長年「知識を教えること」を自分の仕事の中心と考えてきた点にあります。その部分をAIに任せてしまうと、「では自分は何をする人なのか」という不安が生まれてしまうのです。
さらに、日々の授業や雑務に追われる現場では、慣れたやり方を変えること自体が負担になります。余教授は「多くの教師がAIをただの授業補助ツールとしてしか使えておらず、AIと『どちらが上手く教えられるか』を競うような焦りに陥っている」と指摘します。
この状況を打開するヒントを示したのが孫氏です。「どこをAIに任せ、どこを自分が担うか――それは考えるだけでなく、実際の授業の中で少しずつ確かめていくものです。」たとえば、用語の説明やデータの整理はAIに委ね、「この方法で本当にいいのか」という判断や、答えのない問いをめぐる議論は教師が担う、といった分担が効果的だといいます。
これからの教師に必要な「AIとの付き合い方」
孫氏は、これからの教師に必要な力として、AIの基礎を理解すること、AIと上手く協力すること、そしてAIの回答を鵜呑みにしない批判的な目を挙げています。
「AIが出す答えは完全ではなく、事実のゆがみや偏った価値観を含むことがあります。教師はそれを見抜く力を持つだけでなく、生徒自身がAIと冷静に向き合い、自分の頭で考えられるよう導く必要があります。」 ― 李陽傑副教授(杭州師範大学)
また余教授は、教師のAIリテラシーを評価する際の注意も促します。「大切なのは、教師を縛ることではなく導くことです。形式や結果ばかりを求める評価をやめてこそ、教師は腰を据えてAIと向き合えるようになります。」
知識が簡単に手に入る時代だからこそ、人を育てる意味が深まる
ユネスコは2020年の「世界教師デー」のテーマを「教師:危機の中のリーダー、未来の再創造者」としました。AI時代を迎えた今、この言葉はますます重みを増しています。
「優れた教師の授業には、いつも豊かな知恵と人間としての温かさがあります。教室での教師の表情や言葉は、生徒の心に生涯残る記憶になることがあります。これからの教師は、人間教育の原点に立ち返り、AIには決して真似できない『教育の知恵』を追い求めていく必要があります。」 ― 李樹英教授(深圳大学)
知識がワンクリックで手に入る時代だからこそ、人が人を育てることの本質が、かつてなく問われています。
https://spap.jst.go.jp/china/experiences/education_human/eh_2618.html

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