記事紹介|早く帰れる。でも、燃えていない。
「残業を減らしましょう」——ここ数年で、この言葉はすっかり当たり前になりました。国が法律で残業時間の上限を定め、多くの会社が「早く帰る文化」を推し進めてきた、いわゆる働き方改革です。
では実際、私たちの働く環境はどう変わったのでしょうか。2026年6月、人材・組織の調査を専門とするパーソル総合研究所が、約4,000人の会社員を対象に大規模なアンケートを行い、その「成果」と「副作用」を同時に明らかにしました。
■ まず、うれしいニュース——残業は確かに減り、体と心は楽になった
調査の出発点は2018年との比較。働き方改革が本格化する前と後で、何がどう変わったかを調べました。
まず、残業時間は明確に減っています。一般社員(メンバー層)は月に約6.7時間、管理職(上司層)は約9.0時間も減少しました。「残業が当たり前」だった時代から、大きく様変わりしたことがわかります。
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−6.7h
一般社員の月間残業
(2018年比) |
−9.0h
管理職の月間残業
(2018年比) |
+5.3h
一般社員の月間睡眠
(増加分) |
7.1%
「もっと働きたい」
と思う人の割合 |
早く帰れるようになったぶん、睡眠時間も増えました。一般社員で月に5時間以上、管理職でも4時間以上のプラスです。「燃え尽き症候群(バーンアウト)」も改善し、人生全体の満足度も上がっています。
また、「もっと残業して稼ぎたい」と思う人はわずか7.1%。大多数は「現状維持か、もっと減らしたい」と考えていることもわかりました。そして重要なのは、残業が減っても会社の業績が落ちた証拠は確認されなかったという点です。「残業を減らしたら会社が回らなくなる」という心配は、データ上は当てはまらなかったようです。
■ しかし、ここに落とし穴があった——「早く帰れる」が生んだ、静かな問題
では、何もかも改善したのでしょうか。じつはそうではありませんでした。調査では、残業削減の「しわ寄せ」として、職場にじわじわと広がる変化も記録されています。
| 変化の種類 | どういうこと? |
|---|---|
| 仕事の過密化 | 同じ量の仕事を、短い時間で終わらせなければならない |
| 業務の無機質化 | 「こなすだけ」の仕事になり、やりがいを感じにくくなった |
| 職場の一体感の喪失 | 雑談や助け合いが減り、「チーム感」が薄れた |
これらの変化が積み重なると、どうなるか。調査では「仕事にのめり込む機会」「新しいことに挑戦する機会」の両方が、2018年よりも減っていることが確認されました。報告書はこれを「職場の低体温化」と名付けています。体温が低くなると体が動かなくなるように、職場の「熱」が静かに失われていく——そんなイメージです。
■ もっとも気になる数字——働く人の6割以上が「自分の仕事に意味を感じない」
なんと、一般社員の3人に2人近くが「自分の仕事は意味があるのかな」と疑問を感じている、ということです。これは社会学者デヴィッド・グレーバーの言う「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」という概念に近く、調査でもこの「仕事の無意味さ」が、仕事への集中力や挑戦意欲を著しく低下させることがデータで示されています。
背景には、残業削減に伴う「業務の無機質化」や「職場の人間関係の希薄化」が影響している可能性が高いと、報告書は分析しています。
■ 上司と部下のすれ違い——同じ職場の、真逆の本音
調査で浮かび上がった、もうひとつの問題が「育成・成長のすれ違い」です。
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部下(一般社員)側の感覚
上司に細かく指示されるほど「自分は成長できている」と感じる
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上司側の感覚
細かく指示すればするほど「部下がちゃんと育っていない」と感じる
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部下は「指示に従って仕事を完遂すること=成長」と受け取り、上司は「自分で考えて動ける人材が育っていない」と感じている——報告書はこのすれ違いを「成長錯覚」と呼んでいます。
データが示す「本当に会社で評価される人材」は、自分で考えて仕事に没頭し、自ら挑戦する「自律的な成長」をしている人です。指示待ちの「補助輪付き成長」では、高い評価を得にくい傾向が確認されました。
■ では、どうすればいいのか——「短時間」と「情熱」を両立するために
報告書は副作用を乗り越えるための方向性として、大きく2つを示しています。
① 今の仕事に「のめり込める」環境をつくる
「何を達成すれば完了か」を明確にし、仕事のやり方は社員自身に任せる。上司は細かく管理するのではなく、キャリアへの期待や公平なフィードバックを伝える役割に徹する。
② 新しい挑戦に「踏み出せる」仕組みをつくる
時間の長さではなく、取り組む姿勢や成果で評価する仕組みに変える。突発業務に振り回されないよう組織としてルールを整え、挑戦できる余白を確保する。
そしてこれらの前提として、「無駄だと感じる仕事を減らすこと」が不可欠だと報告書は強調します。AIやデジタルツールを活用して業務プロセス自体を見直し、「この仕事に意味がある」と感じられる職場を取り戻すことが、次の改革の核心だといいます。
まとめ
働き方改革で残業は減り、睡眠・バーンアウト・人生満足度は改善した。しかしその裏で、仕事の密度は上がり、職場の温度は下がり、6割超が「仕事に意義を感じない」状態に陥っている。次の課題は「時間を削ること」ではなく、「限られた時間の中に、やりがいと挑戦を取り戻すこと」だ——この調査は、そう問いかけています。
出典:パーソル総合研究所「働き方改革による就業と意識の変化に関する定量調査」(2026年6月)
調査詳細:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/workstyle-reforms/

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