2019年12月24日火曜日

記事紹介|日本の研究環境の刷新を先導する若手研究者支援策の構築を

今回の年700万円の研究費を10年にわたり支援するという提案自体は、世界の中で違和感はない。むしろ、遅すぎたと言える。そういう前提で、では制度設計上どのようなことを当初から考慮しなければならないかについて考えてみたい。

1 「3年間だけ」は絶対ダメ

まず絶対にそうなってほしくないこととしては、3年間だけ選考して、4年目からはこの制度がなくなってしまうことである。もしそうなると、いわば就職の氷河期と逆な形で、同じような事態が発生する。ある年次の研究者だけにチャンスがあり、その他にはないとなると、研究者間の公正な競争が阻害されるし、研究者の間でモラルハザードも起こり、若手研究者全体の活力に多大な影響を与える。

先進各国が累次の支援を何十年と継続していることから、このことは明らかである。冒頭に紹介した各国以外でも、2001年に創設されたスウェーデンの「未来の研究リーダープログラム」では3年ごとに20人を採択して、プログラム自体はずっと続いている。米国科学財団のキャリア・プログラムは1995年から続いていて、テニュアトラックにのった助教授を対象に毎年600人程度を採用し、5年間に40万ドル(約4400万円)を支援している。

今回の案が経済対策のための補正予算で取り上げられたということは一度限りの措置ということを意味しているが、もしそうであれば、4年目以降は必要とされる金額が大きくなっていくので、補正予算ではなく毎年の本体予算を拡充して必要となる金額を措置するとか、可能な時に必ず補正予算を獲得して基金に積み立てておく、など、しっかりした制度設計を当初にしておく必要がある。首相など政府のトップがその必要性を明確に発言すべき課題でもある。

2 流動性を高める工夫を

日本の大きな課題は研究者のモビリティ(流動性)が低いことである。東大を卒業したら、大学院も教職も東大にいるというようなケースである。学問の専門分野化が進む現在、これでは視野の広い教授がうまれない。

海外に半年なり1年滞在して研究活動を行ったことを今回の支援の申請資格の一つとすれば、海外で武者修行をしようという若手研究者も増えるであろうし、本人にとっても視野を広げるチャンスとなる。欧州での卓越した若手研究者支援プログラムでは、海外経験が当然の前提になっている。今回のような規模のグラントであれば、そうすることも可能ではないだろうか。

また、海外からの申請も受け付けるべきである。その場合、採択後の研究実施場所を日本国内に限ると制限することは政策的にはあってもおかしくない。さらに採択された場合、受け入れ機関さえあればどこに移動して研究してもよいという仕組みも導入すべきである。

3 途中打ち切りはしない、を原則に

最後に、今回の支援は比較的長期であるので、若手研究者には落ち着いて研究してもらう必要がある。そのためには、研究が進展していれば、途中で中間的な評価を行うとしても、基本的には継続して活動できることを原則とすべきである。英国、ドイツ、EUの事例においても透明でない中間評価の結果による支援の打ち切りという話は聞かない。中間評価にあたっては当初から評価基準を明示しておく必要がある。もちろん、その前提として、信念と責任感のある選考委員を見出す見識が資金提供機関に求められる。

(出典)700万円、10年の若手研究者支援策に望むこと - 永野博|論座