2019年12月25日水曜日

記事紹介|舵を切る日本の科学技術政策への期待

日本の科学技術政策がイノベーション創出に大きく舵を切る。

科学技術基本法をもとに5年ごとに科学技術基本計画が作られる。現在は第6期(21年度~25年度)の策定が進む。

2020年の通常国会で、この基本法が初めて改正される。法律の名称も「科学技術・イノベーション基本法」に変わる見通しだ。

今回のイノベーションへのシフトで気になるのは、実用化志向が強まって基礎研究を軽んじる傾向に拍車がかからないかどうかだ。

日本発のイノベーションを真に求めるのなら、基礎研究力を損なわず、産業界を巻き込みながら、長期的な視点も忘れない研究環境の整備に、国はもっと注力すべきだろう。基本法の改正をその変革のきっかけにしてもらいたい。

(出典)「イノベーション」連呼の先 基礎研究の軽視回避を|日本経済新聞


科学技術基本法が、対象分野を「科学技術」に絞り、「人文科学のみに係るものを除く」としている規定をやめようという議論が本格化している。人工知能(AI)や生命科学などが進展し、現代社会の課題を解決していくには人文科学の研究も不可欠になっているという意見が増えてきたからだ。来年の通常国会で改正案が提出される見通しだ。

科学技術基本法は1995年、議員立法で成立した。欧米のような科学技術先進国を追いかけていた時代から、日本が自ら未開の分野を切り開いていく時代になったとし、そのためには科学技術の振興策を総合的、計画的に進める必要があるとした。基本法は、科学技術基本計画を5年ごとにまとめたり、研究者の養成や研究設備を整備したり、そのための予算の確保などをうたう。

第一条の冒頭にあるのが「科学技術(人文科学のみに係るものを除く)の振興に関する施策」という規定だ。内閣府によると、この人文科学は自然科学に対する概念。当時は「人文科学は人間や社会の本質を取り扱うため、自然科学と同列に推進策を講ずるのは適当でない」とされた。

しかし、近年になってこの規定を削除し、対象に人文科学のみの研究も含めるべきだという議論が起こっている。

今年8月、政府の有識者会議でこの規定の扱いが話し合われた。日本学術会議第一部長の佐藤岩夫・東京大社会科学研究所長は「地球規模の環境問題やAI、ゲノム編集技術の発展など、現代の課題に応えるために人文・社会科学が果たす役割は大きい」。大阪大の小林傳司(ただし)教授(哲学)は「理工系と人文系という分け方は粗雑に過ぎる。(ビッグデータを使う情報科学など)社会そのものを実験室とした研究が増え、新しいタイプのサイエンスが生まれてきている」と話した。

一方、例えば自動運転を実用化するときに法律や行政の知識が求められるように、人文科学が「科学技術のしもべ」と見られてきた面も話題になった。田中愛治(あいじ)・早稲田大総長(政治学)は「『どんなイノベーションが必要か』という価値の創造にこそ人文・社会科学が必要だ」と指摘。小林教授も「価値の部分から一緒に(研究を)スタートさせなくてはいけない。人文・社会科学はしもべでも主人でもない」と話した。

有識者会議は結局、「分野融合の推進と、その基盤としての人文科学自体の持続的振興が必要」とし、規定の削除を求める報告書を11月にまとめた。これを受け、内閣府が改正法を提出する見通しだ。

研究現場にはどんな影響があるのか。人文科学を除く規定がある法律は、科学技術基本法のほかに6つある。

理化学研究所や科学技術振興機構の業務範囲などを定めた法律は、今回の報告書を踏まえ、規定を削除する方向で調整中だ。一方、技術士法のように立法の趣旨から考えて改正の必要がないものもありそうだ。

内閣府の担当者は「科学技術基本法は基本理念を定めた法律で、すぐに直接的な施策が出てくるわけではない」と説明する。具体的には、2021年度からの第6期科学技術基本計画で、法改正を踏まえた方針が反映されることになりそうだ。

人文科学を除く表記がある法律
・科学技術基本法
・科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律
・国立研究開発法人科学技術振興機構法
・国立研究開発法人理化学研究所法
・特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律
・技術士法
・一般職の職員の給与に関する法律

(出典)「人文科学のみは除外」規定、科学技術基本法から削除へ|朝日新聞