日本の科学は失速している。一昨年の3月、ネイチャー誌に掲載されたレポートは大きな反響を呼んだ。一般の人たちには驚きを持って迎えられたようだが、多くの研究者にとっては、やはりそうかという感じであった。
『誰が科学を殺すのか』は、企業の「失われた10年」、「選択と集中」でゆがむ大学、「改革病」の源流を探る、海外の潮流、の4章から構成されている。毎日新聞に掲載された「幻の科学技術立国」シリーズが元になった本だ。
大学に関しては、行きすぎた選択と集中、地方国立大学の疲弊、若手研究者の待遇の悪さ、博士課程進学者減少などが紹介されており、内部で実感していることと完全に一致する。
どのテーマについても、客観的かつ冷静な記述と考察がなされている。わかっているにもかかわらずマスコミがなかなか書かなかったiPS細胞関連予算の問題点についても、果敢に踏み込んでしっかりと書かれている。
ネイチャー誌の記事以来、論文数の減少、世界ランキングの順位低下など、大学の凋落は広く報じられている。それだけでなく、企業の研究力も著しく低下していることは知らなかった。これでは完全に総崩れではないか。
豊田長康・元三重大学学長による『科学立国の危機-失速する日本の研究力』は、信じられないほど膨大なデータを基に、失速の原因を突き止め、対策を論じた本である。
結論としては、当然ながら、科学研究力は、結局のところ、研究に投下される資金と従事するマンパワーに依存するということだ。まずはそれを改善しなければお話にならない。
科学技術予算は、過去20年間に、米国とドイツが2倍弱、韓国で5倍以上、そして躍進著しい中国は十数倍にも増やしている。それに対して日本はほぼ横ばいだ。これではとても勝ち目はあるまい。科学立国が聞いてあきれる。
(出典)『誰が科学を殺すのか』~「科学技術立国」の危機|日経ビジネス電子版