2019年12月24日火曜日

記事紹介|日本の大学の未来

さまざまな角度から世界の大学を分析し続ける高等教育研究の第一人者(オックスフォード大学のサイモン・マージンソン教授)に、日本の大学の現状への評価とその未来について語ってもらった。

若手を雇用できない

研究者を産業界に供給する力をみると、日本の大学は弱くなっている。ランキングの順位と、大学や研究現場への公的支出は相関性が高い。研究者の数とランキングの地位も同様だ。

その観点からランキングを見ると、日本は大学への投資が少なく、人が育っていないということができる。ランキングの中でトップ50位どころか、100位の中にも日本はなかなか入らない。基礎科学の力自体は落ちていないのに。大学に投資をしていないということが研究活動に取り組む若手の雇用を減らし、ランキングの順位低下につながっている。それが20年、30年と続いているのではないか。

停滞する日本、加速する世界の変化

明治時代から現在に至るまで、日本は国として統合的な意思決定をしてきた。それを支えているのが東大などで、官僚を送り込んできた。ただ、他の国と同様、大学のガバナンスに関しては問題を感じる。

例えば、学長を選挙で選ぶ慣習だ。非常に大きな研究大学であれば、運営していくための強い能力が必要で、経営力を高めるための経験が欠かせない。そうした経験もなく、いきなり学長になる仕組みがあることは問題ではないか。

選挙制度そのものが悪いと言っているのではない。だが全ての学長は、学長、リーダーとしての訓練を受けた人がなるべきだ。学長に限らず、国、会社でも同じことが言えるだろう。

日本の大学のこれから

1980年代、日本は様々な点から世界を席巻した。経済成長、製品だけでなく、文化的にも音楽や洋服が注目されていた。経済は「ナンバーワン」だと恐れられてもいた。だがそれは、日本の大学がいいから、日本の大学のガバナンスが優れているからだとは誰も思っていなかったはずだ。もちろん大学改革は重要ではあるが、日本の復権を図る中核的要素とは思えない。
シニカルな言い方をすれば、政府は現在の経済の停滞の責任を大学に押し付けている。それが本当のところではないか。

大学の最もイノベーティブな部分は、専門研究と教育にある。健全な科学システムを保持しなくてはいけない。そのシステムを支えるのは、博士課程とポスドクの若い人たちだ。高い研究の質と量を目指そうというカルチャーをつくることが大事だ。

いくつかの大学を指定して、別の役割を与えるのはいい考えだと思う。その場合、旧帝国大学復活のような話は、それ以外の大学とのバランスが必要だ。特に私立が人材養成で果たしてきた役割を考え、どうバランスをとっていくかが大事だ。

エリート大学に入れる人と入れない人の境目をあいまいなままに、研究大学がサイズをどんどん大きくするというのは現実的ではない。とはいえ、人口全体が減り始めているなかで東大に入りやすくなっているのは、才能があるのに入れなかった状況が多少は緩和されるという面もあるから、一概に否定はできない。

人口減少と高等教育との関係を考える際に注意すべきは、大衆向け私立大学が多大な影響を受けていることだ。日本は驚くべきことに、大学数が減っていないどころか、増えている。実に不思議だ。今まで入れなかった人たちが入っているのだろうが、大学に入る準備ができていない人たちなので、より手間がかかるはずだ。

大学は、中世の宗教的な組織から現代まで絶えずその形を変えてきた。通底するのは教育と研究をする複合的な機関であることだ。純粋な知識と応用的な知識を抱えて、中世においては法学と医学が重要だった。現代は、自然科学や人文学のほか、ビジネスや工学などの応用分野もある。教育と研究、社会貢献が大学の中核だ。研究機能のない大学もあるが、常にその機能を持たなければ大学ではない。研究所とも違うし、教育だけの学校とも違い、それらを複合的に持っているのが大学の特性だ。

大学は、公的な仕組みの一つでもある。独立性があり、軍隊とも、財務省や他の省庁とも一線を画している。北京大学を見ると、共産党を中心とした支配システムがあるものの、完全に支配してしまうと学問が潰れてしまうのも党は知っているので、ある程度、自由にすることが認められている。

社会に対する責任、貢献機能はもともと中世ヨーロッパにはなかった機能で、大学がアメリカに誕生してから大きく拡大した部分だ。半面、大学は機能を抱えすぎていて効率的にはなり得ないという見方もある。

ひとこと

ランキング自体には罪はなく、活用する側に問題があるのかもしれない。ともあれ、大学は様々な指標に縛られ、順位向上のため全力疾走を求められるようになった。社会を覆う大学への不信感とコスパ重視の効率主義に気を使いつつ……。機能を抱えすぎた大学は効率的にはなり得ないという、結びの言葉が耳に残る。効率的な大学とは、どんな姿だろうか。そして、それは私たちが望む姿だろうか。(奈)

(出典)異見交論 第2回 オックスフォード大学 サイモン・マージンソン教授 ランキングから見える日本の大学の未来|文部科学 教育通信