2019年12月13日金曜日

記事紹介|危機に瀕する日本の科学技術

ノーベル賞の授賞式が12/11午前0時半(日本時間)からスウェーデンのストックホルムで行われ、化学賞に選ばれた吉野彰さんにスウェーデン国王から記念のメダルと賞状が贈られました。

歓喜に沸く一方、我が国の研究力の低下傾向はまさに危機的状況との厳しい指摘があります。多くの分析から要因は明確になっており、政策決定者(とりわけ財務省)や経済界の重鎮のみなさんには、真摯に受け止め行動していただくことを願っています。(以下最近の関連記事から抜粋引用)


ノーベル賞・吉野彰さん「基礎と応用、両輪が重要」|2019/10/9 日本経済新聞

日本の大学の研究は曲がり角にきている。企業の研究も以前とは違うようになってきた。

基礎研究は10個に1個当たればいい。現状は無駄な部分だけを取り上げられて予算をカットされる。無駄なことをいっぱいしないと新しいことは生まれてこない。

自分の好奇心に基づき、何に使えるかは別にして、新しい現象を一生懸命見つけることが必要。

もう1つは逆で、本当に役に立つ研究。これを実現するためにこういう研究をやらないといけないという。企業でも大学でも同じだ。

この2つがきれいに両輪として動いていくのが理想的な姿だ。(吉野彰さん)


研究は環境問題解決へとつながっていく 吉野彰氏がノーベル賞受賞決定後初の講演|2019/10/17 サイエンスポータル

吉野氏は、IT革命の次にやって来る「ET革命」への期待についても触れた。

ETの「E」はエネルギーや環境(Environment)、「T」はテクノロジーを指すという。

吉野氏は、現在人類の課題となっている環境問題に対して、電池のほかAI(人工知能)やIoT技術などが中心となって大きな変革をもたらすだろうとし、「今後は、環境問題解決に対して切り札となるような技術が出てくるでしょう。

(私に続く)19年後には、環境問題への最大の貢献ということでノーベル賞を受賞する人が出てくるかと思います。

できれば、日本からそういう人が生まれてほしいです」と展望を明快に語り、約1時間にわたる講演を締めくくった。


研究力強化のための大学・国研における研究システムの国際ベンチマーク|JST

欧米に共通しており、日本と大きく異なる点が3つある。

若手人材開発、グローバルな教育研究環境、研究インフラ・プラットフォームに対する考え方である。

これらはいずれも中長期的展望と持続可能性の視点で考えなければならない施策であり、日本の研究システムではこうした視点が欠けていると言って過言でない。

大学や国研は時代の変化を見越した中長期的な持続可能性を考慮した形で自主改革を進めることが切望され、同時に国(政府)はこれを促す制度を導入すべきである。


日本の研究力を損ねた「選択と集中」|2019/9/24 日本経済新聞

米国の歴史学者、ジェリー・Z・ミュラー教授による「測りすぎ」(原題はThe Tyranny of Metrics)という本がある。組織のパフォーマンス評価のため数値目標を掲げた結果、有害な影響が生じることが、学校や病院、警察など様々な職場における多くの実例で示されている。医師が自らの治療成績を高く維持するためリスクの大きな手術に手を出さないという事態が米国ではあるようだ。

数値目標が内包する課題のひとつは、組織や個人のパフォーマンスを測るうえで目標数値が正しい評価指標であるとは限らない点だ。手術の成功率がよい医師であることの指標とは必ずしも言えない場合がある。論文の被引用回数が研究の質を保証しないこともある。本当に知りたいことを測るため、簡単に「測れる」指標をとりあえず代用しているにすぎない場合が多い。

評価の参考のひとつであれば問題はないのだろうが、組織や個人の死命を制する指標として広く使われ出すと、数値目標が独り歩きしパフォーマンスをゆがめ悪影響ばかりが生ずる。

日本の科学技術予算配分をめぐっても、大学と政府の非難合戦にとらわれず、「測りすぎ」の問題を冷静に議論する場が必要ではないだろうか。


ノーベル賞受賞/基礎研究こそ日本の強みだ|2019/10/11 河北新報社説

今年のノーベル化学賞が、旭化成名誉フェローの吉野彰氏(71)に贈られることになった。日本人のノーベル賞受賞は27人目で、自然科学部門の受賞ラッシュが続く。

基礎研究の裾野の広さが改めて評価されたと言えよう。他方で、研究実績の先細りを憂う声も聞かれる。

受賞した内容は30~40年前に取り組んだものが多く、最先端分野では研究費の減少もあって、研究レベルを示す各指標は下がり続けている。

背景には、大学や民間企業でじっくりと専念できる環境が失われている点が挙げられる。目の前の成果を求められ、追い立てられるように論文をまとめるのが普通の光景になった。

日本のものづくりは、こつこつと積み上げられ、築かれてきた。吉野氏は受賞インタビューで「研究開発は時間を要する。リチウムイオン電池も研究から市場に出回るまで15年かかった」と語った。

受賞を機に基礎研究にいそしむ若手に光が当たると同時に、長く時間のかかるテーマが評価され、現場が活気づくことを望みたい。

日本の大学の理系論文数は2000年ごろから横ばいとなり、米国、中国とは比較にならないほど低調だ。

特に他の論文に引用された「影響力のある論文」では、国別ランキングで20年前の4位から11位(16年)に。研究費の減少、国立大学の法人化と軌を一にしている。

国は、研究室が自由に使える運営費交付金を減らしつつ、競争原理を働かせようと複数の学者が獲得を争う競争的資金へのシフトを進める。

獲得できれば大学の予算も潤うため、本部から応募を促され、申請書や報告書作りの雑務に追われて研究の時間は大きく削られた。

競争的資金の期間は3~10年に限られる。研究者の雇用は任期付きとなって、博士号取得後に研究職に就く「ポスドク」の身分は不安定となる。任期切れが近づくと就職先探しを迫られる。

競争的資金は、応募者が増えて倍率が高い。「金なし、研究時間なし、ポストなし」の状況で、博士号取得者そのものが減り続け、論文数の減少につながっている。

「選択と集中」で生産性を高めると国は言うが、学識者からはすこぶる評判が悪い。18年のノーベル医学生理学賞に輝いた本庶佑氏は「1億円を1人にあげるのでなく、10人にあげて10の可能性を追求した方が、成果を期待できる」と話している。

大隅良典氏(16年、医学生理学賞)は「国全体の雰囲気が効率をあまりにも求め過ぎている」と訴える。軌道を修正し、研究と教育のありようについて議論の質を高める時だろう。

分岐点にあるとの危機感を持ち、これからも研究者の笑顔を見続けられるよう厚みのある環境をつくってほしい。


「博士の卵」半減!科学王国日本の超ヤバい未来|2019/09/30 東洋経済オンライン

博士課程を修了しても、安定した就職先に恵まれるのは、10人に1人にも満たないということです。諦めずに研究を続ける人は、40歳を過ぎても、3年から5年の任期付きの不安定な職を転々としています。このような状況で、いったい誰が科学者になろうという夢を持ち続けることができるのでしょうか。

若手研究者の大半が任期付きの研究職で次の仕事に汲々としている状況で、未来のノーベル賞科学者が生まれるはずもありません。

将来の科学者を育てるはずの大学院博士課程で空洞化が進行しています。進学者の絶対数が減っているだけでなく、優秀な人材ほど逃げていく。つまり、質量ともに劣化しているのが、日本の大学院博士課程の実情です。

このままでは、近い将来、日本から科学者が消えてなくなってしまいそうです。