行政書士を考える② AIは「代書屋」を終わらせ、「専門家」を鍛える
前回の記事では、「行政書士とは、行政と市民・中小企業をつなぐパイプ役であり、これからは『代書屋』から『経営パートナー』へと役割を進化させるべきではないか」ということを書きました。今回は、その進化を後押しする大きな要因である「AI」について、改めて考えてみたいと思います。
私なりの結論を先に書くとすれば、こういうことになりそうです。
行政書士という資格や仕事そのものは、なくならないのではないかと思います。ただ、「書類が作れること」だけを価値にしている働き方は、これから少しずつ厳しくなっていくかもしれません。
これは楽観でも悲観でもなく、そろそろ現実として受け止めておいた方がよさそうな話だと感じています。大事なのは「なぜそう思うのか」「では具体的に何をどう変えていけばよいのか」を、自分なりに整理してみることだと思います。
1. AIが奪うのは「仕事」ではなく「作業」かもしれない
行政書士の仕事は、大きく分けると「情報を調べる」「書類を作成する」「手続きを代行する」の3つに分けられそうです。このうち、情報を調べることと書類を作成することは、AIが比較的得意な領域だと感じます。契約書のひな型、遺言書の文案、事業計画書の下書きなど、それらしい文章はAIがどんどん上手に作れるようになってきているように見えます。
そう考えると、AIが代替していくのは「行政書士」という職業そのものというより、「作業としての書類作成」という工程の部分なのではないかと思います。ここを混同してしまうと、「AIに仕事を奪われるか、奪われないか」という単純な二択の話になってしまいがちですが、実際に起きているのは、仕事の中身が少しずつ組み替わっていくということなのかもしれません。
2. 依頼者が本当に求めているのは「書類」ではなく「判断と安心」ではないか
依頼者の立場になって考えてみると、このことが見えてくる気がします。
建設業許可を取りたい事業者が本当に知りたいのは、「自分の会社が本当に許可を取れるのか」「何から始めればいいのか」ということではないでしょうか。相続で混乱している家族が知りたいのも、「何から手をつければいいのか」「揉めずに進めるにはどうすればいいのか」といったことだと思います。
たとえば「家族信託をやりたい」という相談を受けたとき、言われた通りに信託契約書を作るだけでは、少し足りないことがあるように思います。話を深く聞いていくと、本当の悩みは、親が認知症になったときに通帳が動かせなくなるのが怖い、家族の中で世話をしている人とそうでない人の間に不満がある、といった別のところにあることも少なくありません。
つまり、行政書士の仕事の本質は、依頼者の言葉をそのまま書類にすることというより、その言葉の奥にある本当の不安を聞き取り、必要な制度や手続きに「翻訳」していくことに近いのではないかと感じます。情報を集め、選び、順序を組み立て、外部に伝わる形に変換していく——この工程こそが、行政書士の仕事の核なのかもしれません。そう考えると、AI時代にますます大事になるのは、AIに何を作らせるかを決める「問いを立てる力」なのだろうと思います。
3. AIには埋めにくい「3つの現場」があるように思う
では具体的に、AIのどこに限界がありそうでしょうか。私は大きく3つあるのではないかと考えています。
①要件を満たしていないところからの突破
AIに「この許可の要件は何ですか」と聞けば、かなり正確な答えが返ってきます。しかし、依頼者がその要件を満たしていない場合、AIは「書類が足りないので要件を満たしません」と答えるところで止まってしまいがちです。実際の現場では、過去の議事録や通帳の取引履歴といった代わりになる資料を探したり、当時の関係者に証明をお願いしたり、役所と粘り強くやり取りしたりしながら、少しずつ突破口を探っていきます。この「事実を掘り起こす」「代わりの方法を考える」という作業は、与えられたデータだけでは完結しにくい領域なのではないかと思います。
②地域ごとのルールと行政の裁量
法律や公式の手引きには書かれていない、自治体ごとの運用の違いや、担当者の裁量、「こうすれば認められることが多い」といった明文化されない着地点があります。これはインターネット上にはあまり載っていない、現場を通してしか掴みにくい情報のように感じます。
③最終的な責任の所在
AIは条件を処理することはできても、その結果に責任を持つことまではできません。AIの答えをそのまま採用してしまうのは、専門家としての判断を手放すことに近いのではないかと思います。どれだけAIが整った書類を作っても、それが結果として誤った申請につながれば、不利益を受けるのは依頼者本人です。その申請が正しいと確認し、責任を引き受けること自体が、国家資格者としての価値の一つなのではないかと感じます。
この3つはいずれも、AIは地図を描くことはできても、実際にぬかるんだ道を歩き、目の前の壁を交渉で乗り越え、依頼者を目的地まで導く「伴走者」にはなりにくい、という一点に集約されるように思います。
4. どの実務分野を選ぶとよさそうか
具体的にどの分野を選ぶとよいかについても、少し考えを整理しておきたいと思います。AIに代替されにくい分野には、共通して「要件の個別判断が必要」「証拠資料の確認が必要」「現地を見る必要がある」「許可後も継続的な支援が必要」といった特徴がありそうです。
- 比較的代替されにくそうな分野:建設業許可、産業廃棄物の許可、運送業の許可、在留資格、農地転用など。依頼者ごとの事情が大きく異なり、現地確認や自治体ごとの運用の違い、証明資料の個別判断が欠かせません。
- 単体では価格競争になりやすいものの、組み合わせると強くなりそうな分野:補助金の申請支援、ドローンの飛行許可、会社設立や契約書の作成など。ある程度テンプレート化しやすく、依頼者自身やオンラインサービスでも対応できてしまう部分があります。
- 相続・遺言:人間的な安心感という価値が大きい一方で、登記は司法書士、税務は税理士、揉め事は弁護士という、他の専門家との境界線を意識することが大切だと感じます。
これは、前回の記事で挙げた「補助金・助成金」「建設業許可」「空き家・地方創生」「高齢者・障がい者の権利擁護」「新技術のニッチ市場」といった重点分野と、かなり重なっているように見えます。経営の視点から考えた結論と、AIへの耐性という技術的な視点から考えた結論が、似たところに行き着くのは興味深いことだと思います。
5. AIを「使わない」ことのリスクと「使う」ことの効能
一方で、AIそのものを敵視してしまうのも、あまり得策ではないように思います。AIを避け続けると作業に追われ続けてしまい、その作業の多くはAIの方が安く速くこなしていく可能性があります。逆にAIをうまく使いこなせれば、依頼者の表情を見る、本音を聞く、言いにくい不安を拾う、といった「人間らしい仕事」に、より多くの時間を使えるようになるのではないでしょうか。
そもそも、手続き(作業)に時間を費やせば費やすほど収益性が下がっていくという構造自体から、少しずつ抜け出していく必要がありそうです。AIによって「作成」の部分が楽になった分、人間は「意思決定」と「関係構築」の方に力を注いでいくのが自然な流れだと思います。資格は、ただ従事するものというより、案件を流通させ、専門家同士をつなぐビジネスのハブとして「利用するもの」だという捉え方は、前回述べた「ネットワーク・オーケストレーション力」や「経営者としての視点」と重なる部分があります。
もう少し具体的に言うと、AIを使えば、自分の専門分野に特化した発信、相談前のヒアリングシート、手続き別のチェックリスト、よくある質問への回答集などを、比較的短時間で作れるようになります。これらは「相談の入り口」を増やすための道具になり、待ちの営業から少しずつ抜け出すきっかけになりそうです。ただし、AIが出す文章はどうしても一般論になりがちなので、そこに自分自身の経験や実際に見てきた事例を重ねて初めて、「この人に相談したい」と思ってもらえる内容に近づくのだろうと思います。
6. 高齢者・弱者との接点という、もう一つの現実
もう一つ、大事にしたい視点があります。「大事なことはプロに確実にやってもらいたい」という依頼者は、これからもなくならないだろうと思います。特に高齢者の方は、AIを使いこなすこと自体が難しく、仮に使えたとしても、出てきた答えの意味を理解しづらいことも少なくありません。こうした方々に対して、状況に合わせて分かりやすく説明する役割は、今後もAIだけでは担いきれない部分ではないかと感じます。これは、前回挙げた「高齢者・障がい者の権利擁護」や「認知症・介護」といった分野の大切さを、現場の感覚から裏づけるもののように思います。
7. 覚悟としての行政書士——資格の「使い方」を持つ人が残っていくのではないか
最後に、もう一つ視点を付け加えたいと思います。行政書士の独占業務は、突き詰めれば書類を作ることであり、その部分は少しずつAIに置き換わっていくのかもしれません。それでも資格を目指す意味があるとすれば、資格そのものを売るというより、これまでの現場経験——たとえば現場の仕組みづくりや、人のまとめ方、利用者対応といった、AIには作りにくい経験知——を届けるための「切符」として資格を位置づけられるからではないかと思います。
専門性というのは、資格そのものというより、資格という通路を通じて何を運ぶか、という問いに行き着くものなのかもしれません。
まとめ:AIは行政書士を終わらせない。むしろ「言い訳」を終わらせるのではないか
ここまでの内容を整理すると、AI時代の行政書士について、次の3つのことが言えそうです。
- AIが代替していくのは「作業」であり、「専門家としての判断・責任・関係構築」までは代替しきれないのではないかということです。要件を満たさない依頼者からの事実の掘り起こし、地域ごとのルールとのやり取り、誤った申請の責任を引き受ける覚悟——これらはAIが苦手としがちな、現実の泥臭い領域だと思います。
- 依頼者が求めているのは、書類そのものというより、判断と安心なのではないかということです。言われた書類をそのまま作るのではなく、依頼者自身も気づいていない本当の課題を聞き取り、制度の言葉に置き換え、必要に応じて他の専門家につなぐ——この一連の設計力が、AI時代に価値を持ち続けるのではないかと思います。
- 分野選びも働き方も、「単発の作業」から「継続的な運用支援・仕組みづくり」へ少しずつ移していけるかどうかが、分かれ目になりそうだということです。要件判断と現地性が強い分野を軸にしながら、補助金や契約書、IT導入支援などを組み合わせ、AIを発信と効率化のための道具として使いこなし、資格を経営の核として活かしていく視点が大切になっていくのではないでしょうか。
前回の記事で書いた「代書屋から経営パートナーへ」という方向性は、AIという具体的な変化を通して見ても、それほど揺らがないように感じます。むしろAIは、これまでなんとなく見えにくかった差——本当に依頼者と向き合ってきた行政書士と、作業だけをこなしてきた行政書士との差——を、少しずつ浮き彫りにしていく装置なのかもしれません。
AIは、行政書士という仕事を終わらせるものではなさそうです。むしろ、行政書士の中にあった「言い訳」の方を、少しずつ終わらせていくものなのではないかと思います。

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