「学生のため」が大学を潰す? 大学無償化制度の知られざる副作用

大学無償化、聞いたことありますか?

「大学無償化」という言葉、ニュースなどで耳にしたことがある人は多いと思います。正式には「修学支援新制度」と呼ばれるこの制度、実は今、思わぬ形で大学の統廃合を加速させているのをご存じでしょうか。

今回は、この制度がどんな経緯で生まれ、なぜ「学生のため」の仕組みが大学を苦しめる結果になっているのかを、できるだけわかりやすく整理してみます。

そもそもどんな制度?

2020年度に始まったこの制度は、低所得世帯の学生を対象に、次の2つの支援をセットで行うものです。

  • 授業料の減免(私立大学の場合、最大で年約70万円)
  • 返済不要の給付型奨学金(私立大学の場合、最大で年約91万円)

住民税が非課税の世帯を中心に、年収に応じて段階的に支援額が決まる仕組みです。

効果は劇的でした。非課税世帯の子どもが大学や短大などに進学する割合は、制度導入前の約40%から、直近では推計63%まで上昇しています。利用した学生の3人に1人は「この制度がなければ進学をあきらめていた」と答えているというデータもあり、経済的な理由で進学を諦めていた家庭にとって、まさに画期的な政策だったと言えます。

実はかなり急ごしらえだった

この制度、実は消費税率が8%から10%に引き上げられるタイミングで、その増収分の一部を財源に、選挙前に急遽打ち出された目玉政策としてスタートした経緯があります。

制度の骨格が固まったのは、方針が示されてからわずか2カ月後。予算規模の大きな一大事業にもかかわらず、非常に短期間で設計が進められたため、既存の仕組みとの整合性をとるのに担当者たちが苦労した、というエピソードも残っています。

「学生のため」のはずが、大学への圧力の道具に

制度がスタートした当初から、支援を受けるには大学側が一定の条件(機関要件)を満たす必要がありました。たとえば「外部人材を理事に2人以上入れる」「実務経験のある教員の授業を一定単位数以上用意する」といった内容です。

これに対しては、大学関係者から「学生を人質にとるような要件だ」「大学の自治に踏み込みすぎている」といった反発もありました。それでも、「学生のためになるなら」と、多くの大学が渋々この条件を受け入れて制度に参加してきたのです。

そして問題はここからです。

この制度を利用する学生の割合は、国立より私立、大規模大学より小規模大学、大学より短大や専門学校で高い傾向がはっきりと出ています。つまり、経営基盤がもともと弱い学校ほど、この制度への依存度が高いということです。

にもかかわらず、直近3年連続で定員充足率が8割を下回った大学などは、自動的に制度の対象外にするというペナルティーが導入されました。対象外になると、在学中の学生は支援を受け続けられますが、その後に入学してくる学生は支援を受けられなくなります。

「荒療治」がもたらした結果

行政側の理屈はこうです。「学生が集まらなければ学費収入が減り、経営が悪化する。設備や教員にお金を回せなくなれば教育の質も下がりかねない。だから定員割れが続く大学にはプレッシャーをかけて、改善を促す必要がある」と。

しかし実際に起きたのは、学生募集を停止する短大や大学の急増でした。特に、地方にあったり知名度が低かったりして、もともと学生集めに苦労していた小規模な学校ほど、このペナルティーを受けると相次いで閉校を決めていったのです。

考えてみれば無理もありません。仮に在学生の1割がこの制度の支援を受けていた大学が対象外になれば、翌年度から一気に入学者の1割相当が減りかねないということです。毎年の学費収入でぎりぎり経営を維持してきたような学校にとって、これは耐えられない打撃になります。

「学生のため」の制度が、進学先を減らす皮肉

整理すると、こういう構図が見えてきます。

  • 学生の進学を後押しするために作られた制度が
  • 経営の厳しい大学への「圧力装置」として使われた結果
  • かえって学生の進学先の選択肢を狭めてしまっている

学生を支援するはずの仕組みが、回り回って学生の可能性を狭める方向に働いている——これはなんとも「ちぐはぐ」な状況だと言わざるを得ません。

もちろん、経営が立ち行かなくなった大学が学生を抱えたまま突然閉鎖してしまうような事態は避けなければなりません。ただ、「残すべき大学」と「撤退を促すべき大学」を、定員充足率という一つの物差しだけで判断してよいのか。教育の中身や、地域にとっての存在意義といった側面が、もっと丁寧に評価されるべきではないか——そんな問いを、この制度の歩みは投げかけています。


出典:「学生のため」の制度が大学を追い詰めた 修学支援新制度という名の"荒療治"、AERA dot.、2026年7月5日
https://dot.asahi.com/articles/-/285578?page=1

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