学校法人旭学園 中期計画所見 - 令和7年度決算は何を裏付けたか
学校法人旭学園が公表した「中期計画(2026〜2030年度)」を読み、私なりに評価をまとめてみました。さらに、同時期に公表された令和7年度事業報告書・決算書類と突き合わせることで、「この計画は現実を見据えたものだったのか」を検証してみたいと思います。
1. 中期計画とは何か
まず前提として、この「中期計画」は旭学園が独自に思い立って作った任意の文書ではなく、私立学校法の制度の中で作成が求められている文書だという点を押さえておきたいと思います。
2019年(令和元年)の私立学校法改正により、事業に関する中期的な計画の作成という考え方が法律に盛り込まれ、2020年4月から施行されています(なお私立学校法はその後、令和5年改正を経て条文構成が整理されている点には留意が必要です)。この改正では、文部科学大臣が所轄庁となる学校法人について、中期的な事業計画の作成が制度上求められることとなり、しかもその作成にあたっては学校教育法上の「認証評価」の結果を踏まえることとされています。背景には、私立大学の経営破綻や運営を巡るトラブルが相次いだことを受けて、理事会が中長期的な視点に立った計画的な経営を行い、学生の学ぶ権利を守るべきだという文部科学省の問題意識があります。文部科学省の審議会では、計画期間は原則5年以上とし、教学・人事・施設・財務等の事項を盛り込むことが望ましいとされています。
旭学園は、学校教育法上「大学」の一種とされる佐賀女子短期大学を設置していることから、もともと文部科学大臣所轄学校法人にあたり、この中期的な計画の作成が求められる立場にありました。今回、武雄アジア大学の開学により、中期計画の中で扱う経営課題はさらに大きくなったことになります。つまり今回の中期計画は、旭学園が自主的な広報として発信したものであると同時に、私立学校法の制度の下で作成される中期的な事業計画でもあるわけです。この点を踏まえると、計画の中身がどこまで具体的で実効性のあるものになっているかは、単なる「経営方針の表明」以上に、学校法人に期待されるガバナンス上の説明責任を果たせているかという観点からも問われることになります。
その上で、武雄アジア大学の開学という大きな転換期を迎えた旭学園が、少子化という厳しい経営環境の中で、5つの設置組織(武雄アジア大学、佐賀女子短期大学、佐賀女子高等学校、ふたばこども園、ひしのみこども園)を今後5年間どう運営していくかを示したのが、今回の中期計画です。まずはこの計画そのものについて、私が評価できると感じた点、疑問に感じた点を整理します。
2. 評価できると感じた点
危機感の表明が率直である
少子化で経営が厳しいことを冒頭で正直に認めた上で、武雄アジア大学の開学を軸に学園全体を立て直そうとする姿勢は、対外公表資料として誠実だと感じました。厳しい現実を隠さず前面に出している点は好感が持てます。
大学・短大・高校・こども園を「ひとつの経営体」として設計している
高校から短大・大学への進学導線、こども園から高校の保育士養成への連携など、5つの学校を線でつなぐ発想は、少子化時代に系列校同士で生徒・学生を奪い合うのではなく囲い込む戦略として合理的だと思います。
武雄アジア大学を「地域と組む大学」として位置づけたこと
武雄市と組んで「武雄プラットフォーム」「武雄モデル」を作るという構想は、単なる新設大学のPRを超えて、地域そのものの評価向上と大学の評価向上を両輪で回そうとする発想であり、学園の個性になり得ると感じました。
現場レベルの数値目標は具体的
短大の「定員充足率100%」「中途退学率3%以下」、高校の「新入生270人維持」「看護師国家試験合格率95%以上」など、達成度を後から検証できる目標が並んでいる点は評価できます。
3. 疑問に感じた点
一方で、読み進めるうちにいくつかの違和感も覚えました。
財務計画の具体性は限定的であるように感じた
これが最も気になった点です。文部科学省の審議会では、中期計画には財務を含めた事項を盛り込むことが望ましいとされていますが、新しい大学を作るという学園にとって最大級の投資を行う中で、「財務内容の改善に関する計画」はわずか数行にとどまっています。いくらお金がかかるのか、どこから資金を確保するのか、万が一学生が集まらなかった場合どこまで耐えられるのか――こうした、経営としていちばん知りたい部分の説明が「収支バランスを図る」「外部資金を増やす」という比較的抽象的な言葉にとどまっている印象を受けました。
KPIが示されていない目標が多い
特に新設の武雄アジア大学に関して、「検討する」「推進する」という表現が目立ちます。「地域研究で国内トップクラスを目指す」という目標を掲げていながら、それを何で測るのか(論文数か、外部資金獲得額か、留学生数か)という指標は示されていません。そのようにも受け止められるのですが、目標を掲げるだけで達成できたかどうかを後から検証しにくい構成になっていると感じました。
「うまくいかなかった場合」の想定が見当たらない
定員割れが起きた場合にどうするか、というリスクシナリオが見当たりません。書かれている「危機管理」は災害対応や留学中のトラブル対応が中心で、経営上のリスクへの備えは手薄に見えました。少子化という「確実に起きるとわかっている危機」に対して、これは物足りない部分だと感じます。
計画発表の時点では、こうした財務の具体性の乏しさ、KPIの不足、定員未達時の想定が見当たらないという3点が、実際にどう影響するのか気になっていました。
4. 令和7年度決算が語る「現実」
そんな折、同時期に令和7年度の事業報告書・決算書類が公表されました。これを読むと、上記の懸念と重なる傾向がどう表れているかがかなり具体的に見えてきます。
武雄アジア大学 ― 懸念と重なる厳しい結果
事業報告書には次のように率直に書かれています。
学生募集活動については、受験生が志望校を決定する7月の三者面談後の9月からの開始というハンデや、武雄アジア大学の校舎が未完成で具体的な施設の様子を見られないことなどもあり、入学定員140人に対して37人という極めて厳しい入学者の状況となった。
入学定員140名に対し37名、充足率わずか26.4%。 財務概要の「経営状況の分析」でも、法人自らが「開学初年度の入学者数は定員の30%を下回っている」と明記しています。
もちろん、研究水準と入学者数は本来別の指標です。しかし、大学経営という観点では、教育・研究活動を支える学生確保は重要な前提条件であり、その意味で初年度の募集結果は看過できない数字だと感じます。中期計画では「地域研究の拠点として国内トップクラスの評価を目指す」という目標が掲げられていましたが、それを測る具体的な指標は示されていませんでした。今回の結果は、大学の将来像を示す目標だけでなく、その進捗を客観的に検証できるKPIをあらかじめ設定しておくことの重要性を改めて示したように思います。
短大・高校・こども園 ― 現場は踏ん張っている
一方、既存の4部門は概ね堅調です。
- 短期大学:入学者182名(定員充足率1.07倍)。前年度の142名から40名増加し、外国人留学生の増加が寄与しました。ただし退学者は5名から9名に増加。
- 佐賀女子高等学校:新入生270名で目標を達成(ただし前年より28名減)。衛生看護専攻科の看護師国家試験合格率97%(全国平均93%)、美容師国家試験完全合格率93%など、資格系の実績は良好です。
- ふたばこども園:年度当初248名→年度末270名。定数255名の目標をクリアしました。
- ひしのみこども園:58名→65名。定員75名には届かず未達。多久市の人口減少という構造的な逆風が背景にあります。
つまり、中期計画が具体的な数値目標を置いていた既存部門は、おおむね計画どおり、あるいはそれ以上の結果を出しています。これは「短大・高校のKPIは比較的具体的だった」という当初の印象と整合します。
財務諸表が示す数字 ― 財務概要が整理している経営上の課題
決算書類から重要な指標を拾うと、次のような姿が見えてきます。
| 指標 | 令和7年度 | 全国平均 | 評価 |
|---|---|---|---|
| 経常収支差額比率 | △13.3% | △7.4% | 全国平均より悪化 |
| 人件費比率 | 70.4% | 62.7% | 全国平均を大きく上回る |
| 学生生徒等納付金比率 | 42.2% | 53.1% | 自己財源比率が低い |
| 経常費補助金比率 | 48.5% | 32.5% | 補助金依存度が高い |
| 積立率 | 18.0%(2021年度50.3%) | ― | 急激に低下 |
| 教育活動資金収支差額比率 | 4.0% | △0.4% | 全国平均より良好 |
財務概要の「経営状況の分析」では、次のような課題が分析・整理されています(要旨)。
- 経常収支差額比率は全国平均より悪い水準にある
- 学生生徒等納付金比率は全国平均より低く、補助金比率は全国平均より高い=国・県の補助金政策の動向に経営が左右されやすい体質である
- 人件費比率は全国平均を上回っている
これは、私が中期計画を読んで感じた「財務計画の具体性の乏しさ」「補助金依存のリスク」という懸念と重なるものです。指摘が的外れな批判ではなく、財務概要の中で法人自身もこうした課題を分析・整理していることが確認できたのは、率直に言って興味深い点でした。
累積の赤字(繰越収支差額)も、前年度の△30億6,867万円から今年度は△35億8,345万円へと、1年間で約5億1,478万円悪化しました。総資産は武雄アジア大学の校舎完成により大きく増加しましたが、これは主に施設設備の会計上の評価額が増えたためであり、経営体力を示す「運用資産余裕比率」はむしろ低下しています(2021年度の1.7年分から2025年度は0.2年分へ)。ただしこの低下は、大学建設という大規模投資によって分母となる経常支出や必要資金の規模が拡大した面もあり、単純に「蓄えが目減りした」というだけでなく、大学整備投資の影響も含めて理解する必要がある数字だと思います。
5. 中期計画の懸念と決算結果を突き合わせる
私が計画を読んだ時点で感じた疑問と、決算の実際を並べてみると、次のようになります。
| 中期計画への疑問 | 令和7年度決算での実際 | 評価 |
|---|---|---|
| 財務計画の具体性が乏しい | 経常収支悪化・補助金依存を法人自身が分析 | 懸念と重なる |
| 大学のKPIがない | 初年度充足率26.4% | 懸念と重なる |
| リスクシナリオがない | 定員3割未満という事態が発生 | 懸念と重なる |
| 短大・高校のKPIは具体的 | 概ね目標達成 | 評価どおり |
| 地域連携構想 | 着実に実施 | 評価どおり |
6. 見落としてはいけない一点:「黒字」という言葉のギャップ
事業報告書には「資金収支では黒字となった」という記述がありますが、これは注意して読む必要があると感じました。
決算書を見ると、学園全体の年間の現金残高(翌年度繰越支払資金)はむしろ約3,038万円減少しています(前年度末6億6,579万円→今年度末6億3,541万円)。これは大学キャンパス建設という大規模な投資(施設整備支出約22億1,099万円)を行ったためで、決して不自然なことではありません。建設資金には補助金や借入金、積立資産の取り崩しなどが充てられているため、施設整備支出の額と現金残高の増減は一致しません。
一方で、教育活動そのもの(本業)の資金収支は黒字幅が拡大し、比率にして4.0%と全国平均(△0.4%)を上回る水準になっています。「教育活動資金収支差額が黒字である」ことと「学園全体の支払資金残高が減少している」ことは、それぞれ別の指標が別の側面を示しているものであり、両者を混同しないことが大切です。本業の日々の運営は健全化している一方、大型投資を含めた法人全体の資金繰りは厳しさを増している、というのが正確な姿だと思います。
「黒字」という言葉だけを見て安心してしまうのは早計で、何の黒字かを区別して理解する必要がある、というのが今回の決算から得た教訓の一つです。
7. 総括
中期計画を読んだ時点で私が感じた「財務計画の具体性の乏しさ」「大学のKPI不足」「リスクシナリオの欠如」という3つの疑問は、私が感じた懸念と重なる傾向として、初年度決算の数字にも表れていました。特に武雄アジア大学の入学者37名(定員充足率26.4%)という結果は、中期計画に掲げられた「国内トップクラスの評価を目指す」というビジョンと、大学の船出の現実を象徴する出来事だと感じます。
一方で、短大・高校・こども園という既存部門は、地道な数値目標をおおむね達成しており、法人の「基礎体力」自体は保たれています。財務面でも、総負債比率や基本金比率といった「守りの指標」は健全ですが、経常収支差額比率・人件費比率・補助金依存度といった「経営の持続可能性」を示す指標は全国平均を下回っており、これは財務概要の中で法人自身も分析・整理しているところです。
もともとこの中期計画は、私立学校法の制度の下で作成される中期的な事業計画であり、認証評価の結果を踏まえて理事会が中長期的な経営責任を果たすためのものです。単なる広報文書ではなく、学生・生徒・保護者、そして地域社会に対するガバナンス上の説明責任の一環として作られたものだということを踏まえると、財務の具体性やリスクシナリオの乏しさは、なおのこと軽視できない課題だと感じます。
8. 学園に望むこと
以上を踏まえ、私は次の3点について、中期計画そのものの見直し・具体化を求めたいと思います。
第一に、財務計画を数値で語り直してほしい。
「収支バランスを図る」「外部資金を増やす」といった表現だけでなく、今後5年間の資金収支の見通し、借入金の返済計画、武雄アジア大学が定員未達のまま推移した場合の損益シミュレーションなど、具体的な数字を伴った計画に書き改めてほしいと考えます。文部科学省の審議会が中期計画に財務を含めた事項を盛り込むことが望ましいとしているのは、学生・保護者・地域社会に対して説明責任を果たすという趣旨にも沿うものだと考えます。
第二に、武雄アジア大学のKPIを再設定してほしい。
「国内トップクラスを目指す」という目標のままでは、5年後に何をもって成功・失敗を判断するのかが誰にも分かりにくいと感じます。定員充足率、研究業績、外部資金獲得額など、測定可能な指標を年度ごとに定め、進捗を公表していただきたいと思います。初年度に定員充足率26.4%という厳しい結果が出た今こそ、目標を具体化する好機だと考えます。
第三に、定員未達を前提としたリスクシナリオを明記してほしい。
今回、極めて厳しい結果が実際に起きたことで、「起きてから考える」のではなく「起きる前提で備える」ことの重要性が示されたように思います。定員充足率が一定水準を下回った場合の対応方針(学科・コースの見直し、募集戦略の転換、財務上の措置など)を、あらかじめ計画に盛り込むべきではないでしょうか。
学園は「3年目に中間評価を行う」としていますが、今回の決算結果を踏まえれば、その中間評価を待たずに、来年度の事業計画の段階から具体的な見直しを進めることが望ましいと私は考えています。
出典:学校法人旭学園 公式サイト-情報の公表
https://www.asahigakuen.ac.jp/asahigakuen/jyouhou/jyouhou_top.php
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